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- 2018.07.12 Thursday
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☆火星人絶滅。火星植民地化時代 「月は今でも明るいが」〜「鞄店」
(読書会(2)〜(4))
★2031年4月 「第三探検隊」 第三次火星探検隊 16名全滅
fee「さぁ、いよいよ第三探検隊が火星に来ましたね」
残響「この話、凄く良いんだよなぁ……」
fee「うん、この話は僕も大好きです」
残響「第三探検隊が、火星に到着してみると、そこは1950年代のアメリカの街並そっくりだった……という物語ですが、この【古き善きアメリカ】の描写が凄く良い」
fee「懐かしくて、感傷的で……これぞブラッドベリ、という感じの描写です。こういうのを描かせたら本当に巧い。宇宙に行ったはずなのに、地球そっくりの街並みが〜というのは*『ドラえもん』にもあった気がしますが、もちろん『火星年代記』の方が先です」
残響「あぁ、ありましたねぇ。懐かしい」
fee「50年代の街並に戸惑う第三探検隊の前に、亡くなってしまった隊員たちの家族やら何やらが出てきます。ブラック隊長が制止しているにも関わらず、ひょこひょことついて行く隊員たち……」
残響「そりゃあ、ついていくでしょう……。これは食らいますよ」
fee「待てあわてるな、これは火星人の罠だ」
残響「と言ったってねぇw そんなブラック隊長も、懐かしい家族が出てくると……」
fee「ここ良いですよね。全文引用したいぐらいですが、長くなるのでこまめに中略を入れながら引用します。P96、16行目、
「何だと?」ジョン・ブラック隊長はよろめいた。
「ジョンじゃないか、こいつ!」青年は駆け寄り、隊長の手を握って、背中を叩いた。(略)
兄と弟は互いに手をとりあい、抱擁し合った。「エド!」「ジョン、こいつめ!」
「元気そうだね、エド」(略)
「ママが待ってるよ」と、エドワード・ブラックはにやにやしながら言った。
「ママが?」
「パパも待ってる」
(略)
「わあ! よし、玄関まで競走しよう!」(略)
「勝ったぞ!」とエドワードは叫んだ。「ぼくはもう年寄りだもの」と隊長はあえいだ。
「兄貴はまだ若いじゃないか。でも、昔も、ぼくがいつも負けていたっけね、思い出した!」
戸口にはママ。桃色の頬、肥った体、輝かしい姿。そのうしろにパパ。胡麻塩あたま。手にはパイプ。「ママ、パパ!」
隊長は子供のように階段を駆け上った
」
残響「隊長がかわいい。『火星年代記』に出てくる隊長はみんな結構かわいいんですけど、このブラック隊長もすごくかわいいですね」
fee「80歳なのに、童心に帰っちゃって……」
残響「そんなお年だったんですかw この、ママ、パパという呼びかけもいいですなぁ。グッとくるものがありますね」
fee「ここでちょっと水を差すような事を言いますけど、『1927年より新らしいものは一つもないでしょう?』という一文は、ちょっとまずい気がしますね」
残響「あっ、これは……」
fee「新版のブラック隊長は1951年にイリノイ州で生まれた事になっていますが、旧版は1920年の生まれです。描写とかはそのままで、31年だけ追加したものだから……」
残響「なんて杜撰なんだ!」
fee「この街はブラック隊長の子ども時代の町なので、ブラック隊長が1951年生まれだとすると、1926年の街並みが出てくるはずはないんですよ。街の描写自体は手を入れていないので、1920年代の街並みの描写を、無理やり1957年ということにしてしまった。ただ、やっぱりどう読んでも、1920年代の街並みを1957年だと言い張るのは無理がありますよね」
残響「世界大戦を挟んでいますからね。1926年じゃ世界大恐慌よりも前でしょう?」
fee「そうです。なので、苦し紛れにここだけ『1927年より新らしいものは何一つないでしょう?』 と31年足さずにそのままにして、1920年代の風景が広がる50年代の田舎町だという事にしているんですが……その言い訳で納得してもいいけど、やっぱりちょっと辛いw」
残響「考えれば考えるほど、31年足す必要があったのかという疑問が……」
fee「ですよねぇ。たとえば今、『新世紀エヴァンゲリオン』を見たとしても、別に萎えたりしないでしょ? パラレルワールドだと思って見ますし」
残響「そうですよ。何の問題もない」
fee「まぁ、この31年追加事件でブラッドベリをいじめるのはこのぐらいにしますかw 作品に戻りますが、この後の展開が……」
残響「とても怖いですよね。アーカムハウス出身の片鱗というか」
fee「一番最後がものすごく怖いんですけど。なんで火星人は泣いてるんですか? P106、3行目
泣きながら教会へむかって歩き出した。教会では新らしい墓穴が掘られ、新らしい墓標が立てられた(略)。市長が短かい悲しい演説をした。(略)「十六人のすばらしい人たちが、昨夜、思いもかけず急死し――
思いもかけずって、殺したのは火星人でしょ? マジで、何で泣いてるんですか? 怖すぎでしょ」
残響「地球式の葬式をしているのも謎ですよね」
fee「ほんとにね。火星人たちが祝杯をあげていれば、別に怖くはないんですよ。火星人が第三探検隊を殺したというだけの話になるので。でも、なぜか火星人が泣いている。意味がわからない。それが怖い」
残響「不条理ホラーというか……不気味ですよね。地球人の真似をしたんでしょうけど、真似をする必要がどこにもないし……。少しページを戻しますが、隊長が死ぬ前に、色々と考えているシーンがあるじゃないですか。これはひょっとして火星人の罠なんじゃないか、と延々数ページにわたって考えている。そして、いよいよ逃げ出そうと決意したその時に……」
fee「『どこへ行く? 兄の声はひどく冷たかった……』」
残響「そうそうw」
fee「
『水を飲みに』
『でも喉がかわいてないだろう?』
『いや、かわいてるよ』
『いいや、かわいてない』
この『いいや、かわいてない』も怖いw」
残響「脅迫ですよねもうw しかしこの作品って、ブラッドベリ的にとても贅沢な作品だなあと思います。途中まではブラッドベリらしい、ロマンチックな良い話で、途中からホラーになってる。しかもちゃんとSF連作の中で意味のある作品になっていますし……」
fee「ブラッドベリのいいとこどり、みたいな作品ですよね。さて、そんなわけで第三探検隊も全滅したわけですが……今回はどう見ても火星人側が迎撃態勢を整えていますね」
残響「そうですね。完全に地球人を敵とみなして、殺す気まんまんで来ていますよね」
fee「ここで翻って疑問なのが、第二探検隊……あの、精神病院に入れられちゃう話ですが、あれは火星人の迎撃だったのか?という事です」
残響「いや、あれは……多分違うけど、わからないな。どうなんだろう? もしそうすると、演技で地球人をたらいまわしにしたってことですか?」
fee「うん。多分、素だとは思うんですけど、ひょっとして演技だったかもしれない……そう考えると、それはそれで怖いなと……」
残響「確かに怖いw」
fee「まぁ正解はないんですけどね。では次の……次も語る事がたくさんありそうですね。『月は今でも明るいが』に移ります」
*1 のび太が天才になっていたり、性別が入れ替わったりしているという。(fee)
★2032年6月「月は今でも明るいが」 火星人滅亡 第四探検隊、火星に到着
fee「第四探検隊が火星に到着します。この作品に出てくるワイルダー隊長、ハザウェイ、サム・パークヒルの3人は、この後の短編でも登場しますので覚えておいてください。そういう意味でも大事な短編です」
残響「火星人が絶滅しちゃってますね……水疱瘡なんかで……」
fee「火星人の絶滅についてはすみませんがちょっとおいといて、第四探検隊は今まで以上にキャラクターが立っているなぁと。今までは、隊長ぐらいしか出番がなかったので……」
残響「確かにw」
fee「この作品で最も印象的なキャラクターはスペンダーだと思うんですが、残響さんはスペンダーについてはどう思いました?」
残響「怖いですね。ちょっと行きすぎちゃってるというか」
fee「なるほど」
残響「『わたしは最後の火星人だ』とか言ってるし……」
fee「中二病に罹っちゃったんですよw 僕は、スペンダーの気持ちはわかりますけどね。もちろん、行きすぎだというのは否定しませんが……」
残響「うーん……」
fee「スペンダーがコルテスのエピソードを語るシーンがありますが、これがそのまま、火星に対する地球の立場になると思います。アステカ文明も、西洋人がもたらした伝染病で絶滅してしまいました。しかも……ビグズとか、サム・パークヒルとか、ちょっと探検隊の民度が低すぎませんか? ポイ捨てとかしてません?」
残響「控えめに言っても最悪ですなぁ」
fee「なんでこんな連中が火星に来たんでしょう? 第三探検隊までは、みんな一応役職があったんですよ。航行士のラスティグとか、考古学者のヒンクストンとか。でも、サム・パークヒルとかビグズとかって、特に何もついてないですよね?」
残響「海賊みたいになっちゃってますからね。ゴロツキというか」
fee「火星を尊重する、という以前に、調査隊としても失格ですよね。環境を保全する気とか全くないし」
残響「着いて早々酒盛りとかしてるし……」
fee「いやまぁお酒は飲んでもいいんじゃない? 第二探検隊のウィリアムズ隊長も、こんな感じで歓迎されたかったんですよ」
残響「サム・パークヒルと言えば、最後の方の『何をうまくやれたのですか』『こんな野郎(スペンダー)といっしょに何をやれたのですか』というセリフが妙に印象的で」
fee「ワイルダー隊長の『スペンダーとわたしなら、どうにかなったかもしれない。スペンダーときみらは、とうていダメだ』というのも」
残響「ワイルダー隊長は苦労人ですね。そしてとてもバランスがとれた人物だと思います。一方にはスペンダーがいて、一方にはビグズやサム・パークヒルがいて……」
fee「もっとも、なんでこんなメンバーで火星を目指したのか、という疑問は残りますがw ビグズなんか連れて行くぐらいなら、まだ納税者を連れて行ってあげた方が……」
残響「納税者ww」
fee「そういえば、第一探検隊は2人だけだったんですよね。第二が4人、第三が16人。どんどん人数が増えているのは、やはり安全対策が関係しているんでしょうか?」
残響「まぁ、毎回全滅していましたからね……」
fee「第一探検隊から第四探検隊までが2年半程度なので、技術の革新があったと考えるには……」
残響「時間が短すぎるんですよね」
fee「それで安全対策のために、チンピラみたいなサム・パークヒルとかビグズを連れて行ったのか……」
残響「それにしたってもう少し人選というものがw ところで、ワイルダー隊長とスペンダーのやりとりは結構面白いと思うんですけど、アクションシーンはあまりうまくないですねw」
fee「まぁアクションシーンで名を売っている人じゃないからw 僕はこれぐらいなら大丈夫ですw」
残響「なんか急に西部劇みたいになっちゃって」
fee「確かに西部劇っぽいw」
残響「ワイルダー隊長とスペンダーが話している、火星人の美観というか、宗教観というかについてはどう思いました?」
fee「正直なところ、あまりよくわからないw ただ、科学発展を彼らがうまく途中で止める事が出来た、というポイントは大事かなと思いました。パソコンとかスマホとかでもそうだと思うんですけど、一度科学が進展してしまうと、それらがない生活に戻るというのは極めて難しい。行きつく先が、核の問題で……」
残響「『太陽の黄金の林檎』にも『空飛ぶ機械』という話がありましたね。科学技術の発展を止めるために、皇帝が人を殺してしまう話が」
fee「そう。確か残響さんは、科学の発展によって救われる命もあるというお話をしてくれて、僕は、空飛ぶ機械が軍事利用されて命を奪う可能性もあるという話をして」
残響「そうでした、そうでした」
fee「今回、スペンダーに対する反応が分かれたのも、『空飛ぶ機械』の皇帝に対する反応が分かれたのと同じかなぁと」
残響「あぁ……」
fee「どちらが正しい、というわけではないんですけどね。うまくバランスが取れればそれが一番良いわけですし。ただまぁ、仮に地球に住めなくなっても、火星を植民地化して、更に大宇宙へと乗り出していけばいい! という発想からは少し、距離を取りたいなというのはあります」
残響「なるほどです。ブラッドベリも、そういう「科学をどんどん進展させて、大宇宙に乗り出していけばいい」っていう人ではないですよね。作品を読んでいる限り」
fee「そうですね」
★2032年8月「移住者たち」 火星に植民者がやってくる
fee「『第三探検隊』、『月は今でも明るいが』の2作が序盤戦の山場という感じで、ここからちょっと【接着剤】的な作品が続きますね」
残響「そうですね」
fee「火星人も絶滅し、ついに地球人が我が物顔で火星に乗り込んできました」
残響「イリノイ、アイオワ、ミズーリ、モンタナって……地球の話のはずなのに、アメリカの事しか書いてないですな」
fee「これはねぇ……アメリカの小説にはよくある事なんですよね。スティーブン・キングの『ザ・スタンド』とかでもそうだったんですけど。地球が崩壊、とか文明の壊滅、とかいうけど、アメリカ以外の話は全く触れられもしないという……」
残響「4州出てきますけど、これは全部南部の方かな?」
fee「んー、あまり北部な感じはしないけど……どうだったかな? ちょっと地図を見てみます。(見た)中西部ですね。モンタナだけちょっと遠いけど、イリノイ、アイオワ、ミズーリは隣接してます」
残響「ふむふむ」
fee「特に話は広がらなかったw」
残響「w 最後の『最初の孤独な人たちは、自分たちだけが頼りだった……』 って文章は格好いいですね」
fee「確かに格好いい」
残響「格好いいけど……最初の孤独な人たちって、サム・パークヒルとかですよね……」
fee「うーんw」
残響「それだけですけどw」
fee「それじゃ、次行きますか」
★2032年12月「緑の朝」 火星、緑地化へ
fee「僕、これイマイチよくわからなかったんですけど」
残響「そうですか? 火星が緑地化されるって話かなと。テラフォーミングという単語もありますけど」
fee「うん。それだけですよね?」
残響「はい、それだけですw」
fee「ページ数は多少ありますけど、基本的にはこれも接着剤的な小編と考えていいんですよね? 主人公はベンジャミン・ドリスコル。一応名前もついてますけど……」
残響「特に物語性があるとかではなく、火星がテラフォーミングされるという話なので、接着剤だと思います。ただ、ぼく結構こういうの好きなんですよ。荒れ果てた火星がどんどん緑になっていく描写は感動しますね。『トライガン』を連想する。 *1」
fee「うーん、僕はあまり……。キム・スタンリー・ロビンスンという作家が書いた、『火星三部作』。『レッドマーズ』、『グリーンマーズ』、『ブルーマーズ』という作品群がありまして。ちょうど帯で、『ハードSF版火星年代記』と宣伝してたんですが、この三部作はまんまテラフォーミングの話なんですね。
ブラッドベリの『火星年代記』とは似ても似つかない、ひたすらテラフォーミングの話で……ガチなSF者はこういうのが好きなのかなぁ、僕にはよくわからんわ、とか思いながら一応『グリーンマーズ』までは読んだんですけど……良かったらどうですか?」
残響「そうですね……機会があれば」
fee「あ、それだけです、はい」
*注1 内藤泰弘『TRYGUN』(続編『TRYGUN MAXIMUM』)
……DEEP SPACE PLANET FUTURE GUN ACTION……!!
未来の枯れた星で、流浪のガンマン・ヴァッシュが「不殺」の愛と平和を突き詰めながら宿敵を追い続ける……!というSFガンアクション漫画の傑作。
本『火星年代記』対談的に話せば、トライガンの舞台は、星間移民の事故により「枯れた星」に不時着してしまった人類、というものです。人類は自律型永久機関である「プラント」を駆使して、水や食料や物資を製造して生き延びます。この「プラントを使って枯れた大地に緑を芽生えさせる」という「画」ですね。荒れた大地でも花は咲くのよ、滅亡と再生なのよ、みたいな。そういう希望の「画」が、個人的にSFマインドにギューン!と心引き寄せられるのです。(残響)
★2033年2月「いなご」 植民地化が加速
fee「口に釘を咥えている、大工さんの描写が面白かった。くらいかな、僕は」
残響「これは、地球人の事をいなごにたとえているんですよね。かなり辛辣というか、ブラックだなぁと思いました」
fee「あ、そうですか? まぁ、害虫扱いですけど……」
残響「荒らしみたいなw *2」
fee「そんな感じですねw」
*2 昔っからオタク・同人界隈ではよく見られた光景です。
今まで細々とファンが愛好していた作品やジャンルがあって、その作品・ジャンルがある時突然ブームになる。そうしたら、それまで愛好してきたファンたちのおよそ10倍以上もの新規ファンが来る。ここまでは良い展開ですが、しかし、
「原作にリスペクトも理解もない二次創作で金を儲けようとする作家」「原作をネタとしてしか取り扱わず、その時は【神!】とか言ったりするけど、次のブームがきたらすぐに捨てる」「やたら勝ち・負け・覇権、みたいな基準で語ったりする」……みたいなのの登場が、不可避です。
そんな浮動票というか。どこかからやってきて、元々の原作を食い荒らしていって、またどこかへ行っていく、というのを、かつて「同人イナゴ」と呼んだものでした。今はそこまで使われない言葉ですが。
本『火星年代記』のこの短編のタイトル的には、こういう人間の「群がる」様相が皮肉たっぷりに描かれていて、なるほどなぁ、と独りごちて納得するわたくしでありました。もちろん、わたしたちもどこまで「いなご」であるか。それはね、自分自身ほど「おれはそうじゃねえよ!」と放言しがちではありますけど、ね。(残響)
第3回に続く……