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- 2018.07.12 Thursday
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fee「というわけで、今回からは『火星年代記』の読書会を始めたいと思います」
残響「よろしくお願いしますー」
fee「まず初めに、今回取り上げるのは1997年に編集された、新版の『火星年代記』です。元々は1950年代に発表された連作短編集なんですが、その後ブラッドベリが収録作をいじるなど、微修正を加えております。私たちが読むのはリメイク版『火星年代記』ですので、旧版しか知らない方は少し違和感があるかもしれません。まぁ、あまり内容は変わらないんで問題ないと思いますけども」
残響「収録作が少し変わったのと、各短編の作中年代が31年ずつ繰り上がったぐらいですかね? 訳の改稿まではしてない……と思う」
fee「ですね。しかし、無理に年代を繰り上げなくても良かったのにね。どうせ2030年になってもロケットは飛んでないと思うし、そしたらまたリメイクするのかしら」
残響「夢がないw それに、仰るようにこの年代リメイク、あんまり功を奏してないように思える……」
fee「この連作短編では、20ページ程度の短編作品と、2ページ程度のショートショートがありますよね。バラバラの短編作品を、ショートショートで繋いでいるという意味で、便宜上【接着剤】と呼びますけど」
残響「一番最初の短編『ロケットの夏』も【接着剤】ですね」
fee「今回は連作集なので、前回とは違い、時系列順に読んでいく事になります。その前に、後でまとめやすいように、この本でとりあげられた地球と火星の歴史を、年表のようにまとめながら対談していきましょう」
残響「お願いします。*1」
fee「短編集と言えば短編集なので、とりあえず1編1編を語っていく形で読んでいきますが、連作でもあるので、キリの良いところまで来たら、後で通しの感想も言っていきましょう」
残響「そうですね、わかりました」
fee「まずは『ロケットの夏』ですが……この作品、残響さんの6月のツイートを見て以来ずっと突っ込みたくて仕方なかったんですよね」
残響「えっ!?」
*1……例によってあらすじを纏めるのが超絶苦手な残響でありました。以下の「火星歴史年表」もfeeさんの作成です。それにしても自分は圧倒的なまでにこの「要点・要旨を纏める」という作業が苦手で。残響が自分のHP・ブログや、エロゲー批評空間で書いてるレビューなどをお読みの方ならお分かりになられると思いますが、とにかく「纏める」という作業がぼくは苦手です。その時の衝動任せで生きている、とも言えるし、小説も勢いで読んでる、とも言える。また、正しい情報集めも手を抜くのかもしれない。衝動……衝動性! P.U.N.K(中指を立てる)!! 論理ではなく、衝動的イメージ任せ。……しかし、その勢い任せの生き方に最近疑問を抱いてるところです。なぜなら、何しろ次の「ロケットの夏」でさっそく……。
☆地球→火星への冒険期 「ロケットの夏〜第三探検隊」
★2030年 1月 「ロケットの夏」 第一次火星探検隊、地球を出発
fee「まず、残響さんの感想から聞こうかな?」
残響「最初にこれを読んで、この連作短編集を読んで【いけそうだ】、という思いを持てました。何しろ喚起されるイメージが良い。絵になる。イメージ重視の素晴らしい作品ですよね」
fee「確かにイメージ重視の作品ですね。『太陽の黄金の林檎』とか、そちら系の……」
残響「こう、目まぐるしい冬から夏への移り変わりが描かれていますよね……自分、荒い翻訳を以前したんですけど *2(この記事のラスト参照)、文章からして」
fee「……あー、やっぱり……これ、残響さんは誤読していると思うんですけど……この作品は、冬の作品ですよね?」
残響「えっ……あ、そうか。2030年1月だから……」
fee「これは、爽やかな夏が来て、青空にロケットが飛んで行ったって、そういう話じゃないですよ。冬なんですよ。冬に、ロケットが飛んで行ったんです。そしたら、ロケットの燃料というか熱噴射で、一瞬この辺りが猛烈に暑くなった。それを『ロケットの夏』と呼んだんですね」
残響「なんてこったい……! ちょっとこれ、ぼくめちゃくちゃ誤読してるじゃないですか!!(冷や汗ダラダラ)w ぼくが想像していたのは、清々しい見渡す限りの草原と、青空にロケットが飛んでいく夏の風景でしたよ!(しどろもどろ) *3」
fee「まぁ、これ難しいですよ。そんなに読みやすくないですもん。『冷たい空から町に降りつづいていた雪は、地面に触れる前に、暑い雨に変質した』あたりから読み取れるかなとは思いますが……」
残響「……(恥) うーん、ほんとにこの対談大丈夫なのかなw いきなり心配になってきたw」
fee「波乱含みの幕開けになっちゃいましたねw まぁこれはこれってことで」
*注2……記事ラスト参照
*注3……これである。そいえば、昔現代思想とか哲学をかじっていたときのことを思いだした。ある批評家が海外の物語を引用して「この表現はダブルミーニングでこうなんだ」とか「この表現にはこう深読みが」とかって言ってるけど、実はその読解が誤訳の誤読に基づいてる間違い読解だ、っていう恥ずかしさ。しかもその批評家は「そ、そういう風に読めたんだからしょうがないだろう、これもまたポストモダンの誤読による越境可能性がー!」とかってしどろもどろになっていたという無様。しかしそれを今となってはとやかく言えない。なぜなら、嗚呼、なんということか。ぼくも全く同じことをしてしまうというね。
★2030年2月「イラ」 第一次火星探検隊 ナサニエル・ヨーク他1名 死亡
fee「さて、いよいよ火星初登場ですね。この火星の描写ですが、葡萄酒の木が出てきたりとなかなか異国情緒豊かなものになっています。火星人のイラ夫妻が地球や地球について語っている部分もいいですね。P22、9行目の、
『青い目! あきれたね!』と、K氏は叫んだ。(中略)ひょっとすると、そいつの髪は黒かったんじゃないのか」
『あら、どうして分かったの?』夫人は興奮して訊ねた。
『いちばんとっぴな色を言っただけさ」と、夫は冷たく答えた』
とかw」
残響「『第三惑星には生命の存在する可能性はないんだよ』(中略)『科学者が調べたところによると、あの惑星の大気には酸素が多すぎるんだそうだ』というのもなかなか……。物理法則を全部裏返しにしていますね。どこか『鏡の国のアリス』を思わせるようなトリッキー描写です」
fee「同じような事を言っている地球人がたくさんいるようなw 生物学について無知なので、変な事を言うかもしれませんが……私たちのような炭素系生命体が存在する可能性はないとしても、全く別の形での生命が存在する可能性は残されていると思うんですよね。それを生命と言って良いかどうかはまたなんとも言えないところですが」
残響「ところで、また翻訳ネタなんですが、英語で【Era】という単語がありまして。読み方は【イラ】もしくは【イーラ】。イラのスペルがこのeraだったとしたら、【時代】を現す言葉となり。この壮大な物語の幕開けに相応しい名前だなぁとか思っていたんですが、原文を当たってみたら違うスペルでしたわ……。【YLLA】っていうね。……このノリでさらに翻訳ネタをカマせば、夫のイルは病気【ILL】とかそんな意味だったりしたのかなぁ、とかいう邪推。まあ多分間違っているとは思いますが!w でも、確かにこの夫は何となく病んでいる……」
fee「神経質ですよね。ラストで、イラが地球の歌を思い出せなくなるシーンがありますが、これは『地球人から、歌を習う』という未来が消えてしまったからなのでしょうか? イラには未来視の能力があって……」
残響「彼らはテレパシー(思念通話、「思ったこと」がそのまま伝達になる)で話しているんですよね? テレパシーと未来視には何か因果関係があるのでしょうか?」
fee「まぁ多分、ブラッドベリはあまり考えてないんじゃないかな……ともあれ、夫の嫉妬……こんなしょうもない理由で第一次火星探検隊は全滅しましたとさ」
残響「こんな理由でねぇ……」
★2030年8月「夏の夜」 火星人たちの不安な夏 謎の歌、地球の影
残響「これは地球の……」
fee「え、いやいや火星の話ですよ」
残響「えっ?」
fee「『火星の夜の側の数百の町の円形劇場では』って書いてあるじゃないですか」
残響「(赤面、頭を抱える) う、うーん。どうしたんだろ。てっきり地球の話だと思って読んでいましたよ。誤読多すぎるな、ぼく」
fee「ストーリーを言います。火星の人々が知らないはずの、地球の歌を歌い出しちゃうんですね。『あしたの朝、何か恐ろしいことが起こるわよ』といった具合に、迫りくる地球の不気味な影を感じる話です。前回の『発電所』の読書会で、僕は【電波ソング】を禍々しいものとして捉えたんですが、ひょっとするとこの『夏の夜』の印象が残っていたのかもしれません」
★2030年8月「地球の人々」 第二次火星探検隊 ジョナサン・ウィリアムズ他3名全滅
fee「さて、第二次火星探検隊の到着です」
残響「この作品で気になったのは、地球人を相手にしない火星人の態度でした。聞いてやるもんか、的な……」
fee「いや、別に、聞いてやるもんか、と意固地になってるんじゃなくて、頭のおかしい奴が来たので関わりたくなくて、たらい回しにしているだけじゃない? 靴を脱いでから家に入ってくれ!とか、注意すべきところはちゃんと注意してるし……。地球からはるばる火星にやってきた偉業に対し、歓迎を期待するウィリアムズ隊長。しかし火星人からは、変な妄想狂が来たようにしか見えないという……」
残響「圧倒的ディスコミュニケーション」
fee「火星人の方からは来てくれなんて頼んでないですしね……」
残響「まぁ実際、ぼくの部屋の扉が突然開け放たれて、涼宮ハルヒみたいなのが『金星から来ました』とか言い出したとしても、『病院行け』って対応をするでしょうけど……」
fee「まさに、病院行けという対応をされているわけですが、出てくる火星人のキャラがコミカルで面白いですね。P53、11行目の、
『では、』とアアア氏は講義口調で始めた。
『あなた方は、ツツツ君の無礼を、当然のことと思いますかな』(中略)
隊長は言った。『われわれは地球から来たのです!』
『まったく紳士の道にはずれたやり方だと、わたしは思う』と、アアア氏はむっつりと言った。
『ロケット船です。それに乗って来たのです。あそこに置いてあります!』
『ツツツ君の無分別は、今回が初めてじゃないのだ』
『地球からはるばるやって来たのです』
『いや、断然、わたしは彼に電話をかけて、はっきり言ってやる』
『われわれ四人だけです。わたしと、この三人の部下だけです』
『そう、電話をかけよう、断然そうしよう』
『地球。ロケット。人間。旅行。宇宙』
『電話で、ぎゅうと言わせてやる!』
長くなりましたが、こことかほんと最高。この後、アアア氏はツツツ氏に決闘を申し込むんですよねw」
残響「全く話がかみ合ってないw なんとなく芥川龍之介の『河童』を思い出します」
fee「この作品に出てくる火星人は、外見こそ違いますけど、私たち地球人にもいそうな人たちばかりですよね。こういう面白さは、昔のSF特有だと思うなぁ。今のSFにはもうないんじゃないかな、こういうの(あったらすみません)」
残響「旧き良きSF的火星人というか、大らかな感じがしますね。牧歌的といいますか。悪い意味じゃない【テンプレ】みたいな。ところで、アアア氏とかツツツ氏の原書での表記が少し気になったので洋書原文で調べてみたんですが、Aaa氏 Ttt氏でした」
fee「笑いの仮面をかぶっている怪しい火星人、クスクスクス氏というのも出てきますよねw あれ、でも『イラ』では火星人の名前はイラとかイルとかいう名前でしたよね? いつのまにかアアア氏とかツツツ氏みたいな名前になってるけど……」
残響「うーん……まぁでもそういうおおらかさというか、適当さがむしろ良い味を出している気もします」
fee 「確かにw あまり細かいことにこだわっちゃいけないwさて、この後、精神病院に入れられてしまうウィリアムズ隊長以下4人。ここでは大歓迎を受け、楽しそうなんですが……」
残響「……コレ楽しそうですか? 凄い歓迎を受けた直後に、もう誰からも見向きもされなくなっていたり、結構怖いですよ、ここ。P65、2行目『かれらの黄色い目は光のなかで大きくなり小さくなり、焦点も外れたり合ったりするのだった』とか」
fee「そういわれると確かに怖いw」
残響「まあ、地球人も極まるとこんな感じになりますけどね(白目)」
fee「なんのフォローにもなってないw とにかく、地球のチュイエレオルからやってきたウウウ氏やミス・ルルルやブブブさん達に囲まれて、一瞬だけ大歓迎を受けたんですけど、大きく持ち上げて、大きく落とされるという……」
残響「結局、最後、まーた殺されちゃいますしね……」
fee「ウィリアムズさん達もそうですが、やっぱり火星的にはいい迷惑だったと思いますよ。クスクスクス氏は死んじゃうし、ツツツ氏は決闘を申し込まれるし、ツツツ夫人の家は泥靴で上がられるしw」
残響「しかしこの連作短編集、尻上がりに面白くなっていきますね。『ロケットの夏』で行けそうだ、と思ったわけですが、『イラ』で更に引き込まれ、この『地球の人々』で更に評価が上がり……この後の『第三探検隊』でさらに【ガン!】とレベルが上がる面白さだし……」
fee「お薦めした手前、そう言っていただけると本当に嬉しいです」
★2031年3月「納税者」 第三次火星探検隊出発 地球に核戦争の影
残響「火星へ行きたいと考えた庶民の話ですね。『俺は納税者だぞ!』っていう……」
fee「消費税がある現代では、その辺の子供だって納税者なので滑稽にしか思えないですね」
残響「厳しいなぁw しかし、探検隊しか火星に行けない時代に、一納税者が火星に行けるはずもなく……まあ、それにしても『俺は納税者だぞ!』しかおまいは主張出来る自慢はないのかいな、とw」
fee「この短編での新しい情報は地球が結構ヤバくなっているってことですね」
残響「検閲、国家主義、情報統制、管理社会、徴兵、なんかそれこそ『華氏451度』的なディストピア社会になっているのかな?」
fee「二年以内に核戦争が起こるだろう、という予告もありますよね。まぁそんな情勢なので、無茶だとは思いますが、この納税者の焦りも仕方ない事かもしれません」
次回に続く……(「第三探検隊」の目の前に広がるのは……!?)
*注2……以下は、残響の6/30時点のツイート連投です。洋書原文『火星年代記』をアマゾンkindleで買って、さくっと冒頭パラグラフを翻訳してみた、っていう内容です。
次回のfeeさんとの対談図書であるブラッドベリ『火星年代記』ですが、せっかく今翻訳づいてる自分なので、並行して洋書原版も読んでみんとす(Kindleドルドルっと買った。普通に買うといつ届くかわからない、洋書だから)。思い付いて勝手にきめますた(私信)
理由がないわけでもなくてブラッドベリは1996年に出版社を変えて「火星年代記(原題 the Martian Chronicles 」を改稿してるんですね。手持ちの早川文庫新盤では「ロケットの夏 1999年」が「ロケットの夏 2030年」になってる。ちなみにドルドル原書では1999年
例えば「2030年(1999年)ロケットの夏」の書き出しは邦訳だとこう「ひとときはオハイオ州の夏だった。ドアは閉ざされ、窓には錠がおり、窓ガラスは霜に曇り、どの屋根もつららに縁取られ、斜面でスキーをする子供たちや、毛皮にくるまって大きな黒い熊のように凍った町を行き来する主婦たち」
でも「One minute it was Ohio winter,」の訳しかたにのっけから疑問をもった。あんまり主語にとらわれすぎじゃなかとか。自分なら以下のように翻訳する。「またたく間に、オハイオ州の冬は、実に速く過ぎた。その間、ドアというドアは閉ざされ、窓には鍵。そのガラスには霜が積もり、すべての屋根は氷柱(つらら)で縁取られた。子供たちはスロープでスキーをし、主婦たちは毛皮を着こんで、凍えるストリートを、のそのそとヒグマのようにうろつく。」(残響訳)
まあ、この1、2ページだけだと、早川文庫のほうは、より即物的に言葉を使ってますね。ただ、それも理由があって、「ロケットの夏」という言葉を鮮烈に出したい!という訳者氏の気持ちはよくわかる!だから情景をごくあっさり書きこむ形にしたのかな、と想像します。「風通しのよくなった」という表現で、「季節がさわやかに変わったんだ!」「人から人へ言葉が伝わってってるんだ!」と鮮烈に文字通りの「空気感」が伝わる。
あと、訳された時代、「スロープ」「ストリート」は日本語で市民権得てなかったかも。そこんとこ、2017年なうな残響はラクしてますねw
あー、でも、のっけにおいて冬がさらっと流されたんで「速く過ぎた」ってしたけど、この場合は「そんな短い間でもすごく印象深く、一瞬が長く感じるほどの冬だった」って意味なら、「ひととき(の間)は」っていう訳しかたもアリか!じゃあ意訳気味に訂正して「その年のオハイオの冬は厳しく、」トカ
翻訳は、うん、確かにたのしいですねw(ノー皮肉) あと、これ別にfeeさんから頼まれてやってるわけじゃなく、ノー相談なんで、なんとなく自発的にやってる趣味行為デス
(とわいえ、残響の今の翻訳も、早川文庫の「下訳」があって、こうサクっとできてるわけだから、自慢にはならない。むしろ訳者のかたに申し訳ない)
(ただ、自分は抑揚をつけた英語音読をぶつくさしながらでないと、翻訳が出来ない。翻訳しながら電話は無理に近いかも。「他人としゃべりながら翻訳ができる」柴田元幸氏はやはりゴイス)
ちなみに、自分の翻訳英語音読はどんな感じかというと、えろすけの歴代投票一位の4D氏のフォルト!!S感想の一言感想「オ〜ウ、youはぁ〜パンツをぉ、信じマスカ?(英語原文発音その1)…………ならば戦え。このゲームを許してはならない(英語発音その2)」って感じで、ひどく似ている……だから今まで他人に翻訳のこと言わなかったんだ! 「やたら抑揚をつけて音読」→「きちんと意味を含めるようにしっかり落ち着いて音読」をループするもので。