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    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(6)

    • 2018.01.03 Wednesday
    • 16:54

    ★2057年4月 長の年月 第4探検隊の生き残り、ハザウェイ氏のその後

     

     

    fee「主人公は第四探検隊の生き残りのハザウェイ氏。ハザウェイ氏とワイルダー隊長が登場するので、第四探検隊の最終章みたいな趣きですね。サム・パークヒルは出てこないんですか?」

     

    残響「本人は出て来ませんが、伝聞で出てきます。ホットドッグのスタンドを開いて、一週間もしないうちに地球に帰った、と」

     

    fee「何がしたいんだ?っていうw ハザウェイって、第四探検隊で目立ってたっけ?」

     

    残響「いや、全然目立っていなかったですよ」

     

    fee「目立ってなかったよね。ワイルダー隊長とビグズは目立ってたけど……ハザウェイって何をした人?」

     

    残響「誰かに殴られていませんでした?」

     

    fee「誰かに殴られたんですかwww」

     

    残響「あれれ? 違ったかな。殴られてたか、誰かをなだめてたかどっちかだったような(ぼんやりした記憶)」

     

    fee「誰だよハザウェイ殴ったやつ……ひどいなぁ……とにかく、第四探検隊で影の薄いハザウェイ君が今回の主人公です」

     

    残響「あ、いました。水疱瘡を診断した医者ですね」

     

    fee「あぁ、お医者さんか。最初の方に出てきたんですね。ハザウェイの思想的な背景は書かれてないのかな? 『長の年月』だと、ハザウェイは隊長寄りの人になっていますけど」

     

    残響「元から隊長寄りの人だったとは思うんですけどね」

     

    fee「そうだとは思うんですが、隊長寄りだという描写はなかった気がする」

     

    残響「歯向かってはいないじゃないですか」

     

    fee「そりゃ歯向かってはいないですけど……」

     

    残響「サム・パークヒルとかビグズ派ではなかったという」

     

    fee「あらすじに戻ります。第四探検隊の生き残りのハザウェイさんが、火星で細々と家族と共に生きていました。最初の方の、P357、2行目で
     

    『わたしのしたことを、ゆるしてくれるかね』

    と、ハザウェイは四つの十字架に向かって訊ねた


    『わたしはひどく孤独だったんだ、わかってくれるね』


    というのが伏線ですよね」

     

    残響「そうなんですよ」

     

    fee「この伏線がねぇ。後になって、『そういう意味か!』って。そんなハザウェイの姿を、細君と、二人の娘と一人の息子が眺めていると。良い家庭の光景です」

     

    残響「ただ、ハザウェイはあまり体調が良くなさそうですね」

     

    fee「『苦痛に烈しく悸つ心臓を抱えて』とありますね。で、戦争があってから二十年経っています。ハザウェイも地球に帰りたかったけど、既にみんなが行ってしまった後で、取り残されてしまったと。それが良かったのか、悪かったのかはわかりませんけど……ただ、ハザウェイは火星で暖かい家庭を持って、生きられましたから」

     

    残響「そうですそうです。何であれ、暖かさと共に生きられた」

     

    fee「悪い人生ではなかったかもしれません。家族がいなかったらちょっと寂しかったかもしれませんけど。で、ここにワイルダー隊長が到着します。

    『ワイルダー隊長!』『ハザウェイじゃないか!』『お久しぶりです、隊長!』『嬉しいなぁ』

     

    残響「嬉しいなぁ。こんなに嬉しいことはない」

     

    fee「ワイルダー隊長が出てきたのは読んでる僕も嬉しかったです。二十年間、木星や土星や海王星を回ってきたと」

     

    残響「隊長、結構頑張ってますね」

     

    fee「火星の植民政策に口を出したとかで左遷されたんですけども、宇宙飛行士としては相当なキャリアを積んできました。で、ハザウェイのほかに、ここから一万マイルほど離れたところに、あの出会い系でひどい目に遭った……」

     

    残響「ふふふww」

     

    fee「ウォルター・グリップ君がいたと。それはいいんですけど、ジェヌヴィエーヴがいないんですよ。ジェヌヴィエーヴはとうとう死んだ?」

     

    残響「死ww」

     

    fee「ウォルター・グリップ君、ハザウェイのところに行けば良かったのに」

     

    残響「もう嫌になっちゃったのかな。『ハザウェイもロクでもない人間だったらどうしよう』みたいな。超悲観主義になってもうたウォルター君」

     

    fee「まぁ、ジェヌヴィエーヴほどひどいってことはないと思いますけどねw ウォルター・グリップのところには火星人は来てくれなかったんですかねぇ」

     

    残響「うーん……まあそれも運命ってことで」

     

    fee「やっぱ出会い厨はダメですか。僕はいいと思いますけどねw 出会い厨で、ブスが来たら逃げ出してしまったウォルター・グリップ君……」

     

    残響「あの女、身だしなみも衛生関連もダメ、性格もダメで……」

     

    fee「ジェヌヴィエーヴの話で盛り上がりそうだけど、心を鬼にして『長の年月』に戻ります。ウィリアムソンという副官が、ハザウェイの息子と一緒の学校に通っていたので、年齢がおかしいと言いだすんですよね。ウィリアムソンが探偵ごっこを始めて、ハザウェイの隠された秘密を暴いてしまう」

     

    残響「そうそう、実は……」

     

    fee「「実はハザウェイの優しい家族たちは、ハザウェイの本当の家族ではない、ということで、ちょっとホラーじみた話ではあるんですけど。ここでホラー路線に行くか感動路線に行くかは、作家次第というか、作品次第ですね。この後、ワイルダー隊長は奥さんと話をして、奥さんの正体を知る、と。奥さんたちは火星人なんですが、ずっとハザウェイを支えてきました」

     

    残響「そうなんですよ」

     

    fee「この話は、登場人物のみんなが優しいですね。最後、ハザウェイが死んじゃって、既に亡くなっている奥さんたちのところにハザウェイの遺体を一緒にいれると。
    そして、隊長はそのまま去っていきます。残されたアリス(妻)と、息子と娘。ハザウェイはいなくなったけど、火星人の一家が、今日も幸せな日々を続けるという物語ですね」

     

    残響「そうか、今気づきましたが、考えてみればホラーにも見えるんですね」

     

    fee「設定だけを見ればホラーでも行けると思いますよ。ただ、ホラーとして書いてはいないですよね。ホラーに寄ってるのが『第三探検隊』とか、次に出てくる『優しく雨ぞ降りしきる』とか」

     

    残響「ある意味対照的というか。『長の年月』はホラーの設定で優しさを描いていて、『優しく雨ぞ降りしきる』は優しい牧歌的な世界を描きながら、書かれている内容はホラーという」

     

    fee「そうですね。この『長の年月』は、『火星の人』の変形でもあります。『火星の人』はおじいさんとおばあさんのところに、息子のトムが来てくれる話でした」

     

    残響「姿を変えることができるっていう」

     

    fee「そうそう、相手が望むものに変わる能力を持っているという。『火星の人』も『長の年月』も基本的には同じ話ですよ。僕は『火星の人』も好きだし、『長の年月』も好きです」

     

    残響「いい話ですよ」

     

    fee「こういう話はやっぱり、ブラッドベリは巧いよなぁって思いますね」

     

    残響「下手に小細工せずにね」

     

    fee「こういう優しい話って、ありそうであんまりなくないですか?」

     

    残響「寂しいんだけど、なんだか優しいみたいな」

     

    fee「そうそう。そういう感じの作風で。ブラッドベリはそういうところがいいですね」

     

    残響「これは個人的仮説ですが、ラストの『百万年ピクニック』に至るまで、『火星年代記』全体を通して、最終的に地球人が【火星人】になっていくという、連作としてのゆるやかな一つの線があると思うんです。地球人が火星にやってきた最初の頃……『イラ』とか『第三探検隊』あたりでは全然意思疎通が図れていない。色々な事件・物語を経過して、やっと『長の年月』に至って、地球人が火星的なモノと和解したというか。ハザウェイさんは火星人の妻と息子さんたちと一緒に、優しい生活を営むに至ったという」

     

    fee「そうですね」

     

    残響「だからようやく、地球人は【火星人】になれたのかな、と」

     

    fee「『火星の人』では途中まではうまくいったけど、取り合いになっちゃいましたからね。一番最初に交流があったのが『夜の邂逅』で。『夜の邂逅』あたりからちょっとした交流が始まって、やっと完全に交流できたのが『長の年月』か。あまり考えていませんでしたが、そういう流れはありそうですねぇ。ハザウェイさんは奥さんのところにちゃんとお墓参りに行っていますけど、楽しい人生は送れましたよね」

     

    残響「こういう幸せの形があってもいいと思うんです」

     

    fee「それこそSFだからこそ読める暖かい話ですね」

     

    残響「そうですね。うまく言えませんが、【SFだからこそ】という感じがすごいする」

     

    fee「僕、こういうのが読みたいんですよ。あんまりないんですけどね……」

     

    残響「今のSFだと、もうちょっと科学的な装飾……科学用語とか、先端技術とか、科学設定の論陣とか、辻褄合わせが付け加えられる気がして」

     

    fee「まぁ、それが好きな人はいいかもしれないけど、僕的にはそういうのは要らないんだよね……」

     

    残響「火星という大雑把な舞台があって、ちょっと不思議で優しい話があって。ぼくもそれでいいですね」

     

    fee「まぁここまで牧歌的な話は、現代ではなかなか書きづらくなっているんでしょう。ただ、ガチなSF愛好者はいいとして、『風の谷のナウシカ』とか『ドラえもん』くらいのSF好きには、これぐらいで十分楽しめるというか、これぐらいじゃないとついていくのが大変というか」

     

    残響「確かに、そういう作品は少なくなっているのかもしれませんね。ざっくりとした印象論ですが、それほど的を外した印象でもないはず」

     

    fee「最新のSFをバンバン読んでいるわけじゃないので、見当違いな事を言っているかもしれませんが、最新の話題作だけで言うならこの手のお話は少なくなっていると思います。話題作だけで語るのは良くないと思うんですが、話題作くらいしか読めていないので……。まぁ僕が知らないところに、良い作品がたくさんあるのかもしれません」

     


    ★2057年8月 優しく雨ぞ降りしきる 廃墟となった地球

     

    fee「世界崩壊後の地球を舞台にしたお話です。僕、最初は火星の話かと思って読んでいました。誤読してたというw しかしですね。『トーストを8枚と、目玉焼きを8つと、ベーコンを16枚と、コーヒーを2杯と、冷たいミルクを2杯』って……食べすぎじゃないですか!? デブなんですか?」

     

    残響「アメリカの南部地域っぽいんですよね。聞いた話ですが、南部地域って、割と男の人も女の人もでっぷりとしているというか。食べ物がおいしいというのもありますが、凄い量を食べるんです」

     

    fee「カリフォルニア州が舞台なので、南部と言っていいのかはちょっと微妙なところだけど……」

     

    残響「カリフォルニアかぁ……そうですね、だとしたらどうなんだろう」

     

    fee「ナチス・ドイツの平均的な家族像に、両親と男の子、女の子で4人家族というのがある、と以前仰っていましたね。この作品の一家もそうなんじゃないかっていう。しかし÷4にしても一人でトーストを2枚食べて、目玉焼きを2個で、コーヒーは……あぁ、大人にコーヒー1杯、子供にミルク1杯ですね? このミルクはコーヒーに入れるミルクではないですね?」

     

    残響「はいw」

     

    fee「『学校へ、勤めへ、出かけましょ、走って、走って、8時1分』だから、学校に行く人が1人は、いる。ということですね」

     

    残響「そういえば、ぼくはこれを読んで、手塚治虫の『火の鳥』を連想しました」

     

    fee「すみません、『火の鳥』を読んでいないので何とも言えないんですよね……」

     

    残響「『火の鳥』も年代記なんですが、その中で【未来編】というのがありまして。絶望的な状況だけど、淡々と日常生活が行なわれていくという話があります。ほとんど人が居なくなった世界で、ロボットを中心にして、日常生活が淡々と描かれているという」

     

    fee「ほとんど同じじゃないですか。オマージュだったりするのかな」

     

    残響「それはわかりません」

     

    fee「話を戻します。世界崩壊後のカリフォルニアが舞台の物語なんですが、最終戦争中に水爆が落ちているんですね。P378、8行目。
     

    『その西面は、ただ五か所を残して、あとは一面真っ黒だった。ひとつは、ペンキにくっきりと残された、芝生を刈る男のシルエット。ひとつは、写真で見るような、花を摘もうと身をかがめた女の影。さらに、もっとはなれたところに、あの恐ろしい瞬間に壁板に灼きつけられた三つの影があった。両手を高く空に突き出している小さな男の子。そのもっと上方に、ほう(漢字が出ない)りあげられたボール。男の子と向き合って、永久に落ちてはこないボールを受けとめようと、両手をかかげている女の子』

    あぁ、さっきの4人家族説であってますね」

     

    残響「ですね」

     

    fee「この、壁に影が残る描写は『はだしのゲン』とかでもおなじみの」

     

    残響「そこにいる人が焼きつけられちゃって」

     

    fee「核爆弾こえーー、みたいなエピソードですよね。いい描写だと思います」

     

    残響「ところで、ここ矛盾があるんですよね。何でこんなに平和なんだ?っていう。核爆弾レベルでドンパチやっておきながら、なんでこんなにここは生活レベルが平和なのか?っていう……普通なら段々生活レベルが落ちていくものだと思うんですが……」

     

    fee「多分ですけど、いきなり爆弾が落ちてきてそれで終わりなんじゃないですか? 一瞬で戦争は終わったのでは?」

     

    残響「あ、これはいきなりなんですか?」

     

    fee「だって、そんな核爆弾なんてボンボン撃ち合えないでしょ。いや、国レベル、世界レベルでは撃ち合った可能性はあるんですけど、カリフォルニアという街単体はこれで全滅でしょ。で、ロボットが生活を管理しているので、特に矛盾はないんじゃないですか?」

     

    残響「そっかそっか……なるほど」

     

    fee「この作品では、家がキャラクター性を持っていると言いますか、家が擬人化されていますよね。『家は物音がするたびにおののいた』という描写があったり、火事と戦ったりする描写もありまして。人間はいないのに、雀が……」

     

    残響「そうそうそう。居たりして」

     

    fee「あと、犬も出てくるんですよね?」

     

    残響「ヨロヨロの犬が」

     

    fee「そう、ヨロヨロの犬が。で、ですね。僕たち、ネットで調べました。放射線に晒された生物が、どの程度の期間、生きられるのか。犬はダメでしたよねw」

     

    残響「ダメでしたねw」

     

    fee「哺乳類はダメですね。昆虫は比較的放射線に強くて。ゴキブリはかなり強い、と。あと、甲虫も結構強いと。蠅はあまり強くないけど、人間よりは強いという結論でした。よく調べましたw」

     

    残響「ふふふw 頑張りましたfeeさん*1」

     

    fee「というわけで、この作品にゴキブリが出てきてもいいですが、雀や犬が出てくるのはおかしい。P379、13行目

    『一匹の犬が、ぶるぶる震えながら、哀れななき(漢字が出ない)声をあげた。(略)かつては大きくて肉づきがよかったのに、いまは骨と皮ばかりになり、からだ中焼けただれてしまったその犬は』

    という謎の文章があります」

     

    残響「ああ、はい。ありますね」

     

    fee「ここに矛盾があるんです。核が落ちたのはいつなのかっていう。犬の寿命は13年くらいですよね? この作品の舞台は2057年。ということは、2045年よりも後に核が落ちたんじゃなければおかしいですよね。だって『かつては大きくて肉づきが良かった』んですから。犬が元気だった頃に、核が落ちてきたと。で、核を食らったのに長い間生きていたという」

     

    残響「……そうなりますね」

     

    fee「最終戦争が始まったのって、2036年ですよね。となると、9年間カリフォルニアは無事だったことになります。つまり、カリフォルニアが9年間無事だったか、犬の寿命がおかしいかの二択ですよね」

     

    残響「元からおかしい犬だったのかもしれませんw」

     

    fee「ゾンビ犬みたいなやつですかw 犬もロボットなんじゃないか、という仮説も立てられたんですが……」

     

    残響「ぶくぶく泡を吹いていますからロボットじゃないと」

     

    fee「かわいそうに、死んじゃいましたからね。最終戦争が到来して9年間が過ぎてるのに、『学校へ、勤めへ、さぁさぁ出かけましょ』っていう……ってこれがさっき残響さんが指摘してた矛盾か(今気づいた)」

     

    残響「そうですw」

     

    fee「すみませんでした。まぁ……ミスが気にならないくらい面白ければいいとは思いますが……ちょっとブラッドベリはSFを書くには、ミスが多すぎないですか?」

     

    残響「はははw 2017年の今じゃフルボッコかもしれませんw ただ、ブラッドベリがここで書きたかった事は伝わってきますよね」

     

    fee「伝わりますねww」

     

    残響「伝わるんですけど、このミスはちょっといただけないっていうw 残響は結構こういうのは詰めて考えない大雑把な人間ですが、それでもちょっと【雑だなぁ】というか」

     

    fee「時間設定を少し前倒しするだけで、矛盾は小さくなったんじゃないですか?」

     

    残響「新版で機械的に31年プラスするよりも、こっちの設定を考え直してくれっていうw」

     

    fee「2、3年でいいと思うんですよね。主がいなくなった家で、ロボットがひたすら頑張っている日常が2〜3年あって、ついに犬がやってきて火事になった、みたいな。こうすれば犬が生きていてもギリギリ矛盾はないかもしれないし、人がいなくなった後、ロボットが日常生活を営んでいる怖さも描けるし」

     

    残響「『火星年代記』というタイトルなんですけど、年代記(クロニクル)を書くなら普通、作中世界の年表を作りますよね」

     

    fee「うんうん」

     

    残響「でもブラッドベリは年表を作らずに、何となく火星にまつわる物語をたくさん作っているだけのように思えてきたんですけど」

     

    fee「まぁ、あまり歴史は考えていないですよね。ブラッドベリはガチなSFの人ではないので……」

     

    残響「そうですね……しかし一般的にはブラッドベリは【ちゃんとしたSF作家】という認識だと思うんですけど……竹本泉じゃないんだから……」

     

    fee「サブタイトルにもなった『優しく雨ぞ降りしきる』というのは、昔の詩人、サラ・ティーズデイルさんの作品から取られているんですけども……。Wikipediaによればですね、サラさんは恋人を捨てて、金目当てに違う男と結婚したんでしたっけ?」

     

    残響「ですね(Wikipediaを見ながら)」

     

    fee「もうねぇ、サラねぇ。二人の崇拝者から求婚される……この崇拝者っていうのもいいですけどね。詩人のヴェーチェルとサラは毎日長い恋文を送りあって、ヴェーチェルが意を決して求婚したのに、サラは裕福なフィルシンガーと結婚しちゃってねぇ……」

     

    残響「ワーオ」

     

    fee「求婚して振られちゃった貧乏詩人のヴェーチェルとサラは、終生愛情あるプラトニックな友人だった、と。一方で『詩に表現した情熱を人生で経験することは決してできず、その結婚は幸福ではなく……』

     

    残響「離婚して、自殺してしまった(Wikipediaを見ながら)」

     

    fee「しかもヴェーチェルの方も、サラの自殺の2年前に自殺している。サラが、金目当ての結婚なんてしないで、貧乏詩人のヴェーチェルと一緒になっていれば自殺しないでもすんだかもしれないし、仮に自殺したとしてもですね、少なくとも詩の世界のような恋愛ができたのではないでしょうか。だから、サラのせいだなって」

     

    残響「悪女めw」

     

    fee「詩で表現した世界を人生でも経験すれば良かったのに。サラのせいでヴェーチェルまで自殺しちゃって……いや、サラのせいじゃないかもしれないけど。やっぱり金目当てじゃなくてですねぇ。好きな人がいるんならさぁ……いないなら金目当てでもいいですけど。あんまりカネ、カネ言ってると、一番いいものを失うかもしれない」

     

    残響「詩人なのにねぇ」

     

    fee「そう、詩人でしょ? 現実主義のつまらない事しちゃってねぇ。詩人じゃ儲からないのかもしれないから、パトロンが欲しかったのかもしれませんが……」

     

    残響「ゼニですか」

     

    fee「まぁサラはいいや。ちょっと言い残した事がありまして、貯蔵の話なんですけど。家が火事になった時に、『120個の卵と、6本のトーストと、240枚のベーコン』が火に食われてしまった。15日分、ですか? 僕、こういう描写を見るとすぐ計算したくなっちゃうw」

     

    残響「ぼくは計算は全くできないので……(投げた)」

     

    fee「かくして、平和だった2057年8月4日も終わり、この家は息絶えました。しかし、声は何事もなかったかのように『2057年8月5日でございます』と。8月4日はフェザーストン氏の誕生日で、ティリタの結婚記念日で、保険料と水道、ガス、電気代の支払日だったんですが……何十年同じ事を言い続けるのかな。
    というわけで、核戦争後の荒廃した世界で、機械が平和な日常を装っているのが、シュールで、不気味、かつちょっと悲しい感じの作品です」

     

    残響「……ある意味、美しくもあるけれど」

     

    fee「そうそう。そういう、何かを感じる作品ですよね。この情景を思い浮かべて、特に何も思わないと、ただ家が暴れているだけの話になりますね」

     

    残響「何も思わないっていう人が居たら、それもそれで凄いなw」

     

    fee「この作品が、というよりブラッドベリ全体がそうですけど、詩ですね。感性のアンテナが合えば猛烈にハマるけど、アンテナが合わないと多分良さが解らない作家だと思います……」

     

    残響「この作品は人間の心理描写とかはなく、全部情景描写でやっていますけど……」

     

    fee「そうですね。アクション描写はありますけど」

     

    残響「人間がいないんですよね。人間の不在」

     

    fee「家が擬人化されていて、家が人間というか、主人公というか……」

     

    残響「システムというか……。こういう作品に名前をつけるとすれば『優しく雨ぞ降りしきる』みたいなタイトルになるんでしょうね。上手いわ」

     


    *1……この対談をしていて、feeさんが「核の後でも生きていられる生物とは?」というところが気になられたらしく、対談そっちのけでかなりwebで調べた。(残響)



    ★2057年10月「百万年ピクニック」 新世代の火星人

     

    fee「地球の一家が火星に来ました。ドライブして、住みたい街を物色します。ピクニック気分で無邪気にはしゃぐ子供たちでしたが、住みたい街を決めた後で、パパが真実を話します」

     

    残響「最後、子供たちが『ぼく、とても火星人が見たかったんだ』って言うんですけど、それに対してパパが、水面を指さして『ほら、ここに映っているのが火星人だ』って。元地球人だったけれど、これからは火星に生きる火星人なんだ、というエンドです。上手い!流石や」

     

    fee「子供は3人で、ティモシーとマイケルとロバート。年長のティモシーだけは、もう地球に帰る事はないと解っていて、演技しています。マイケルとロバートは解っていない。ティモシーが実に巧く、弟2人の面倒を見ているんですよね。かなり健気で頑張っているなあと思いました」

     

    残響「うんうん」

     

    fee「火星にはもう一家族、女の子ばかりの一家が火星にやってくるんですよね? これはもうハッピーエンドですね、エロゲ的にはね」

     

    残響「だははははww そこでそう言いますか、あんさん!」

     

    fee「だって、この一家と娘さんたちしかいなかったら、そりゃブサでもダメ主人公でも子供できるでしょ? 楽しい感じですよ」

     

    残響「ジェヌヴィエーヴはもういないけど……」

     

    fee「ウォルター・グリップ君はどっかにいるかもしれませんが。ウォルターはレイプ魔みたいな感じですか? ウォルターを追い払え!みたいな」

     

    残響「なんだか凄い話になってきたなww ダイジョブかおい……」

     

    fee「ウォルターも仲良くしましょう。ウォルターもこちらに来ますよ。とにかく、この二家族が最後の地球人なんです。で、先ほど残響さんが仰ったラスト。

     

    『ぼく、とても火星人が見たかったんだ』と、マイケルが言った。『どこにいるの、パパ? 見せてくれるって約束したじゃないか』。
    『そうら、そこにいるよ』パパは、マイケルを肩の上に移して、真下の水面を指さした。
    火星人がそこにいた。ティモシーは震えはじめた。
    火星人はそこに――運河の中に――水面に映っていた。ティモシーと、マイケルと、ロバートと、ママと、パパと。火星人たちは、ひたひたと漣波の立つ水のおもてから、いつまでもいつまでも、黙ったまま、じっとみんなを見上げていた』

     

    と、こうなるわけですね」

     

    残響「そう……ここでティモシーは震えてますよ」

     

    fee「やっぱり最後の7、8行は素晴らしいですね」

     

    残響「凄いですね。さすがです。『火星年代記、ここから始まる−−』みたいな」

     

    fee「火星の旧勢力とは共存していけますかね」

     

    残響「もうこうなったら行くしかないんですよね」

     

    fee「ハザウェイと旧勢力は仲良くできましたが」

     

    残響「ティモシーは大丈夫そうですけど、マイケルとロバートのどちらかがサム・パークヒルみたいになっちゃう可能性はあります」

     

    fee「……パパとママがうまくやっていくしかないですね。教育をきちっとやりましょう」

     

    残響「教育大事」

     

    fee「グランドエンドで良かったなぁ、と思うんですけど、この作品単体での感想は特にないんですがw」

     

    残響「それにしてもタイトルが凄く良いと思いませんか? 百万年ピクニックって」

     

    fee「いいですよねぇ。これから百万年、ピクニックするんですよね?」

     

    残響「そういう意味ですよね。未来に向かっての百万年ピクニックですか。希望に満ち溢れてはいないけど、茫漠とした感じがしますね」

     

    fee「ピクニックに来たっていう」

     

    残響「この軽い感じがね」

     

    fee「まぁ、軽い気持ちにならざるを得ないよね……」

     

    残響「そうですねぇ……【ならざるを得ない】っていうのは言いえて妙です」

     

    fee「子供たちは本当に軽い気持ちで来てるしね」

     

    残響「パパとママはすこぶる重い気持ちで来ていますけど」

     

    fee「そりゃそうですよ。そうなんですけど、ティモシーもまた両親の気持ちを解っちゃっているのが、かわいそうというか。ティモシーって何歳なんだろ。小学校高学年くらいに思えるけど」

     

    残響「パパがティモシーを肩に乗せるシーンがありますよ。中学生よりは下でしょうね」

     

    fee「じゃあやっぱり、小学生……だとするとティモシー健気ですね。高校生ぐらいなら……いや、高校生でも辛いは辛いですが。一人で泣いているシーンもありますし、パパとママの前でも演技をしてるんでしょ? 無邪気な子供の振りをして……実にティモシーが健気ですよ」

     

    残響「ぼくはこの話、パパが、自分の代で全部【地球的なるもの】を葬り去ろうとしている。ティモシーたちにはまっさらな形で生きてほしい……と、そう読んだんです。でも、ティモシーは今までの地球的なものを背負っているから、引き裂かれているというか。上手く言えませんが、これでいいのか?的なぼんやりとした悩みから抜け出せないといいますか」

     

    fee「うん」

     

    残響「でもこれでやっていくしかないんだよな、みたいな」

     

    fee「パパは

    『たとえ、戦争がなかったとしても、わたしたちは、わたしたちの新らしい生き方の基準を作って生きるために、火星にやって来ただろう。火星がいずれは、地球の文明に『汚される』にしても、それまでまだ百年はかかっただろうからね。もちろん、いまは――』

    汚されるって言っていますね。地球的なものではなく、新しい生き方の基準で生きて行こう、というのがパパの思想です。その象徴がロケットの破壊かなと」

     

    残響「そうですね。ただ、パパはそう思っているけど、ティモシーはやっぱり【地球的なるもの】への愛着があって、そう簡単に割り切れないと言いますか。パパの理想を子供に解れ、って言っても難しいでしょうね」

     

    fee「ティモシーは、地球を探しているシーンがありますけど……ティモシーはそんなに地球に愛着があるんですか?」

     

    残響「うーん、どう言えばいいのかなぁ……うまく言えないんですけど……」

     

    fee「あぁ、でも地球の地図をパパが焼こうとしている時に、ティモシーは視線を逸らしたりしていますね。そうかぁ……言われて気づいたけど、残響さんの仰るとおりですね」

     

    残響「地球の具体的なアレコレに対する愛着、というよりは、もっとぼんやりとした火星に対する不安感……パパに対して論陣を張って、『違うんだ!』みたいな事は言いませんが、これでいいのかな?というか」

     

    fee「『ティモシーは、パパが火に投げ込んだ最後の一つを、眺めた。それは、地球世界の地図だった(略)。ティモシーは視線をそらした』」

     

    残響「ティモシー自身には、〇〇をしたい、という意思が今はないんですよね。考えているのは、これからどうしたらいいんだ?という。不安に脅えているようなシーンばかりで、これからどうしたい、というものが見えてこない」

     

    fee「ピクニックに来たばかりですからね。そんな適応能力はなかなかないと思います」

     

    残響「まぁ確かに……」

     

    fee「パパは、『女の人には気をつけろ』とか、わけのわからない事を言っていますけどね」

     

    残響「ははははw」

     

    fee「もうそんな時代じゃないのに、そんな事を言われても……」

     

    残響「全然地球的な考え方を捨てられてないですね、パパw」

     

    fee「10歳と8歳の弟たち、って文章があるので、ティモシーは11歳以上ではあるんですね」

     

    残響「そっかそっか。そうですね。さて、ティモシー少年がこれから【火星人】として、この火星で生きていくのですが、その先にあるのは果たして栄光か滅亡か。安らぎか絶望か。この茫漠とした火星の大地は、今日も静かに在る……、みたいな余韻を個人的には感じています。【登場人物個人の意志】というよりは、【火星の意志】というか、ね」

     

     

    次回へ続く……(『火星年代記』読書会 総まとめ&お疲れ様会)

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(5)

    • 2018.01.03 Wednesday
    • 16:53

    ★2036年9月「火星の人」 火星人の悲劇

     

    fee「僕、この話は結構好きなんですが」

     

    残響「ぼくも好きですね。最後はドタバタになりますが、中盤までのブラッドベリの描く優しい世界観は好きです。こういうのを描かせるとほんとに巧いですよね。少し『第三探検隊』にも似ているような」

     

    fee「ですねぇ。あらすじを言いますと、老夫婦のもとに亡くなったはずの子ども、トムが訪ねてきます。来てくれて嬉しいはずなのに、疑ってしまうラ・ファージュさんの気持ちが悲しい……」

     

    残響「常識で考えればあり得ないですからね。幸せな夢というか……。ただ、最初は疑っていたラ・ファージュ夫妻ですが、後半になると火星人だろうがなんだろうが関係ない。これは私の子だ!と言うシーンがあります。

     

    ラ・ファージュ夫人は、トムをうしろにかばった。『これは、わたしの息子です。あなたがたは、この子にどんな罪をきせる権利もありません。わたしたちは、いま家へ帰るところなんです!』

     


    fee「幸せな夢を疑って、わざわざ覚める方向に行かなくてもいいのにと思っちゃいますが……そんなものなのかなぁ。アンナのこの啖呵は格好いいですよね。話を戻しますが、トムの正体は火星人ですが、『第三探検隊』の時と違って悪意はないんですね」
     

    残響「あ、そうだ。『歓迎と別離』にも似ているんだ」


    fee「おぉ、そうですよ! 押しつけられた役割を演じながら生きていくあの少年に、確かに似ている」
     

    残響「それもそうですが、あの時*1イノセンスというものについてお話しましたよね。この作品からも、そのイノセンスを感じるわけです


    fee「なるほど。しかし、ラストの悲劇を生んだのは、ラ・ファージュ夫人の責任ですな。『ぼく、町が怖いんだ。ひとびとが。行きたくないよ』ってトムが言っているのに。これは当たり前ですよね。ラ・ファージュ家以外の人に出会ったら、また違う姿に変身してしまうかもしれません。ラ・ファージュ一家もトムも、このままの生活を望んでいるわけだから……」
     

    残響「でも遅かれ早かれ無理だったんじゃありませんか? やっぱり町に行かないわけにもいかないし。トムと一緒にどこにも行けない、というのはやはり寂しいし……」


    fee「心情的にはわかりますけど、そこを我慢して、トムは家から出ちゃいけないんですよ。DVDを借りて来て家で一緒に見る、家でいろんなお喋りをする、そういった楽しみ方で我慢しなきゃいけなかったんです。トムと一緒にいたいなら。危機意識が足りませんよ」


    残響「案の定、トムはいなくなって、ラヴィニアという少女に変身してしまいます」
     

    fee「便宜上トムと呼びますが……かなり抵抗した後、またトムに戻りますよね。この力関係というか、変身のメカニズムはどうなってるんでしたっけ?」


    残響「

     

    『この家で、思ってらっしゃるのが、とてもとても強いのです。まるで牢屋に捕らえられているみたい。わたし、もとの身体には帰れませんわ』

     

    とありますね。人々の想いの強度で姿が変わるのかな」


    fee「この後、トムはたくさんの人々に追いかけまわされ、その都度姿が変わっていきますが……。
    皆が、亡くした家族や恋人を思い浮かべる中で、巡査がふるっていますね。『ちょっと待て』と、巡査が叫んだ。『これはわたしの犯人だ。名前をデクスターといって、殺人容疑で手配中なんだ』」


    残響「犯人逮捕に執念を燃やしていたんですねw どんな相手よりも、犯人に会いたいw」


    fee「寂しい人なんですよw この後も『かれは市長であり、ジュディスという少女であり、夫のウィリアムであり、妻のクラリッスであった』とありますけど、誰ですか! 市長に会いたがってたのは!」


    残響「なぜ市長www」


    fee「そのうち、トムのキャパシティが限界にきて……」


    残響「

     

    かれは石の上に横たわっていた。(略)その顔は、あらゆる顔、片目は青く、片目は金色、髪の毛は、茶色で、赤で、黄で、黒で、片ほうの瞼は厚く、片ほうは薄い、片手は大きく、片手は小さい。

     

    なんかもう、無茶苦茶になって、ついに死んでしまいます」


    fee「『アンナは、なにもいわずに、泣きだした。『さ、家へ帰ろう、アンナ。しょうがないじゃないか』と、老人はいった』。悲しいですなぁ……でもアンナが街に連れて行ったりしたから……」


    残響「悲しい話なんですよ。アンナだって、ただトムと一緒に街を歩きたかっただけなんです……」


    fee「そうですねぇ……。ラヴィニア(トム)が、(ラヴィニアの)父親にふるえる声で『ロッホローモンド』を歌っていたり、詩情に溢れた良い作品ですね」


    残響「『第二のアッシャー邸』も『火星の人』も、最後はドタバタ展開ですけど、だいぶ読み口は違いますね」


    fee「『火星の人』は物悲しく感じます」

     

    *1 イノセンス……『無垢なるもの。子供が大人に成長するにつれ、失われていくもの。近代以降の欧州の物語類型(「小説=ノベル」)では、それをポジティブに成長物語(いわゆるビルディングス・ロマン)とする例が多いように思うんですが、アメリカ文学ではむしろ成長と引き換えに失われていくもの、見失ってしまうもの。そちらに目を向けるケースが多くて。

    (中略)

    イノセンスの喪失だと、たとえば『ピーター・パン』とか『ハックルベリー・フィン』とか。あるいは『ライ麦畑でつかまえて』とか(ブラッドベリ『太陽と黄金の林檎』読書会(7)「歓迎と別離」より)(残響)


     

    ★2036年11月「鞄店」 核戦争突入直前の地球


    fee「ついに地球が核戦争に突入するということで、火星の植民者たちが地球に急ぎ帰還する、というお話です。でもこのお話、変じゃありませんか?」


    残響「変、とは?」


    fee「残響さんが植民者だったら、核戦争前夜の地球に帰りたいと思います? 僕なら帰らないですけど」
     

    残響「あぁ……そういう事か……。絶望の地に帰りゆくのか……」


    fee「なんでわざわざ死ぬために帰るんですか? いや、帰る人はいるとは思いますよ。でも……ネタバレになってしまいますが、ほとんど全員が地球に帰っていますよね?」


    残響「P304、4行目

     

    『まだ火星にきて長い年月が経ったわけじゃなし。せいぜい二年ってとこでしょ。四十年もこの火星に住んでるんなら、話は別です。だが、みんな地球にゃ親類がいるし、生まれ故郷の町もあるんですからね』

     

    とは言っていますが……」


    fee「説得力ないなぁと思います。そりゃ、独身老人とかは帰るかもしれません。でもたとえば『音楽家たち』にしろ『火星の人』にしろ、家族総出で火星に来ている人たちは沢山いますよね。その人たちが、わざわざこぞって地球に帰るんですか? 死ぬために? それはないわぁって思います」

     

    残響「なるほど……。自分だったらどうする、というふうに考えて作品を読んでいなかったので、『そんなもんかなぁ』と思って読んじゃいましたが、言われてみるとおかしいですね」


    fee「ほぼ全員が地球に帰る事にしないと『火星年代記』という作品は成り立たないですし、『火星年代記』という作品自体はとても面白い作品だと思います。しかし……物語としてはプロット段階で破綻していますよね。もし僕が作家で、このプロットに気づいたら、お蔵入りになっちゃいます。でもお蔵入りにせずに書かなきゃ、名作は生まれないという事でもあるんですけど……」


    残響「あんなに褒めてたのに破綻作品扱いに(苦笑)」


    fee「ブラッドベリ先生は、精密なプロットを構築して物語を作る人じゃないですからね……。いいんですよ、これはこれで……。でもこの展開はなぁ……。もしみんなが一斉に帰るとするなら、火星の地で新たな伝染病が発生したとかね。あるいは、同調圧力とか……もう少し何か理由をつけるかな」


    残響「なるほどなぁ……ブラッドベリ自体は帰る人なんでしょうね。なんだかそんな気がする。自分が帰る人だから、あまり疑問に思わなかったのかもしれません」


    fee「あぁ〜、わかる気がします」

     


    ★2036年11月「オフ・シーズン」 ついに地球が核戦争に突入


    fee「ついに地球が核戦争に突入した『オフ・シーズン』。主人公は我らがナイスガイ、サム・パークヒルです!」


    残響「いよっ! 待ってました!(ドラムロ―ル音)」


    fee「火星にホットドッグ屋を構えたパークヒル君の元に、火星人が警告にやってきます。地球が核戦争の危機だ、と。しかしパークヒル君は、火星人はみんな敵だと思ってるから、打ち殺して逃げちゃう。そうしたら火星人が追いかけてきて、激しいデッドヒートの末、ついに捕まってしまいます。火星人は土地の権利書をパークヒル君にくれまして、大地主、サム・パークヒル君が爆誕するわけですね。その夜、地球は火の海に……」


    残響「大出世を遂げたパークヒル君が、柄にもなくポエムを詠むシーンが最高ですね。『懐かしき地球よ』と、サムは愛しげにささやいた。『懐かしき、素晴らしき地球よ。汝がひもじく飢えたる者を、我に送れ。何ものか、何ものか……あの詩はどう言ったっけ?』ってのがパークヒル君っぽいですが」


    fee「火星人は地球の危機を教えに来たはずなのに、結局は言わずに去っちゃっていますよね」


    残響「あまりにもパークヒル君がバカだから、伝える気もなくしちゃったんでしょうね……愚かだし、臆病だし……」


    fee「まぁなぁ……この手のタイプの人は、エネルギーはあるんですけどね。差別主義者で、知性が足りなくて、行動的で、でも気前が良くて仲間には親切だったり……」


    残響「悪人ではないけどDQNみたいな……」


    fee「まぁw なんだろ、でもこの手の人には好かれてしまえば結構優しくしてくれるので、たまに顔を合わせる分には嫌いじゃないですよ。いつもだと疲れちゃうけど」


    残響「サムにはホットドッグが合っている気がしますね。こういう人が作ったホットドッグって、なんだか妙においしそうで」
     

    fee「いいなぁ。サムのホットドッグ食べたい!」


    残響「サムの奥さんのエルマはしっかりしていますよね。火星人相手にもサムほど動じていないし、地球が燃え尽きるのを見てガックリ来るサムを励ましていますし」


    fee「励まして……はいないんじゃないでしょうか?」


    残響「てきぱきと濡れタオルを腕にかけて、『もっと明かりをつけて、音楽をかけて、ドアを開きましょう』とサムの尻を叩いて活気づけていませんか?」


    fee「いやいやいや、これはエルマの皮肉ですよ」


    残響「あー、そう読みますか……いやでも確かに皮肉だと言われればそうも……」


    fee「まず、『ここ何日かのあいだで初めて、エルマの眼は輝いていた』んです。サムがホットドッグ屋を開業するという、この輝かしい準備期間に、エルマの眼は輝いていなかった。つまりホットドッグ屋を作るのには反対だったんですね。『(十万人の飢えたお客様が来るのは)原子戦争が起こらなかったらよ。原子爆弾は信用できないわ』と言っています。核戦争を予感しているわけです。でも、バカなパークヒルに言っても聞きっこないので黙っている」


    残響「はい」


    fee「で、最後になって急に活き活きしだすんですよw 『あと百万年もしたら、またお客がどっと来るわ。準備しとかなくちゃね』『ホットドッグ・スタンドに、なんて打ってつけの場所だこと』、この2つの台詞は完全にエルマの煽りですよ」


    残響「準備しとかなくちゃね(プークスクス)w って感じでエルマは草を生やしてるのかww」


    fee「そうですよ。今まで散々サム・パークヒルに我慢してきたのか、鬱憤晴らしで煽りまくり、草生やしまくりですよ。もし失意のパークヒルを元気づけたかったら、『地球に皆が帰ってしまう前に、最後にお客さんが来るかもしれないわ。たった1日かもしれないけど、精一杯営業しましょうよ!』とか、そんな感じになると思うんです」


    残響「なるほどなぁ、草を生やしまくるヒロインとはw」


    fee「今まで散々パークヒル君のわがままに振り回されてきたんでしょうし、仕方ないですね……」

     


    ★2036年11月「地球を見守る人たち」 植民者たちが一斉に地球へ帰還する


    fee「ついに核戦争が勃発し、皆が地球に帰り始めます」


    残響「はい」


    fee「……何か話すことはありますか? なんかこの辺りの話、全部『鞄店』で話しちゃったからなぁ……」


    残響「そうですねぇ。それにしても鞄店はボロ儲けでしたね!」


    fee「サム・パークヒルのホットドッグを食べてから地球に帰る人はいないのかな……」


    残響「w 意外と美味しかったりして」


    fee「『貯蔵原爆ノ不時ノ爆発ニヨリ濠大陸ハ粉砕サレリ。ロサンゼルス、ロンドンハ爆撃ヲ受ク。戦争勃発ス』

     

    とありますけど、オーストラリアって原爆持ってませんよね?」


    残響「……ですね。まぁきっとこの世界では持っていたんでしょうw」


    fee「せっかく31年追加したって、このありさまじゃなぁ……ロンドンとロサンゼルスが爆撃されたみたいですが、相手は誰なのかしら」


    残響「第三次世界大戦じゃー……っていっても、描写がないのでござった……」


    fee「この辺はなんかセカイ系っぽいですよね。どことどこが戦争してるんだかわからないけど、とりあえず戦争してる。さて、次行きますか」

     


    ★2036年12月『沈黙の町』 人のいなくなった火星。取り残された地球人は……


    fee「主人公はウォルターさん。山奥に住んでいた情報弱者のウォルターさんは、みんなが地球に帰っちゃったのに気づかずに、取り残されてしまったんですね。寂しくて色々と電話をかけたりしていると、なんとジェヌヴィエーヴという女性に繋がります。期待に胸を膨らませて会いに行くと、これがとんでもない女で、逃げてしまい……『そして、長い年月をおいて、ごくときたま、電話が鳴るが、ウォルターは、けっして返事に出たことがない』


    残響「人のいない火星の描写が実に良いですね。ぼく、こういうの好きなんですよ。人がいない街。世界崩壊後みたいな、ディストピアみたいな」


    fee「僕もそういうのは好きですね。しかもウォルターさんはジェヌヴィエーヴに会いに行くために何百キロも車を飛ばしていますし。無人の道路を突っ走る、ロードムービー的な……」


    残響「最高ですね! 2017年秋から始まるアニメで『少女終末旅行』という作品があるんですが」


    fee「どれどれ。(ストーリーを見る)あー、『ほのぼのと生き抜く』のか。あまりほのぼのしない方が好みです」


    残響「もっとガチというか緊張感のあるやつですか?」


    fee「僕のお薦めは、ロジャー・ゼラズニイの『地獄のハイウェイ』ですね。ゼラズニイ作品は苦手なんですが、この作品だけは好きなんです」


    残響「ふむふむ(ストーリーを見る)。あ、こういうの結構好きそう。Amazonの欲しいものリストに入れとこ」


    fee「ありがとうございます。250ページぐらいなので読みやすいと思います。後はそうですね、『キノの旅』とか」


    残響「あぁ、なるほど」


    fee「もう少し疾走感があるとロードムービーっぽくなるんですが……。あと、『Planetarian』とか」


    残響「ありましたねぇ」


    fee「僕たちRPGも好きですからね。FF6の世界崩壊後とか、ワクワクするでしょ?」


    残響「この対談はなぜかFFの話が多いw」


    fee「ちょっと脱線が過ぎましたね。えと、なんだっけ。そうだ、残響さんがディストピア描写が良いと言っていたところでした」
     

    残響「ですです。それと同時に、人がいなくなって、『火星年代記』という物語自体も終焉に向かっていくという、そういった寂しさも感じました」


    fee「なるほど……。確かにこの後は、ワイワイとたくさん人が出てくる話はありませんしねぇ。で、僕の感想なんですが……」


    残響「はい、お願いします」


    fee「これ、出会い系小説だなーって」


    残響「出会い系ですかww」


    fee「メル友とか文通でもいいですよ。相手の顔が見えない状態でメッセージを送り合って、それでいざ会おう、となった時の話です。男性は……女性もそうだと思うんですけど、相手に対してやっぱり『期待』しちゃうと思うんですよ。『美人』だったらいいな、みたいな。同時に『生理的に無理』なレベルの人が来たらどうしよう、という脅えもあると思いますが」


    残響「生理的に無理って……w」


    fee「一緒にいる時間をできるだけ減らしたい!レベルに嫌な人、ってことです。……僕だってこんな辛辣な事言いたくないですよ! でもジェヌヴィエーヴの話をこれからするんだから、しょうがないでしょ!」


    残響「まぁまぁww わかってますから大丈夫です」


    fee「こほん。とにかく、『期待』と『不安』入り混じる中、まぁたいていは超絶かわいいわけじゃないものの、『うん、まぁ割とかわいい』とか、『うーん、タイプじゃないな』と思いつつも、全力ダッシュで逃げたくなるほどの人にはなかなか会わないと思うんですよね」


    残響「そういうものですか」


    fee「いや、僕だってそんなに経験ないけどww で、ウォルター君は純朴だったのか、『期待』ばかり膨れ上がっちゃったんですな。火星で、ひょっとすると生き残りは自分とジェヌヴィエーヴしかいないかもしれない。となれば、高確率で一緒に住んだりとか、近くに住んだりする可能性もありますよね。やっぱり一人ぼっちは寂しいし」


    残響「ふむふむ」


    fee「もしジェヌヴィエーヴが美人だったら、ウォルター君に春がやってきたかもしれませんよ。『終末の世界をいちゃいちゃと生き抜くいちゃらぶディストピアが今、幕を開ける』かも」


    残響「なにそれ、最高じゃないですか!(早口)」


    fee「ウォルター君の描写はあまりないけど、恋人はいないですよね? そんなにモテモテでもないでしょう。そんなウォルター君が美女と結ばれるチャンスだったのに……何百キロも車を飛ばして会ってみたら……」


    残響「夢も希望もないww」


    fee「控えめに言っても最悪ですよね。ブスなだけじゃなくて……」


    残響「なんか汚いですよね」


    fee「チョコレートでべたべたの手で握手しようとしてきますし。食べるなとは言わないけど、手ぐらい拭いてほしいw」


    残響「性格だって……」


    fee「ジェヌヴィエーヴは空気が読めない。相手がドン引きしているのに婚礼衣装を持ってきたり」


    残響「ヤバいですよ。狙われてる感じがw」


    fee「人の名前をいっつも間違えるし、延々同じ映画見たりするしw

     

     『みんなが、あたいをいじめるからさ。だから、あたいは、いちんち中、香水をからだにふりかけても、なん万杯ビールを飲んでもかまわない、『おや、それはカロリーがありすぎますよ!』なんて言われないで、お菓子をどっさり食べられるところに、残ったのよ!』
     

    これもねぇ。ちょっとぶっちゃけすぎですよねw」


    残響「香水はさすがに勘弁してほしいなぁw」


    fee「欲張りすぎなんですよ。もしこれをやりたいなら、当然ウォルターの事も諦めなきゃいけない。ウォルターを手に入れたいなら、香水とビールとお菓子はほどほどに、ですよ」


    残響「でもジェヌヴィエーヴはきっと、『このままの自分を愛して』なんでしょうね」


    fee「少なくともこの時はそうですね。『きみはいくつだい?』に対する『あててごらんよ』のところも最高。『三十だな』と、ウォルターが言った。『あら、あたい、まだ二十七よ、失礼しちゃうわ!』ジェヌヴィエーヴは憤然と言った」。
    たいてい、外見年齢ってちょっと下めに言いません? 30に見えたら、『27歳ぐらいに見えますね!』みたいな。でも、下めに言っても30だとしたら、一体ウォルターにはジェヌヴィエーヴが何歳に見えたのかw」


    残響「ウォルターはもうこの時点で嫌気がさしていて、適当に本当の事を言ったのかもしれませんよ? こいつにお世辞言ってもしょうがないなと思って、『30に見えるな』って」


    fee「あー……そうかも。確かにそうかもしれないですね。となると、ジェヌヴィエーヴが27歳なのに35くらいに見えたという老け顔説は一蹴されちゃいますね」


    残響「まぁ一応3つ上には見えているわけですが」


    fee「3つ上ぐらいなら誤差範囲でしょw ちなみにウォルターはクラーク・ゲーブルに似てる、のかな? ほんとに?って感じもしますが」


    残響「クラーク・ゲーブル?」


    fee「昔の俳優さんですね。これです


    残響「おぉ、なるほど……」


    fee「ちょっと渋すぎる気もしますがw」


    残響「それで思ったんですけど、ブラッドベリはあまり人物の外見描写を書かないんですよね。でも、ジェヌヴィエーヴの描写はえらく気合が入っていて、10行も書いています。
     

    『女は、ふたの開いたクリーム・チョコレートの箱をかかえこんでいた。箱を抱いているその手は、ぶよぶよ肥って、色艶が悪かった。陽の光の中へ出てきたその顔は、まんまるく肥えていて、眼は、真っ白なパン粉を捏ねた中に突っこまれた、二個の大きな卵のようだった。脚は、樹の幹のように太くて、それを不格好に引きずって歩いていた。髪の毛は、判然としない茶褐色で、鳥の巣の御用を、何度もつとめさせられていたように見えた。唇らしいものが全然なく、その埋め合わせに、大きな、真っ赤に脂ぎった口が描かれていて、いま、その口が、うれしさにぱくりと開いたと思ったら、急に驚いたように、また閉じてしまった。眉毛は、余分な毛が抜かれて、細い、アンテナ線みたいな形にされていた』


    fee「もうね、何もかも酷いね……そんなジェヌヴィエーヴに言い寄られたら……」


    残響「そりゃ逃げますよw」


    fee「逃げるシーンも面白いですね。

     

    『ウォルター・グリッフ、もどってきてよお!』ジェヌヴィエーヴは、両腕をふりあげて、泣き声をあげた。『グリップだよ』と、ウォルターは訂正した。『グリップったら!』ジェヌヴィエーヴが叫んだ。
     

    ウォルターが名前を訂正させているのも面白いし、ジェヌヴィエーヴがようやくウォルターの言葉をちゃんと聞いて訂正しているのも面白いw」


    残響「この後、ジェヌヴィエーヴからの電話にウォルターが出る事はないんですね……」


    fee「ひょっとしたら、ジェヌヴィエーヴは改心して、すごい綺麗になって電話してきてるかもしれませんよ? でも電話に出なきゃそれもわからない……」


    残響「まぁ、ないと思いますよw」


    fee「電話に出ちゃうと、場所が分かっちゃいますからね。場所が分かったら、絶対会いにくるでしょ。それが怖いから出られないんですよ。もしこれが携帯電話なら出てちょっと話をするくらいしてあげても……と思うんですが。ジェヌヴィエーヴはきっと電話帳を何周も何周も、片っ端に上から下まで電話してるんでしょうね。健気だなあ」


    残響「うーん……」


    fee「ちなみにもし残響さんがウォルターの立場だったら、どうします? 電話して会いに行きますか?」


    残響「暇だったらいく感じですかね。ぼくなら、ジェヌヴィエーヴみたいに一人で好き放題やって楽しく暮らすかな……」


    fee「僕だったら……多分、寂しくて自殺しちゃうな……」


    残響「そこはぼくたちは全然違いますね。どちらが良いという話ではないけれど」


    fee「そうですね。だから、まぁジェヌヴィエーヴはヤバいと思いますが、僕はジェヌヴィエーヴに対して多少同情的なんですよ」
     

    残響「逆にぼくがジェヌヴィエーヴだったら、ウォルターのためにお菓子やビールを我慢したりはしませんね」


    fee「僕ならするなぁw いや、もちろんお菓子やビールが全部ダメ!とかだと嫌かもしれないけど、ほどほどにね。1日1回のお菓子、1日1〜2杯のビールを許してくれるならいいと思うんだけどなぁ。ところで、この後のネタバレになりますが、火星にはハザウェイさんもいたはずですよね。電話に出なかったのかな?」


    残響「そういえばそうですねw」


    fee「ハザウェイさんのように、ジェヌヴィエーヴにも火星人が来てくれれば良かったのになぁと思いました」

     

     

    第6回に続く……

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(4)

    • 2018.01.03 Wednesday
    • 12:28

    ★2034年 5月「荒野」 火星に行った男を追って、女もまた旅立つ

     

    fee「あらすじから行きます。主人公はジャニスとレオノーラという二人の女の子です。ジャニスには火星に行っているウィルという婚約者がいます。そのウィルが、ジャニスと一緒に住んでいた地球の家を、火星でそのまま再現しまして、その写真をジャニスに送ってきたんですね。で、それを受け取ったジャニスが、ホームシックと戦いながらも、『火星へ行くぞ!』という、出発前夜を描いたお話です」

     

    残響「出発前夜なんですよね。実際にはまだ行っていない」

     

    fee「地球にある家を、そのまま火星で再現して写真を送ってくるという発想が、ブラッドベリらしいなぁって」

     

    残響「あぁ、わかります」

     

    fee「こういうの好きですよね、ブラッドベリって。『第三探検隊』でもあったし、『第二のアッシャー邸』でもあったし、『太陽の黄金の林檎』にも『草地』がありましたし……」

     

    残響「めちゃくちゃ使いまくってますね、この【再現】系の設定w」

     

    fee「昔のものを残したい人なんですよ、ブラッドベリってw」

     

    残響「あぁ、なるほど」

     

    fee「多分、母校が統廃合とかになると悲しんじゃうタイプですよ。自分がいた部活が潰れちゃうと悲しいし、OBとしていつまでも後輩の顔を見に来るタイプかなと」

     

    残響「『次、行こ、次!』 ってタイプではないですよね」

     

    fee「そうですね、『次、行こ、次!』が読みたかったらハインラインを読みましょう。地球がダメになったから違う星に行くぞ! 違う星もダメになっても、まだ宇宙には無限の星々があるんだ! 完 みたいな」

     

    残響「またハインラインがやり玉にあげられてるw」

     

    fee「いやいやww 読んだ時に驚いただけですw そんなストーリーでいいんか!?っていうね。でも、そんなストーリーでいいんか!?って思っちゃうのが僕の立ち位置とか、ブラッドベリの感覚で、そうだー未知の世界が待ってるぞ!って胸をワクワクさせるのがハインライン的な感じではないでしょうか。冒険漫画的な」

     

    残響「なるほど」

     

    fee「『荒野』に話を戻します。出発前夜なんですが……レオノーラっていうのは何者なんですかね?」

     

    残響「ほんと、なんなんだろ。ジャニスの親友なんでしょうけど、よくわからないんですよね。……そこで出てきた仮説が」

     

    fee「3Pカップルなんじゃないかっていう。3Pカップルっていうか……シェアですよ。やっぱりいい男性は貴重だから、みんなでシェアしないとねって話で」

     

    残響「シェアですか」

     

    fee「シェアですけど、正室はジャニスです」

     

    残響「レオノーラは愛人というか、【サブポジションで満足している】女性なのかなって思ったんですよね」

     

    fee「サム・パークヒルを独占するよりもウィルを二人で分け合った方が、絶対お得ですしね」

     

    残響「まぁね……(沈黙の納得)」

     

    fee「ジャニスが相手ならいいんじゃないですか。友だちであるジャニスと二人で分け合って、二人で絞りつくせばですね、ウィルは他のところに浮気に行く元気もなくなってしまって、これでもうめでたしめでたしですね」

     

    残響「純愛系の路線なんだけど、ハーレムものというか萌えエロものというか……」

     

    fee「この話、純愛系なんですか? うーん……というか、レオノーラが3Pカップルなんていうのは僕らが勝手に言っている仮説ですしね。実際、レオノーラとジャニスが一緒に火星に行く理由が解らないので、作られた仮説にすぎません」

     

    残響「なんでジャニスと一緒に行くのか。【私も一緒に行くわ】という流れがどうもよくわかりません」

     

    fee「そう。レオノーラが火星に何をしに行くのかがわからない。レオノーラにも既に男がいて、その男から同じタイミングで手紙が来た〜みたいな設定があれば、僕だって3Pカップルなんてふざけた事を言わずに済むんですけど……」

     

    残響「エロゲの話になっちゃいますけど、従者系のヒロインならわかるんですけどね。ジャニスが主人で、レオノーラが従者的な……。ちょっと話は変わりますけど、『荒野』に出てくる男性原理、女性原理みたいなものが、ぼくはかなり苦手でした」

     

    fee「『私たちは女なんだから、女は後からついていくのよ!』みたいな台詞がありましたね」

     

    残響「そうそうそれそれ」

     

    fee「男女観が合わないんですね。まぁ古くさい昭和な考え方ではありますね」

     

    残響「私たちは子供を産む機械なのよ、までは行かないけど……あんまり好きな考え方じゃないです」

     

    fee「わかりますよ。わかりますけど……『荒野』はそこまでキツくないんじゃない?」

     

    残響「まあそこは、ぼくが過敏反応しているだけであって。仰る通り、フラットに見ればそんなにキツくないです」

     

    fee「実際のところ、開拓者なので。男が先に行って、ある程度環境を整えて女性を後から迎え入れる。以前も言いましたけど、この『火星年代記』自体が、コルテスのアステカ征服をモチーフにしていると思っています。そう考えると、ある程度しょうがないんじゃないかなと。僕もあまり、男が〜女が〜という考え方は好きではないですけどね」

     

    残響「なるほど。『わたしたちの子供は、アメリカ人でも、地球人でもないのね。わたしたちは、これからあと死ぬまで火星人になるのね』という台詞も、なんかぼくからしたら、陵辱系エロゲの『嫌ッ! 嫌ぁっ!! あなたの子供なんて産みたくないぃぃぃ!』みたいな……」

     

    fee「いやいやいやww代々続いている肉屋に嫁ぐので、『私に子供ができたら、子供も肉屋になるのかしら』くらいの発想でしょ。あるいは、残響さんに彼女がいるとしてですね。彼女がアメリカで働いていて、『残響さんもこっちに来て暮らしましょうよ』的なですね。で、残響さんがアメリカに行って子供ができたら、子供もアメリカ人になるでしょ?」

     

    残響「あーなるほどなるほど。そういうふうに考えるのが普通か……どうも蟲に陵辱されるヒロイン(嫌ぁっ! 蟲の卵なんて、子供なんてぇっ!)みたいなものを連想してしまって……」

     

    fee「ウィルは一体何者なんですかww そんなに嫌なら行かなきゃいいんですw」

     

    残響「作品全体を通して、浮ついた女の子っぽさと、ドロッとした女性観みたいなものが矛盾なく共存しているような。悪い意味でキャーキャー言ってるのがジャニスで、飄々としているのがレオノーラで」

     

    fee「P234、2行目 ジャニス『わたし、このままではオールドミスになってしまう』 レオノーラ『それがいやなら、予定通り行動することね』」

     

    残響「ジャニスがあぁでもないこうでもないって騒いでいるのを見て、ひそかに楽しんでいるレオノーラという百合妄想……」

     

    fee「まぁとにかく、レオノーラの方が落ち着いている、と。人称の問題ですが、心理描写があるのはジャニスだけなんですよ。レオノーラが何を考えているかは、よくわからない」

     

    残響「そうなんですよね」

     

    fee「そういうこともあって、レオノーラがクール系に見える、と。クールな姉さんで、愛人でもOKと。レオノーラの方が、ジャニスよりも色々と計算高そうな感じはありますね。
    P230、14行目『ウィルって』と、レオノーラはうなずきながら言った。『しっかりした人ね』。
    この台詞を見ると、3Pとか愛人っていうほど、ウィルとレオノーラの関係は近くない気がしました。……3P恋人説は無理があるか……」

     

    残響「もう一つ説があるとすれば、ジャニスとレオノーラは娼婦なんじゃないかっていう……」

     

    fee「ん? レオノーラは娼婦かもしれないが……」

     

    残響「ジャニスもです」

     

    fee「ジャニスも??」

     

    残響「ジャニスとウィルが割といい仲になっちゃって、レオノーラもついでだからついていくみたいな」

     

    fee「仮に娼婦だったとしても、ジャニスはウィルと結婚して娼婦引退でしょ? 娼婦……娼婦にもいろんなタイプがいるけど……娼婦でこんなに無邪気なのかなぁ、ジャニスちゃん……」

     

    残響「だからこそ無邪気だという説……の可能性もあるんですよ、個人的には」

     

    fee「……うーん。……レオノーラは本当に謎ですよね。結局レオノーラの謎は解けないですね」

     

    残響「解けませんね……こんなに謎な人物だとは思わなかった」

     

    fee「家の写真が届いているけど、レオノーラが一緒に住むって話は特にないみたいだし、レオノーラは火星に行った後どうするのかな。火星にわざわざ行って、ホームレスになるのか?っていう。ジャニスの家は新婚でしょ? 新婚の家にお邪魔するのもちょっと気が引けますしねぇ」

     

    残響「そういえば、ジャニスとレオノーラって距離が近すぎるんですよね」

     

    fee「近いよねぇ」

     

    残響「ラストシーンで、同じ部屋でベッドに寝て、寝るまでずっと、これからの不安の事を語ってるんです。友人というには近すぎて、ほとんど姉妹的な」

     

    fee「ちなみにこれ、別々のベッドに入ってるんですよね? 一応P237 9行目『ジャニスはベッドのなかに一人横たわっていた』とあるし。まぁ同じベッドに入っているけど、一人で横たわっている気分になる事もありますけども」

     

    残響「あっそうか。まぁそこは読み方次第ですけど……」

     

    fee「喋っていても、レオノーラの謎は解けそうにない……次に行きますか」

     

     

    ★2035―2036年 名前をつける  地球風の地名がつけられる

     

    残響「短い話ですけど結構面白いですね。地名の設定集みたいな、こういう感じはいい。スペンダー丘がありますよ!」

     

    fee「ヒンクストン・クリーク、ラスティグ・コーナー、ブラック河……亡くなった人ばっかりだな……。あれ、でもドリスコルの森がありますよ? ドリスコルは死んだんですか?」

     

    残響「2032年『緑の丘』で植林してた人ですよね? え、死んだの? 潰えたの?」

     

    fee「生きながら伝説になったのかもしれませんね……」

     

    残響「おっ、格好良い……イカす……お前が、お前こそがドリスコル!」

     

    fee「サム・パークヒルやビグズの名前がついていないんですが……」

     

    残響「彼らは英雄ですからもっと大事なところにつけられたんですよ。ビグズ市とか、サム・パークヒル州とか……。ラストは『第二のアッシャー邸』に続くような感じで終わっていますね」

     

    fee「自治厨みたいな人が来ちゃったんですな……」

     

    残響「自治厨って単語を久々に聞きましたw なつかしい……。今も使われるんだろうか」

     

     

    ★2036年4月「第二のアッシャー邸」 火星にも禁書取締官が到来

     

    fee「エドガー・アラン・ポーの『アッシャー邸の崩壊のオマージュだと思うんですが……」(青空文庫に本文があります)

     

    残響「残念ながら読んでないです。そのせいか、よくわからなかったんですよね。何が書いてあるのか」

     

    fee「スタンダールさんという資産家が、自治厨を虐殺する話ですよね。この世界では2006年に焚書が行なわれたらしく、ほとんどのフィクションが消え去ってしまったようです。ラヴクラフトもホーソーンもアンブローズ・ビアースも。アリスもジャックと豆の木も眠れる美女も。で、ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』ばかり作ってるw」

     

    残響「『美しい文学上の嘘』や、空想の飛躍がある作品は全部焼かれたみたいですね」

     

    fee「田山花袋の『蒲団』なら焼かれずに済みそうw 太宰治の『人間失格』とか、日本の純文学は結構生き残れるのでは?」

     

    残響「『蒲団』ww 太宰は【美しい文学上の嘘】があるからダメかもですねw」

     

    fee「『火星年代記』と『華氏451度』って、ひょっとして同じ世界なのかな……」

     

    残響「どうなんでしょう。でも、『火星年代記』自体がいろんな短編の寄せ集め感があるから……*1」

     

    fee「それもそうですねw で、ですね。スタンダールさんは、お化け屋敷みたいな家を火星に建てたんです。すると、それを取り締まるギャレットさんがやってくる。ギャレットさんを『アッシャー邸の崩壊』になぞらえて殺し、そのまま『アッシャー邸の崩壊』どおりに家を崩していくわけですね。僕も『アッシャー邸の崩壊』は読んでいないのでよくわかりませんが……」

     

    残響「焚書に対する抗議とか、そういう感じなんでしょうか?」

     

    fee「そういう側面はもちろんあるでしょうね。まぁ、作品どおりの家を作って、【道徳風潮調査官】を殺して、作品どおりに家を壊すって、ものすごい道楽だなぁとは思いますがw」

     

    残響「あぁ〜、これってスタンダールさんが大暴れするお話、というふうに読んだ方がいいのかな?」

     

    fee「そういう側面ももちろんありますよ。『太陽と黄金の林檎』読書会で話した『人殺し』みたいな。スタンダールさんは中二病患者ですから。『さあ、言うんですよ。言いなさい、神の御名にかけてモントレソー』」

     

    残響「www」

     

    fee「ロボットが本物と入れ替わる、という発想は、『刺青の男』という短編集にも出てきます。ところで、ギャレットさん以外にもたくさんの人が殺されていますが、これは……あぁ、空想防止協会の会員、ハロウィンとガイ・フォークス追放の張本人たち……か」

     

    残響「ですね」

     

    fee「ギブス嬢、ポープ嬢、チャーチル嬢……嬢ですか? 焚書が行なわれたのって30年前でしょ? 一体この人たちは何歳なんですか?」

     

    残響「その辺は訳のテクニカルな問題なのかなぁ」

     

    fee「嬢っていうから、てっきり20代くらいなのかと思いましたけど、20代だと焚書の時に生まれてもいないですよ。30年前に焚書側のメンバーだったとするなら、50代とか60代でもおかしくないような?

     

    『こわいわ!』ポープ嬢は啜り泣いた

     

    ……うーん、やっぱり若い子の描写にしか思えないけど……」

     

    残響「あまり考えてもしょうがないようなw キャラ立ちしてるわけでもないですし」

     

    fee「夫人とか書いてあればまだ納得できたんですが……。焚書の発端についても触れておきます。

     

    『かれらは、まず、漫画の本の統制から始めた。それから探偵小説の統制、もちろん映画におよんだ』 

     

    一度何かを規制し始めると、際限がなくなる。そういう恐れは確かにありますね」

     

    残響「エロゲを規制したがる人たちがいますが、現代日本もエロゲの規制を発端として大規模な焚書に」

     

    fee「そういう流れになる可能性はあるでしょうね。明確な線引きがなく、ただ単純に嫌悪感から規制をしたいだけだったりすると、そうなりかねません。ホラー小説が大好きだったスタンダールさんは、ホラー小説を規制した反対派を、元作品に見立てて殺していくわけですが……」

     

    残響「凄い人数を殺してますよね。暴れすぎですよ。戦国スタンダールさん大暴れ」

     

    fee「エロゲーマーの場合は、『エロゲを規制するザマス!』みたいな教育ママを、最終痴漢電車に乗せて痴漢するって話になるんですかね」

     

    残響「アッシャー邸にも大ザルが出てきますし、獣姦いけますよ!」

     

    fee「やられたの誰だっけ……」

     

    残響「ギャレット氏」

     

    fee「男かよ! 獣×男はちょっと……」

     

    *1 ジャンル論的な小話。この場合、スターシステムというよりは、シェアードワールドの可能性もあるかも。ブラッドベリ=ラヴクラフト御大の孫弟子、な系譜……といったら言い過ぎですが。

    (1)スターシステム……ある作者が作ったキャラを、設定や役柄を変えて他の作品でも使いまわすこと。藤子不二雄作品における「ラーメン大好き小池さん」みたいなキャラ。

    (2)シェアードワールド……ある作者が作った設定・舞台を、他の作品で舞台背景・裏設定的に使うこと。ひいては、オリジナルの作家の枠を超えて、様々な作家が己の作品の舞台・設定として使う(シェア)ことにより、「〇〇文化圏」みたいな作品群を形成する。例:ラヴクラフトの「クトゥルー神話体系」。(残響)

     


    ★2036年8月「年老いた人たち」  老人も到着

     

    fee「ついにご老人も到着。『乾し杏みたいな人たち、ミイラみたいな人たちが、とうとう火星へやってきたのである……』」

     

    残響「ひどいww  ブラッドベリは老人の事が嫌いなんだろうか……いや、ある意味好きだからこういう書き方をしているのかも……」

     

    fee「それぐらいしか語る事はないですねw」

     

     

    第5回に続く……

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(3)

    • 2017.09.30 Saturday
    • 22:31

    ★2033年8月『夜の邂逅』 地球人と火星人の時空を超えた邂逅

     

    fee「ある夜、主人公のトマスは火星人と出会います。そこで、まぁちょっとした話をして、お互い帰っていく。と、ストーリーとしてはこんな感じ、でいいのかな?」

     

    残響「そうですね。本当にそんな感じ。特に何が起こるわけでもない話。まさに【邂逅】。地味な作品ではありますが、二人とも評価が高いんですよね」

     

    fee「いいですよね、この作品。まず残響さんの感想からお願いしようかな?」

     

    残響「はい。まず、やっと【対話】が成立したな……って」

     

    fee「対話?」

     

    残響「ええ……今まで、地球人と火星人って全然話が通じていなかったじゃないですか。純然たるディスコミュニケーション。最たるものは、第二探検隊は狂ってる、っていうんで精神病院ですし……」

     

    fee「確かに……最後の火星人たるスペンダーも、サム・パークヒルと対話できませんでしたし……」

     

    残響「そんなわけで、『やっと、か』、と。この作品の二人はお互いがお互いの事を尊重していますよね。話がかみ合わなくても相手を否定しない。『意見一致しないという点で意見一致しましょう』というセリフもとても良いです」

     

    fee「対談企画をやりたいなと思った時に、その『意見一致しないという点で、意見一致できる』というのはとても大切だなと思っていました。もちろんお互いが意見を主張して、間違っていると思えば変えるというのは大事ですが、片方が自説を強硬に主張して、押し流す形で議論を誘導するのは避けたいなぁと。それでいて、何でも相手に合わせちゃうようじゃ、読み物として面白くないですし……と、横道にそれました。地球人と火星人がきちんとコミュニケーションを取れた、という話でしたね」

     

    残響「ネタバレになっちゃいますが、この後の『オフ・シーズン』のサム・パークヒル、伝説のスーパーナイスガイ(白目)なんてひっどいですからねぇ」

     

    fee「サムだからね。しょうがないね」

     

    残響「コップを差し出しても、相手に触れない、そういったシーンがありますよね。時空間が歪んでいるのかな。不思議なお話でした。feeさんの方はいかがですか?」

     

    fee「この作品を読みながら、ずっと『FF10』の事を考えていたんですよね。『FF10』はご存知ですか?」

     

    残響「未プレイです。ただ、*1 『ザナルカンドにて』という曲は聞いたことがありまして。作曲者の植松信夫が好きで、彼のアルバムや、他の人の同人アレンジCDとかで聞いてました。こういう物悲しい曲がテーマソングになるような作品なのかな、とは思いましたが」

     

     

     

     

     

    fee「短編ごとにイメージソングを当てはめて『火星年代記』を読んでいたんですが、まさに、この『夜の邂逅』のマイ・イメージソングは『ザナルカンドにて』でした。『FF10』についてざっと話しちゃいますが、ティーダという青年とユウナという少女のド直球の恋愛物語です。系統としては『タイタニック』とか『いま、会いにゆきます』とか、あの辺りの雰囲気ですね。ユウナという、真面目で大変な義務を負っている幸薄そうな少女を、側で見守り、支える青年ティーダの物語。……『FF10』について喋っても大丈夫です?」

     

    残響「全然大丈夫です。ネタバレを恐ろしいまでに気にしない人間なので」

     

    fee「『FF10』は、前の世代が果たせなかった事を受け継いでいくという意味で、完成度の高い王道ファンタジーにもなっているわけですが、そこは『夜の邂逅』と関係ないのでおくとして。
    ティーダという人間には実体がないんです。千年前に滅びたザナルカンドという街に暮らした、人々の想念。天才スポーツ選手で、イケメンで、ちょっとチャラく見えるけど根は真面目でいい奴。ザナルカンドに住んでいた人々が、ある種の理想とした青年なんです。
    実体を失ったティーダとユウナが、*2 お互いに触れられず、すり抜けてしまうシーンもありますし、何より既に滅びた街の住人との出会い、交流という点で『FF10』っぽい物語だなあ、と」

     

    残響「なるほどなぁ……」

     

    fee「ギャルゲやエロゲでもこういう心が洗われるような純愛モノがやりたいなぁ……って今は『FF10』の話をする場ではないんだった! 『夜の邂逅』に戻りましょう。
    ところで、一応確認しますけど、このストーリーは【四千年前に滅びた、過去の火星人】と、【現在、西暦2033年の主人公】が出会ったお話、という認識でいいんでしょうか?」

     

    残響「時空がねじれている感じですけど、そんな感じじゃないですか?」

     

    fee「ねじれている、というのがちょっとよくわからないですが……えーと、僕が言いたかったのはですね、この火星人は本当に【過去の存在】 なのか?という事です。この『火星年代記』の最終章である、『百万年ピクニック』の後。数千年後の火星人である可能性はないのか?というのを話してみたいなと」

     

    残響「未来……ですか? それは考えなかったなぁ……」

     

    fee「西暦2033年に【廃墟】があるのに、火星人はその廃墟からやって来た。逆に言うと、物的証拠はそれだけですよね?」

     

    残響「そうだと思います」

     

    fee「だとすると……廃墟は復興させれば良いわけじゃないですか。この後の未来で、再建されたのかもしれないですよね?」

     

    残響「あぁ……なるほど……」

     

    fee「ということを考えました。ちょっとこじつけかもしれませんが、未来から来た可能性もある、と考えると夢が広がるなぁと。

    後はそうですね。ひょっとして残響さんが仰った時空がねじれているというのは、あれですか? 【共通の場】がないというか、そういう事かしら? つまり、【2033年のトマスの世界】に、過去や未来から火星人がやってきたわけではない。同様に、【火星人の世界】に、トマスがタイムスリップしたわけでもない。お互いがお互いの時代に留まったまま、ただ相手と交信ができている。まるで時空間に一瞬、小さな穴が開いたみたいに」


    残響「そうです。【共通の場】。これは、物理的なフィールドを共有していない、という意味で、パラレル。思念(テレパシー)の交信は出来ているけども、お互いの物理世界が干渉しあっていない。直結してなく、パラレルになっている。物理的相互不干渉。空間位相がねじれてる。

    それともう一つ言いたいのが、この作品はトマスと火星人、2人だけだから成立するんですよね。どちらかが2人連れだったりするとダメで」

     

    fee「確かにそうですね。1対1だからこそ、の話ですよね」

     

    残響「P179、17行目

     

    『あなたのお祭りに行ってみたいな』
    『わたしも、あなたの新らしい町へ行って、そのロケットとやらを見たり、いろんな人からいろんな話を聞きたいですよ』
    『さようなら』と、トマスが言った。『おやすみなさい』

     

    この最後のやりとりも実に爽やかで、ハートウォーミングというかいい話だなぁと」

     

    fee「ロマンがありますよね。時空を超えて、全く違う時代の人と暖かな交流ができる。清涼剤のような、素敵なお話でしたね」

     

     

    *1 一番上が原曲です。オリジナルです! 真ん中のが残響さんが見つけてきたオーケストラバージョンです!(これに関しては、僕が貼ったんじゃないよ!)
    3番目のは、僕が結構気に入っているヴァイオニリスト石川さんの演奏です。というわけで3つも貼っちゃっていいんかな? まぁ「ザナルカンドにて」が名曲なのが悪いな!(意味不明;fee)

     

     

    *2 問題のシーンね! あ、ここから先はずっと名シーンだから、興味のある人はそのまま見てね!(FF10信者並感;fee)

     

     

     

    ★2033年10月「岸」  一般市民も火星へ

     

    fee「さて、いろんな人たちがやってきたという話ですが……この作品について語る事ってありますか?」

     

    残響「やってきたのはまーたアメリカ人なんですね」

     

    fee「そうですね。ただ今回は、P181、12行目『ヨーロッパや、アジアや、南アメリカや、オーストラリアや、島の人々たちは、ローマ花火の打ち上げをただ見守っていた』とあります。前回は、アメリカの事しか書かれてなかったけど、今回は他の国にも言及されていますよ」

     

    残響「日本はないんだw」

     

    fee「まぁ、アジアがあるからいいじゃないですかw ……アフリカがないぞ??」

     

    残響「……んんっ?」

     

    fee「中米もない……」

     

    残響「島の人々扱い(オセアニアとか、インドネシアとかそのあたりの住人)なんですかねぇ……」

     

    fee「いや、待って。P182、1行目『ほかの世界は、戦争や、戦争準備に忙しかった』って文章がありますよ。ネタバレになりますが、このあと核で地球が滅亡するんです。……アフリカと中米で起こった戦争で地球が崩壊したんですかね?」

     

    残響「ヨーロッパとかアメリカじゃないんだw あとロシアとかでも。なんか大きな戦争と言えば大体ここらへんだと思うのにw」

     

    fee「あと中国とねw アフリカ……アフリカねぇ。核なんて持ってるのかな。割と原始的な武器を使っていそうなイメージなんだけど……」

     

    残響「死の商人(武器商人)が近代兵器を横流ししているので、そんなこともないと思いますよ」

     

    fee「核も横流しされたんだな、きっと……今話題の北の国が横流ししたとか……?」

     

    残響「1ページの作品なのに、なんだか随分語りましたねw」



    ★2033年11月「火の玉」  火星に宣教師が到着 第二の火星人(火の玉)との遭遇

     

    fee「さて、『火の玉』です。これは旧版の『火星年代記』には入っていなかった作品なんですが、リメイクにあたって加えられましたけど……」

     

    残響「けど?」

     

    fee「僕、このタイプの作品は基本的に嫌いなんだよなぁ……正直に言ってつまらなかったです。この手の、説教くさいキリスト教的作品、海外の作品を読んでいると結構出くわすんですけど、全然興味が持てません……こないだ読んでた『ロストシンボル』もラスト50ページまでは面白かったのに、最後突然こちらの方向になってあくびが出ましたし、『アルプスの少女ハイジ』の小説版も……(以下2分ほど喋り続ける)」

     

    残響「『説教臭いキリスト教作品』……そんなに嫌いなのかww フルボッコですなぁ……」

     

    fee「あらすじを言いますね。ペレグリン神父たち3人が、火星に宣教をしに行くお話です。そこで、蒼い火の玉みたいな火星人に出会うんですね。神父はその火の玉に宣教しようとするんですが、火の玉は『私たちの事は気にせずに〜』と言っていなくなってしまいます。ストーン神父はその火の玉こそが、神であると悟る……そんなお話……ですよね?」

     

    残響「ですね。火星の世界には火星の世界なりの、新しい罪がある、と意気込んでますが……」

     

    fee「率直に言って、どうだってええやん、という感想しか湧いてきませんでした。なんでよそものが乗り込んできて、自分の道徳観を他人に押し付けようとするんだろ。やだやだ……」

     

    残響「……ところで、ナイーブな質問になるかもしれませんが、feeさんはキリスト教自体が嫌いなんですか?」

     

    fee「それはないです。ただ、宗教にあまり縁がない人間なもので(神社で神頼みしたり、おみくじひいたり、お地蔵さんに手を合わせたりするけど、宗教には入っていないフツーの日本人です)。このペレグリン神父のような狂信的な宣教者は気持ち悪いなと思いますが……」

     

    残響「まぁ宣教師なんてこんなもんですよ。割と一般的な宣教師像じゃないでしょうか」

     

    fee「イスラム過激派だって受け付けないし、特にキリスト教を嫌っているわけではないです。ただ、中世ヨーロッパの宣教師って、侵略とセットじゃないですか。十字軍もしかりですが、それこそコルテスとか……」

     

    残響「『宣教』と『侵略』の歴史を考えると、フロンティア精神溢れる人なんてこんなもんじゃないでしょうか。嫌いですが。自分、【宗教の布教】ってのが大嫌い」

     

    fee「アステカの人はアステカの人で、火星人は火星人でキリスト教なんて知らなくても楽しくやっていたわけだし……。地球からの入植者に対して、地球人向けの教会を作るというのはわかりますが……」

     

    残響「元々はそのために来たんですよね。ペレグリン神父の好奇心というか、お節介心というか……*1アニミズム的な考えを持った人だったんでしょうなぁ」

     

    fee「ところで、この作品に出てくる火星人は、今まで出てきた火星人とは雰囲気が違いますよね。火星人は2種族いたんでしょうか? それとも、今までにも登場していた火星人が、悟りを開いて解脱か何かをすると、*2青い火の玉になるんでしょうか?」

     

    残響「ちょっとその辺はよくわからないですねぇ。まぁ、ぼくも無宗教的なところはかなりありますが、feeさんよりはこのお話を楽しめたかと。神学論争的なものに興味がないわけではないので……それが良いのか悪いのかはわかりませんが。ただ、神学論争と信仰心っていうのもまた別かと思います」

     

    fee「『火星年代記』の収録作品の中では一番つまんなかったです」

     

    残響「そんなにかーいw」

     

    *1 アニミズム……この世にあるいろんなモノに神が宿っている、という原始的宗教性。信仰心。(残響)


    *2 青い火の玉、と言われて僕が思い浮かべたのは、ドラゴンクエストシリーズでおなじみの「さまようたましい」だった。残響さんが挙げた「ウィルオーウィスプ」の方が多分、作中イメージにはより近いはず(fee)

     


    ★2034年2月「とかくするうちに」 火星にアメリカ風の町が出現

     

    残響「すげえどうでもいいことを言えば、この作品世界、2034年なのに小説家がタイプライターを使ってる……」

     

    fee「リメイクした時にどうして直さなかったんや……ところで、アイオワ州の町、という表現が出てきますが、アイオワ州というのはアメリカのどこにでもありそうな町のイメージなんでしょうか?」

     

    残響「結構田舎だと思います。ニューヨーク……アメリカ北部の都市圏ではない、アメリカの田舎町のイメージでいいんじゃないでしょうか」

     

     

    ★2034年9月「音楽家たち」 火星人の痕跡を焼却

     

    残響「火星人の骨とか死体で遊んでた無邪気(?)な子供が、折檻されるお話ですね。子供だから仕方ないとは思いますが、こういう作品を読むと、やっぱり地球は侵略側なんだなぁと。サム・パークヒルも似たような事をしていましたけど……」

     

    fee「サム・パークヒルは少年の心を忘れないナイスガイですからね」

     

    残響「ナイスガイではないでしょw」

     

    fee「哀れ子供は母親からも父親からも虐待されて……」

     

    残響「母親がやってるのは恐ろしく熱いお湯に少年たちを入れているだけじゃないですか?」

     

    fee「それって虐待みたいなものでしょ?」

     

    残響「そうだけど、ひょっとすると熱湯殺菌かもしれませんよ? ちょっと荒っぽいですけど。なんかそのあたり、昔の開拓時代を描いてる小説世界のような荒っぽさ。それをブラッドベリのノスタルジー作風といってもいいのかもだけど」

     

    fee「あー、死体を触った後だし、そうかもですね」

     

     

     

    第4回に続く……
     

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(2)

    • 2017.09.07 Thursday
    • 20:11

    ☆火星人絶滅。火星植民地化時代 「月は今でも明るいが」〜「鞄店」

    (読書会(2)〜(4))

     

    ★2031年4月 「第三探検隊」 第三次火星探検隊 16名全滅

     

    fee「さぁ、いよいよ第三探検隊が火星に来ましたね」

     

    残響「この話、凄く良いんだよなぁ……」

     

    fee「うん、この話は僕も大好きです」

     

    残響「第三探検隊が、火星に到着してみると、そこは1950年代のアメリカの街並そっくりだった……という物語ですが、この【古き善きアメリカ】の描写が凄く良い」

     

    fee「懐かしくて、感傷的で……これぞブラッドベリ、という感じの描写です。こういうのを描かせたら本当に巧い。宇宙に行ったはずなのに、地球そっくりの街並みが〜というのは*『ドラえもん』にもあった気がしますが、もちろん『火星年代記』の方が先です」

     

    残響「あぁ、ありましたねぇ。懐かしい」

     

    fee「50年代の街並に戸惑う第三探検隊の前に、亡くなってしまった隊員たちの家族やら何やらが出てきます。ブラック隊長が制止しているにも関わらず、ひょこひょことついて行く隊員たち……」

     

    残響「そりゃあ、ついていくでしょう……。これは食らいますよ」

     

    fee「待てあわてるな、これは火星人の罠だ」

     

    残響「と言ったってねぇw そんなブラック隊長も、懐かしい家族が出てくると……」

     

    fee「ここ良いですよね。全文引用したいぐらいですが、長くなるのでこまめに中略を入れながら引用します。P96、16行目、

     

    「何だと?」ジョン・ブラック隊長はよろめいた。

    「ジョンじゃないか、こいつ!」青年は駆け寄り、隊長の手を握って、背中を叩いた。(略)

    兄と弟は互いに手をとりあい、抱擁し合った。「エド!」「ジョン、こいつめ!」

    「元気そうだね、エド」(略)

    「ママが待ってるよ」と、エドワード・ブラックはにやにやしながら言った。

    「ママが?」

    「パパも待ってる」

    (略)

    「わあ! よし、玄関まで競走しよう!」(略)

    「勝ったぞ!」とエドワードは叫んだ。「ぼくはもう年寄りだもの」と隊長はあえいだ。

    「兄貴はまだ若いじゃないか。でも、昔も、ぼくがいつも負けていたっけね、思い出した!」

    戸口にはママ。桃色の頬、肥った体、輝かしい姿。そのうしろにパパ。胡麻塩あたま。手にはパイプ。「ママ、パパ!」

    隊長は子供のように階段を駆け上った

     

     

    残響「隊長がかわいい。『火星年代記』に出てくる隊長はみんな結構かわいいんですけど、このブラック隊長もすごくかわいいですね」

     

    fee「80歳なのに、童心に帰っちゃって……」

     

    残響「そんなお年だったんですかw この、ママ、パパという呼びかけもいいですなぁ。グッとくるものがありますね」

     

    fee「ここでちょっと水を差すような事を言いますけど、『1927年より新らしいものは一つもないでしょう?』という一文は、ちょっとまずい気がしますね」

     

    残響「あっ、これは……」

     

    fee「新版のブラック隊長は1951年にイリノイ州で生まれた事になっていますが、旧版は1920年の生まれです。描写とかはそのままで、31年だけ追加したものだから……」

     

    残響「なんて杜撰なんだ!」

     

    fee「この街はブラック隊長の子ども時代の町なので、ブラック隊長が1951年生まれだとすると、1926年の街並みが出てくるはずはないんですよ。街の描写自体は手を入れていないので、1920年代の街並みの描写を、無理やり1957年ということにしてしまった。ただ、やっぱりどう読んでも、1920年代の街並みを1957年だと言い張るのは無理がありますよね」

     

    残響「世界大戦を挟んでいますからね。1926年じゃ世界大恐慌よりも前でしょう?」

     

    fee「そうです。なので、苦し紛れにここだけ『1927年より新らしいものは何一つないでしょう?』 と31年足さずにそのままにして、1920年代の風景が広がる50年代の田舎町だという事にしているんですが……その言い訳で納得してもいいけど、やっぱりちょっと辛いw」

     

    残響「考えれば考えるほど、31年足す必要があったのかという疑問が……」

     

    fee「ですよねぇ。たとえば今、『新世紀エヴァンゲリオン』を見たとしても、別に萎えたりしないでしょ? パラレルワールドだと思って見ますし」

     

    残響「そうですよ。何の問題もない」

     

    fee「まぁ、この31年追加事件でブラッドベリをいじめるのはこのぐらいにしますかw 作品に戻りますが、この後の展開が……」

     

    残響「とても怖いですよね。アーカムハウス出身の片鱗というか」

     

    fee「一番最後がものすごく怖いんですけど。なんで火星人は泣いてるんですか? P106、3行目

     

    泣きながら教会へむかって歩き出した。教会では新らしい墓穴が掘られ、新らしい墓標が立てられた(略)。市長が短かい悲しい演説をした。(略)「十六人のすばらしい人たちが、昨夜、思いもかけず急死し――

     

     

    思いもかけずって、殺したのは火星人でしょ? マジで、何で泣いてるんですか? 怖すぎでしょ」

     

    残響「地球式の葬式をしているのも謎ですよね」

     

    fee「ほんとにね。火星人たちが祝杯をあげていれば、別に怖くはないんですよ。火星人が第三探検隊を殺したというだけの話になるので。でも、なぜか火星人が泣いている。意味がわからない。それが怖い」

     

    残響「不条理ホラーというか……不気味ですよね。地球人の真似をしたんでしょうけど、真似をする必要がどこにもないし……。少しページを戻しますが、隊長が死ぬ前に、色々と考えているシーンがあるじゃないですか。これはひょっとして火星人の罠なんじゃないか、と延々数ページにわたって考えている。そして、いよいよ逃げ出そうと決意したその時に……」

     

    fee「『どこへ行く? 兄の声はひどく冷たかった……』」

     

    残響「そうそうw」

     

    fee「

     

    『水を飲みに』

    『でも喉がかわいてないだろう?』

    『いや、かわいてるよ』

    『いいや、かわいてない』

     

    この『いいや、かわいてない』も怖いw」

     

    残響「脅迫ですよねもうw しかしこの作品って、ブラッドベリ的にとても贅沢な作品だなあと思います。途中まではブラッドベリらしい、ロマンチックな良い話で、途中からホラーになってる。しかもちゃんとSF連作の中で意味のある作品になっていますし……」

     

    fee「ブラッドベリのいいとこどり、みたいな作品ですよね。さて、そんなわけで第三探検隊も全滅したわけですが……今回はどう見ても火星人側が迎撃態勢を整えていますね」

     

    残響「そうですね。完全に地球人を敵とみなして、殺す気まんまんで来ていますよね」

     

    fee「ここで翻って疑問なのが、第二探検隊……あの、精神病院に入れられちゃう話ですが、あれは火星人の迎撃だったのか?という事です」

     

    残響「いや、あれは……多分違うけど、わからないな。どうなんだろう? もしそうすると、演技で地球人をたらいまわしにしたってことですか?」

     

    fee「うん。多分、素だとは思うんですけど、ひょっとして演技だったかもしれない……そう考えると、それはそれで怖いなと……」

     

    残響「確かに怖いw」

     

    fee「まぁ正解はないんですけどね。では次の……次も語る事がたくさんありそうですね。『月は今でも明るいが』に移ります」

     

    *1 のび太が天才になっていたり、性別が入れ替わったりしているという。(fee)

    (あらすじの参考ページはこちらのリンクからどうぞ)

     

    ★2032年6月「月は今でも明るいが」 火星人滅亡 第四探検隊、火星に到着

     

    fee「第四探検隊が火星に到着します。この作品に出てくるワイルダー隊長、ハザウェイ、サム・パークヒルの3人は、この後の短編でも登場しますので覚えておいてください。そういう意味でも大事な短編です」

     

    残響「火星人が絶滅しちゃってますね……水疱瘡なんかで……」

     

    fee「火星人の絶滅についてはすみませんがちょっとおいといて、第四探検隊は今まで以上にキャラクターが立っているなぁと。今までは、隊長ぐらいしか出番がなかったので……」

     

    残響「確かにw」

     

    fee「この作品で最も印象的なキャラクターはスペンダーだと思うんですが、残響さんはスペンダーについてはどう思いました?」

     

    残響「怖いですね。ちょっと行きすぎちゃってるというか」

     

    fee「なるほど」

     

    残響「『わたしは最後の火星人だ』とか言ってるし……」

     

    fee「中二病に罹っちゃったんですよw 僕は、スペンダーの気持ちはわかりますけどね。もちろん、行きすぎだというのは否定しませんが……」

     

    残響「うーん……」

     

    fee「スペンダーがコルテスのエピソードを語るシーンがありますが、これがそのまま、火星に対する地球の立場になると思います。アステカ文明も、西洋人がもたらした伝染病で絶滅してしまいました。しかも……ビグズとか、サム・パークヒルとか、ちょっと探検隊の民度が低すぎませんか? ポイ捨てとかしてません?」

     

    残響「控えめに言っても最悪ですなぁ」

     

    fee「なんでこんな連中が火星に来たんでしょう? 第三探検隊までは、みんな一応役職があったんですよ。航行士のラスティグとか、考古学者のヒンクストンとか。でも、サム・パークヒルとかビグズとかって、特に何もついてないですよね?」

     

    残響「海賊みたいになっちゃってますからね。ゴロツキというか」

     

    fee「火星を尊重する、という以前に、調査隊としても失格ですよね。環境を保全する気とか全くないし」

     

    残響「着いて早々酒盛りとかしてるし……」

     

    fee「いやまぁお酒は飲んでもいいんじゃない? 第二探検隊のウィリアムズ隊長も、こんな感じで歓迎されたかったんですよ」

     

    残響「サム・パークヒルと言えば、最後の方の『何をうまくやれたのですか』『こんな野郎(スペンダー)といっしょに何をやれたのですか』というセリフが妙に印象的で」

     

    fee「ワイルダー隊長の『スペンダーとわたしなら、どうにかなったかもしれない。スペンダーときみらは、とうていダメだ』というのも」

     

    残響「ワイルダー隊長は苦労人ですね。そしてとてもバランスがとれた人物だと思います。一方にはスペンダーがいて、一方にはビグズやサム・パークヒルがいて……」

     

    fee「もっとも、なんでこんなメンバーで火星を目指したのか、という疑問は残りますがw ビグズなんか連れて行くぐらいなら、まだ納税者を連れて行ってあげた方が……」

     

    残響「納税者ww」

     

    fee「そういえば、第一探検隊は2人だけだったんですよね。第二が4人、第三が16人。どんどん人数が増えているのは、やはり安全対策が関係しているんでしょうか?」

     

    残響「まぁ、毎回全滅していましたからね……」

     

    fee「第一探検隊から第四探検隊までが2年半程度なので、技術の革新があったと考えるには……」

     

    残響「時間が短すぎるんですよね」

     

    fee「それで安全対策のために、チンピラみたいなサム・パークヒルとかビグズを連れて行ったのか……」

     

    残響「それにしたってもう少し人選というものがw ところで、ワイルダー隊長とスペンダーのやりとりは結構面白いと思うんですけど、アクションシーンはあまりうまくないですねw」

     

    fee「まぁアクションシーンで名を売っている人じゃないからw 僕はこれぐらいなら大丈夫ですw」

     

    残響「なんか急に西部劇みたいになっちゃって」

     

    fee「確かに西部劇っぽいw」

     

    残響「ワイルダー隊長とスペンダーが話している、火星人の美観というか、宗教観というかについてはどう思いました?」

     

    fee「正直なところ、あまりよくわからないw ただ、科学発展を彼らがうまく途中で止める事が出来た、というポイントは大事かなと思いました。パソコンとかスマホとかでもそうだと思うんですけど、一度科学が進展してしまうと、それらがない生活に戻るというのは極めて難しい。行きつく先が、核の問題で……」

     

    残響「『太陽の黄金の林檎』にも『空飛ぶ機械』という話がありましたね。科学技術の発展を止めるために、皇帝が人を殺してしまう話が」

     

    fee「そう。確か残響さんは、科学の発展によって救われる命もあるというお話をしてくれて、僕は、空飛ぶ機械が軍事利用されて命を奪う可能性もあるという話をして」

     

    残響「そうでした、そうでした」

     

    fee「今回、スペンダーに対する反応が分かれたのも、『空飛ぶ機械』の皇帝に対する反応が分かれたのと同じかなぁと」

     

    残響「あぁ……」

     

    fee「どちらが正しい、というわけではないんですけどね。うまくバランスが取れればそれが一番良いわけですし。ただまぁ、仮に地球に住めなくなっても、火星を植民地化して、更に大宇宙へと乗り出していけばいい! という発想からは少し、距離を取りたいなというのはあります」

     

    残響「なるほどです。ブラッドベリも、そういう「科学をどんどん進展させて、大宇宙に乗り出していけばいい」っていう人ではないですよね。作品を読んでいる限り」

     

    fee「そうですね」

     

     

     

    ★2032年8月「移住者たち」 火星に植民者がやってくる

     

    fee「『第三探検隊』、『月は今でも明るいが』の2作が序盤戦の山場という感じで、ここからちょっと【接着剤】的な作品が続きますね」

     

    残響「そうですね」

     

    fee「火星人も絶滅し、ついに地球人が我が物顔で火星に乗り込んできました」

     

    残響「イリノイ、アイオワ、ミズーリ、モンタナって……地球の話のはずなのに、アメリカの事しか書いてないですな」

     

    fee「これはねぇ……アメリカの小説にはよくある事なんですよね。スティーブン・キングの『ザ・スタンド』とかでもそうだったんですけど。地球が崩壊、とか文明の壊滅、とかいうけど、アメリカ以外の話は全く触れられもしないという……」

     

    残響「4州出てきますけど、これは全部南部の方かな?」

     

    fee「んー、あまり北部な感じはしないけど……どうだったかな? ちょっと地図を見てみます。(見た)中西部ですね。モンタナだけちょっと遠いけど、イリノイ、アイオワ、ミズーリは隣接してます」

     

    残響「ふむふむ」

     

    fee「特に話は広がらなかったw」

     

    残響「w 最後の『最初の孤独な人たちは、自分たちだけが頼りだった……』 って文章は格好いいですね」

     

    fee「確かに格好いい」

     

    残響「格好いいけど……最初の孤独な人たちって、サム・パークヒルとかですよね……」

     

    fee「うーんw」

     

    残響「それだけですけどw」

     

    fee「それじゃ、次行きますか」

     

     

    ★2032年12月「緑の朝」 火星、緑地化へ

     

    fee「僕、これイマイチよくわからなかったんですけど」

     

    残響「そうですか? 火星が緑地化されるって話かなと。テラフォーミングという単語もありますけど」

     

    fee「うん。それだけですよね?」

     

    残響「はい、それだけですw」

     

    fee「ページ数は多少ありますけど、基本的にはこれも接着剤的な小編と考えていいんですよね? 主人公はベンジャミン・ドリスコル。一応名前もついてますけど……」

     

    残響「特に物語性があるとかではなく、火星がテラフォーミングされるという話なので、接着剤だと思います。ただ、ぼく結構こういうの好きなんですよ。荒れ果てた火星がどんどん緑になっていく描写は感動しますね。『トライガン』を連想する。 *1

     

    fee「うーん、僕はあまり……。キム・スタンリー・ロビンスンという作家が書いた、『火星三部作』。『レッドマーズ』、『グリーンマーズ』、『ブルーマーズ』という作品群がありまして。ちょうど帯で、『ハードSF版火星年代記』と宣伝してたんですが、この三部作はまんまテラフォーミングの話なんですね。

    ブラッドベリの『火星年代記』とは似ても似つかない、ひたすらテラフォーミングの話で……ガチなSF者はこういうのが好きなのかなぁ、僕にはよくわからんわ、とか思いながら一応『グリーンマーズ』までは読んだんですけど……良かったらどうですか?」

     

    残響「そうですね……機会があれば」

     

    fee「あ、それだけです、はい」

     

     

     

    *注1 内藤泰弘『TRYGUN』(続編『TRYGUN MAXIMUM』)

     

    ……DEEP SPACE PLANET FUTURE GUN ACTION……!!
    未来の枯れた星で、流浪のガンマン・ヴァッシュが「不殺」の愛と平和を突き詰めながら宿敵を追い続ける……!というSFガンアクション漫画の傑作。
    本『火星年代記』対談的に話せば、トライガンの舞台は、星間移民の事故により「枯れた星」に不時着してしまった人類、というものです。人類は自律型永久機関である「プラント」を駆使して、水や食料や物資を製造して生き延びます。この「プラントを使って枯れた大地に緑を芽生えさせる」という「画」ですね。荒れた大地でも花は咲くのよ、滅亡と再生なのよ、みたいな。そういう希望の「画」が、個人的にSFマインドにギューン!と心引き寄せられるのです。(残響)

     

     

    ★2033年2月「いなご」 植民地化が加速

     

    fee「口に釘を咥えている、大工さんの描写が面白かった。くらいかな、僕は」

     

    残響「これは、地球人の事をいなごにたとえているんですよね。かなり辛辣というか、ブラックだなぁと思いました」

     

    fee「あ、そうですか? まぁ、害虫扱いですけど……」

     

    残響「荒らしみたいなw *2」

     

    fee「そんな感じですねw」

     

     

     

    *2 昔っからオタク・同人界隈ではよく見られた光景です。

     今まで細々とファンが愛好していた作品やジャンルがあって、その作品・ジャンルがある時突然ブームになる。そうしたら、それまで愛好してきたファンたちのおよそ10倍以上もの新規ファンが来る。ここまでは良い展開ですが、しかし、

    「原作にリスペクトも理解もない二次創作で金を儲けようとする作家」「原作をネタとしてしか取り扱わず、その時は【神!】とか言ったりするけど、次のブームがきたらすぐに捨てる」「やたら勝ち・負け・覇権、みたいな基準で語ったりする」……みたいなのの登場が、不可避です。
    そんな浮動票というか。どこかからやってきて、元々の原作を食い荒らしていって、またどこかへ行っていく、というのを、かつて「同人イナゴ」と呼んだものでした。今はそこまで使われない言葉ですが。
    本『火星年代記』のこの短編のタイトル的には、こういう人間の「群がる」様相が皮肉たっぷりに描かれていて、なるほどなぁ、と独りごちて納得するわたくしでありました。もちろん、わたしたちもどこまで「いなご」であるか。それはね、自分自身ほど「おれはそうじゃねえよ!」と放言しがちではありますけど、ね。(残響)

     

     

    第3回に続く……

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(1)

    • 2017.09.02 Saturday
    • 19:55

    fee「というわけで、今回からは『火星年代記』の読書会を始めたいと思います」

     

    残響「よろしくお願いしますー」

     

    fee「まず初めに、今回取り上げるのは1997年に編集された、新版の『火星年代記』です。元々は1950年代に発表された連作短編集なんですが、その後ブラッドベリが収録作をいじるなど、微修正を加えております。私たちが読むのはリメイク版『火星年代記』ですので、旧版しか知らない方は少し違和感があるかもしれません。まぁ、あまり内容は変わらないんで問題ないと思いますけども」

     

    残響「収録作が少し変わったのと、各短編の作中年代が31年ずつ繰り上がったぐらいですかね? 訳の改稿まではしてない……と思う」

     

    fee「ですね。しかし、無理に年代を繰り上げなくても良かったのにね。どうせ2030年になってもロケットは飛んでないと思うし、そしたらまたリメイクするのかしら」

     

    残響「夢がないw それに、仰るようにこの年代リメイク、あんまり功を奏してないように思える……」

     

    fee「この連作短編では、20ページ程度の短編作品と、2ページ程度のショートショートがありますよね。バラバラの短編作品を、ショートショートで繋いでいるという意味で、便宜上【接着剤】と呼びますけど」

     

    残響「一番最初の短編『ロケットの夏』も【接着剤】ですね」

     

    fee「今回は連作集なので、前回とは違い、時系列順に読んでいく事になります。その前に、後でまとめやすいように、この本でとりあげられた地球と火星の歴史を、年表のようにまとめながら対談していきましょう」

     

    残響「お願いします。*1」

     

    fee「短編集と言えば短編集なので、とりあえず1編1編を語っていく形で読んでいきますが、連作でもあるので、キリの良いところまで来たら、後で通しの感想も言っていきましょう」

     

    残響「そうですね、わかりました」

     

    fee「まずは『ロケットの夏』ですが……この作品、残響さんの6月のツイートを見て以来ずっと突っ込みたくて仕方なかったんですよね」

     

    残響「えっ!?」

     

    *1……例によってあらすじを纏めるのが超絶苦手な残響でありました。以下の「火星歴史年表」もfeeさんの作成です。それにしても自分は圧倒的なまでにこの「要点・要旨を纏める」という作業が苦手で。残響が自分のHP・ブログや、エロゲー批評空間で書いてるレビューなどをお読みの方ならお分かりになられると思いますが、とにかく「纏める」という作業がぼくは苦手です。その時の衝動任せで生きている、とも言えるし、小説も勢いで読んでる、とも言える。また、正しい情報集めも手を抜くのかもしれない。衝動……衝動性! P.U.N.K(中指を立てる)!!  論理ではなく、衝動的イメージ任せ。……しかし、その勢い任せの生き方に最近疑問を抱いてるところです。なぜなら、何しろ次の「ロケットの夏」でさっそく……。

     

     

     

    ☆地球→火星への冒険期 「ロケットの夏〜第三探検隊」

     

    ★2030年 1月 「ロケットの夏」   第一次火星探検隊、地球を出発

     

    fee「まず、残響さんの感想から聞こうかな?」

     

    残響「最初にこれを読んで、この連作短編集を読んで【いけそうだ】、という思いを持てました。何しろ喚起されるイメージが良い。絵になる。イメージ重視の素晴らしい作品ですよね」

     

    fee「確かにイメージ重視の作品ですね。『太陽の黄金の林檎』とか、そちら系の……」

     

    残響「こう、目まぐるしい冬から夏への移り変わりが描かれていますよね……自分、荒い翻訳を以前したんですけど *2(この記事のラスト参照)、文章からして」

     

    fee「……あー、やっぱり……これ、残響さんは誤読していると思うんですけど……この作品は、冬の作品ですよね?」

     

    残響「えっ……あ、そうか。2030年1月だから……」

     

    fee「これは、爽やかな夏が来て、青空にロケットが飛んで行ったって、そういう話じゃないですよ。冬なんですよ。冬に、ロケットが飛んで行ったんです。そしたら、ロケットの燃料というか熱噴射で、一瞬この辺りが猛烈に暑くなった。それを『ロケットの夏』と呼んだんですね」

     

    残響「なんてこったい……! ちょっとこれ、ぼくめちゃくちゃ誤読してるじゃないですか!!(冷や汗ダラダラ)w ぼくが想像していたのは、清々しい見渡す限りの草原と、青空にロケットが飛んでいく夏の風景でしたよ!(しどろもどろ) *3」

     

    fee「まぁ、これ難しいですよ。そんなに読みやすくないですもん。『冷たい空から町に降りつづいていた雪は、地面に触れる前に、暑い雨に変質した』あたりから読み取れるかなとは思いますが……」

     

    残響「……(恥) うーん、ほんとにこの対談大丈夫なのかなw いきなり心配になってきたw」

     

    fee「波乱含みの幕開けになっちゃいましたねw まぁこれはこれってことで」

     

    *注2……記事ラスト参照

     

    *注3……これである。そいえば、昔現代思想とか哲学をかじっていたときのことを思いだした。ある批評家が海外の物語を引用して「この表現はダブルミーニングでこうなんだ」とか「この表現にはこう深読みが」とかって言ってるけど、実はその読解が誤訳の誤読に基づいてる間違い読解だ、っていう恥ずかしさ。しかもその批評家は「そ、そういう風に読めたんだからしょうがないだろう、これもまたポストモダンの誤読による越境可能性がー!」とかってしどろもどろになっていたという無様。しかしそれを今となってはとやかく言えない。なぜなら、嗚呼、なんということか。ぼくも全く同じことをしてしまうというね。

     

     

    ★2030年2月「イラ」 第一次火星探検隊 ナサニエル・ヨーク他1名 死亡

     

    fee「さて、いよいよ火星初登場ですね。この火星の描写ですが、葡萄酒の木が出てきたりとなかなか異国情緒豊かなものになっています。火星人のイラ夫妻が地球や地球について語っている部分もいいですね。P22、9行目の、

     

    『青い目! あきれたね!』と、K氏は叫んだ。(中略)ひょっとすると、そいつの髪は黒かったんじゃないのか」

    『あら、どうして分かったの?』夫人は興奮して訊ねた。

    『いちばんとっぴな色を言っただけさ」と、夫は冷たく答えた』

     

    とかw」

     

    残響「『第三惑星には生命の存在する可能性はないんだよ』(中略)『科学者が調べたところによると、あの惑星の大気には酸素が多すぎるんだそうだ』というのもなかなか……。物理法則を全部裏返しにしていますね。どこか『鏡の国のアリス』を思わせるようなトリッキー描写です」

     

    fee「同じような事を言っている地球人がたくさんいるようなw 生物学について無知なので、変な事を言うかもしれませんが……私たちのような炭素系生命体が存在する可能性はないとしても、全く別の形での生命が存在する可能性は残されていると思うんですよね。それを生命と言って良いかどうかはまたなんとも言えないところですが」

     

    残響「ところで、また翻訳ネタなんですが、英語で【Era】という単語がありまして。読み方は【イラ】もしくは【イーラ】。イラのスペルがこのeraだったとしたら、【時代】を現す言葉となり。この壮大な物語の幕開けに相応しい名前だなぁとか思っていたんですが、原文を当たってみたら違うスペルでしたわ……。【YLLA】っていうね。……このノリでさらに翻訳ネタをカマせば、夫のイルは病気【ILL】とかそんな意味だったりしたのかなぁ、とかいう邪推。まあ多分間違っているとは思いますが!w でも、確かにこの夫は何となく病んでいる……」

     

    fee「神経質ですよね。ラストで、イラが地球の歌を思い出せなくなるシーンがありますが、これは『地球人から、歌を習う』という未来が消えてしまったからなのでしょうか? イラには未来視の能力があって……」

     

    残響「彼らはテレパシー(思念通話、「思ったこと」がそのまま伝達になる)で話しているんですよね? テレパシーと未来視には何か因果関係があるのでしょうか?」

     

    fee「まぁ多分、ブラッドベリはあまり考えてないんじゃないかな……ともあれ、夫の嫉妬……こんなしょうもない理由で第一次火星探検隊は全滅しましたとさ」

     

    残響「こんな理由でねぇ……」

     

     

    ★2030年8月「夏の夜」 火星人たちの不安な夏 謎の歌、地球の影

     

    残響「これは地球の……」

     

    fee「え、いやいや火星の話ですよ」

     

    残響「えっ?

     

    fee「『火星の夜の側の数百の町の円形劇場では』って書いてあるじゃないですか」

     

    残響「(赤面、頭を抱える) う、うーん。どうしたんだろ。てっきり地球の話だと思って読んでいましたよ。誤読多すぎるな、ぼく」

     

    fee「ストーリーを言います。火星の人々が知らないはずの、地球の歌を歌い出しちゃうんですね。『あしたの朝、何か恐ろしいことが起こるわよ』といった具合に、迫りくる地球の不気味な影を感じる話です。前回の『発電所』の読書会で、僕は【電波ソング】を禍々しいものとして捉えたんですが、ひょっとするとこの『夏の夜』の印象が残っていたのかもしれません」

     

     

    ★2030年8月「地球の人々」 第二次火星探検隊 ジョナサン・ウィリアムズ他3名全滅

     

    fee「さて、第二次火星探検隊の到着です」

     

    残響「この作品で気になったのは、地球人を相手にしない火星人の態度でした。聞いてやるもんか、的な……」

     

    fee「いや、別に、聞いてやるもんか、と意固地になってるんじゃなくて、頭のおかしい奴が来たので関わりたくなくて、たらい回しにしているだけじゃない? 靴を脱いでから家に入ってくれ!とか、注意すべきところはちゃんと注意してるし……。地球からはるばる火星にやってきた偉業に対し、歓迎を期待するウィリアムズ隊長。しかし火星人からは、変な妄想狂が来たようにしか見えないという……」

     

    残響「圧倒的ディスコミュニケーション」

     

    fee「火星人の方からは来てくれなんて頼んでないですしね……」

     

    残響「まぁ実際、ぼくの部屋の扉が突然開け放たれて、涼宮ハルヒみたいなのが『金星から来ました』とか言い出したとしても、『病院行け』って対応をするでしょうけど……」

     

    fee「まさに、病院行けという対応をされているわけですが、出てくる火星人のキャラがコミカルで面白いですね。P53、11行目の、

     

    『では、』とアアア氏は講義口調で始めた。

    『あなた方は、ツツツ君の無礼を、当然のことと思いますかな』(中略)

    隊長は言った。『われわれは地球から来たのです!』

    『まったく紳士の道にはずれたやり方だと、わたしは思う』と、アアア氏はむっつりと言った。

    『ロケット船です。それに乗って来たのです。あそこに置いてあります!』

    『ツツツ君の無分別は、今回が初めてじゃないのだ』

    『地球からはるばるやって来たのです』

    『いや、断然、わたしは彼に電話をかけて、はっきり言ってやる』

    『われわれ四人だけです。わたしと、この三人の部下だけです』

    『そう、電話をかけよう、断然そうしよう』

    『地球。ロケット。人間。旅行。宇宙』

    『電話で、ぎゅうと言わせてやる!』

     

    長くなりましたが、こことかほんと最高。この後、アアア氏はツツツ氏に決闘を申し込むんですよねw」

     

    残響「全く話がかみ合ってないw なんとなく芥川龍之介の『河童』を思い出します」

     

    fee「この作品に出てくる火星人は、外見こそ違いますけど、私たち地球人にもいそうな人たちばかりですよね。こういう面白さは、昔のSF特有だと思うなぁ。今のSFにはもうないんじゃないかな、こういうの(あったらすみません)」

     

    残響「旧き良きSF的火星人というか、大らかな感じがしますね。牧歌的といいますか。悪い意味じゃない【テンプレ】みたいな。ところで、アアア氏とかツツツ氏の原書での表記が少し気になったので洋書原文で調べてみたんですが、Aaa氏 Ttt氏でした」

     

    fee「笑いの仮面をかぶっている怪しい火星人、クスクスクス氏というのも出てきますよねw あれ、でも『イラ』では火星人の名前はイラとかイルとかいう名前でしたよね? いつのまにかアアア氏とかツツツ氏みたいな名前になってるけど……

     

    残響「うーん……まぁでもそういうおおらかさというか、適当さがむしろ良い味を出している気もします」

     

    fee 「確かにw あまり細かいことにこだわっちゃいけないwさて、この後、精神病院に入れられてしまうウィリアムズ隊長以下4人。ここでは大歓迎を受け、楽しそうなんですが……」

     

    残響「……コレ楽しそうですか? 凄い歓迎を受けた直後に、もう誰からも見向きもされなくなっていたり、結構怖いですよ、ここ。P65、2行目『かれらの黄色い目は光のなかで大きくなり小さくなり、焦点も外れたり合ったりするのだった』とか」

     

    fee「そういわれると確かに怖いw」

     

    残響「まあ、地球人も極まるとこんな感じになりますけどね(白目)」

     

    fee「なんのフォローにもなってないw とにかく、地球のチュイエレオルからやってきたウウウ氏やミス・ルルルやブブブさん達に囲まれて、一瞬だけ大歓迎を受けたんですけど、大きく持ち上げて、大きく落とされるという……」

     

    残響「結局、最後、まーた殺されちゃいますしね……」

     

    fee「ウィリアムズさん達もそうですが、やっぱり火星的にはいい迷惑だったと思いますよ。クスクスクス氏は死んじゃうし、ツツツ氏は決闘を申し込まれるし、ツツツ夫人の家は泥靴で上がられるしw」

     

    残響「しかしこの連作短編集、尻上がりに面白くなっていきますね。『ロケットの夏』で行けそうだ、と思ったわけですが、『イラ』で更に引き込まれ、この『地球の人々』で更に評価が上がり……この後の『第三探検隊』でさらに【ガン!】とレベルが上がる面白さだし……」

     

    fee「お薦めした手前、そう言っていただけると本当に嬉しいです」

     

     

    ★2031年3月「納税者」 第三次火星探検隊出発 地球に核戦争の影

     

    残響「火星へ行きたいと考えた庶民の話ですね。『俺は納税者だぞ!』っていう……」

     

    fee「消費税がある現代では、その辺の子供だって納税者なので滑稽にしか思えないですね」

                                                                                                   

    残響「厳しいなぁw しかし、探検隊しか火星に行けない時代に、一納税者が火星に行けるはずもなく……まあ、それにしても『俺は納税者だぞ!』しかおまいは主張出来る自慢はないのかいな、とw」

     

    fee「この短編での新しい情報は地球が結構ヤバくなっているってことですね」

     

    残響「検閲、国家主義、情報統制、管理社会、徴兵、なんかそれこそ『華氏451度』的なディストピア社会になっているのかな?」

     

    fee「二年以内に核戦争が起こるだろう、という予告もありますよね。まぁそんな情勢なので、無茶だとは思いますが、この納税者の焦りも仕方ない事かもしれません」

     

     

    次回に続く……(「第三探検隊」の目の前に広がるのは……!?)

     

     

    *注2……以下は、残響の6/30時点のツイート連投です。洋書原文『火星年代記』をアマゾンkindleで買って、さくっと冒頭パラグラフを翻訳してみた、っていう内容です。

     

     

    @modernclothes24

     

    次回のfeeさんとの対談図書であるブラッドベリ『火星年代記』ですが、せっかく今翻訳づいてる自分なので、並行して洋書原版も読んでみんとす(Kindleドルドルっと買った。普通に買うといつ届くかわからない、洋書だから)。思い付いて勝手にきめますた(私信)

     

    理由がないわけでもなくてブラッドベリは1996年に出版社を変えて「火星年代記(原題 the Martian Chronicles 」を改稿してるんですね。手持ちの早川文庫新盤では「ロケットの夏 1999年」が「ロケットの夏 2030年」になってる。ちなみにドルドル原書では1999年

    例えば「2030年(1999年)ロケットの夏」の書き出しは邦訳だとこう「ひとときはオハイオ州の夏だった。ドアは閉ざされ、窓には錠がおり、窓ガラスは霜に曇り、どの屋根もつららに縁取られ、斜面でスキーをする子供たちや、毛皮にくるまって大きな黒い熊のように凍った町を行き来する主婦たち」

     

    でも「One minute it was Ohio winter,」の訳しかたにのっけから疑問をもった。あんまり主語にとらわれすぎじゃなかとか。自分なら以下のように翻訳する。「またたく間に、オハイオ州の冬は、実に速く過ぎた。その間、ドアというドアは閉ざされ、窓には鍵。そのガラスには霜が積もり、すべての屋根は氷柱(つらら)で縁取られた。子供たちはスロープでスキーをし、主婦たちは毛皮を着こんで、凍えるストリートを、のそのそとヒグマのようにうろつく。」(残響訳)


    まあ、この1、2ページだけだと、早川文庫のほうは、より即物的に言葉を使ってますね。ただ、それも理由があって、「ロケットの夏」という言葉を鮮烈に出したい!という訳者氏の気持ちはよくわかる!だから情景をごくあっさり書きこむ形にしたのかな、と想像します。「風通しのよくなった」という表現で、「季節がさわやかに変わったんだ!」「人から人へ言葉が伝わってってるんだ!」と鮮烈に文字通りの「空気感」が伝わる。
    あと、訳された時代、「スロープ」「ストリート」は日本語で市民権得てなかったかも。そこんとこ、2017年なうな残響はラクしてますねw

     

    あー、でも、のっけにおいて冬がさらっと流されたんで「速く過ぎた」ってしたけど、この場合は「そんな短い間でもすごく印象深く、一瞬が長く感じるほどの冬だった」って意味なら、「ひととき(の間)は」っていう訳しかたもアリか!じゃあ意訳気味に訂正して「その年のオハイオの冬は厳しく、」トカ

     

    翻訳は、うん、確かにたのしいですねw(ノー皮肉) あと、これ別にfeeさんから頼まれてやってるわけじゃなく、ノー相談なんで、なんとなく自発的にやってる趣味行為デス

     

    (とわいえ、残響の今の翻訳も、早川文庫の「下訳」があって、こうサクっとできてるわけだから、自慢にはならない。むしろ訳者のかたに申し訳ない)

     

    (ただ、自分は抑揚をつけた英語音読をぶつくさしながらでないと、翻訳が出来ない。翻訳しながら電話は無理に近いかも。「他人としゃべりながら翻訳ができる」柴田元幸氏はやはりゴイス)

     

    ちなみに、自分の翻訳英語音読はどんな感じかというと、えろすけの歴代投票一位の4D氏のフォルト!!S感想の一言感想「オ〜ウ、youはぁ〜パンツをぉ、信じマスカ?(英語原文発音その1)…………ならば戦え。このゲームを許してはならない(英語発音その2)」って感じで、ひどく似ている……だから今まで他人に翻訳のこと言わなかったんだ! 「やたら抑揚をつけて音読」→「きちんと意味を含めるようにしっかり落ち着いて音読」をループするもので。

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