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    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(3)

    • 2017.09.30 Saturday
    • 22:31

    ★2033年8月『夜の邂逅』 地球人と火星人の時空を超えた邂逅

     

    fee「ある夜、主人公のトマスは火星人と出会います。そこで、まぁちょっとした話をして、お互い帰っていく。と、ストーリーとしてはこんな感じ、でいいのかな?」

     

    残響「そうですね。本当にそんな感じ。特に何が起こるわけでもない話。まさに【邂逅】。地味な作品ではありますが、二人とも評価が高いんですよね」

     

    fee「いいですよね、この作品。まず残響さんの感想からお願いしようかな?」

     

    残響「はい。まず、やっと【対話】が成立したな……って」

     

    fee「対話?」

     

    残響「ええ……今まで、地球人と火星人って全然話が通じていなかったじゃないですか。純然たるディスコミュニケーション。最たるものは、第二探検隊は狂ってる、っていうんで精神病院ですし……」

     

    fee「確かに……最後の火星人たるスペンダーも、サム・パークヒルと対話できませんでしたし……」

     

    残響「そんなわけで、『やっと、か』、と。この作品の二人はお互いがお互いの事を尊重していますよね。話がかみ合わなくても相手を否定しない。『意見一致しないという点で意見一致しましょう』というセリフもとても良いです」

     

    fee「対談企画をやりたいなと思った時に、その『意見一致しないという点で、意見一致できる』というのはとても大切だなと思っていました。もちろんお互いが意見を主張して、間違っていると思えば変えるというのは大事ですが、片方が自説を強硬に主張して、押し流す形で議論を誘導するのは避けたいなぁと。それでいて、何でも相手に合わせちゃうようじゃ、読み物として面白くないですし……と、横道にそれました。地球人と火星人がきちんとコミュニケーションを取れた、という話でしたね」

     

    残響「ネタバレになっちゃいますが、この後の『オフ・シーズン』のサム・パークヒル、伝説のスーパーナイスガイ(白目)なんてひっどいですからねぇ」

     

    fee「サムだからね。しょうがないね」

     

    残響「コップを差し出しても、相手に触れない、そういったシーンがありますよね。時空間が歪んでいるのかな。不思議なお話でした。feeさんの方はいかがですか?」

     

    fee「この作品を読みながら、ずっと『FF10』の事を考えていたんですよね。『FF10』はご存知ですか?」

     

    残響「未プレイです。ただ、*1 『ザナルカンドにて』という曲は聞いたことがありまして。作曲者の植松信夫が好きで、彼のアルバムや、他の人の同人アレンジCDとかで聞いてました。こういう物悲しい曲がテーマソングになるような作品なのかな、とは思いましたが」

     

     

     

     

     

    fee「短編ごとにイメージソングを当てはめて『火星年代記』を読んでいたんですが、まさに、この『夜の邂逅』のマイ・イメージソングは『ザナルカンドにて』でした。『FF10』についてざっと話しちゃいますが、ティーダという青年とユウナという少女のド直球の恋愛物語です。系統としては『タイタニック』とか『いま、会いにゆきます』とか、あの辺りの雰囲気ですね。ユウナという、真面目で大変な義務を負っている幸薄そうな少女を、側で見守り、支える青年ティーダの物語。……『FF10』について喋っても大丈夫です?」

     

    残響「全然大丈夫です。ネタバレを恐ろしいまでに気にしない人間なので」

     

    fee「『FF10』は、前の世代が果たせなかった事を受け継いでいくという意味で、完成度の高い王道ファンタジーにもなっているわけですが、そこは『夜の邂逅』と関係ないのでおくとして。
    ティーダという人間には実体がないんです。千年前に滅びたザナルカンドという街に暮らした、人々の想念。天才スポーツ選手で、イケメンで、ちょっとチャラく見えるけど根は真面目でいい奴。ザナルカンドに住んでいた人々が、ある種の理想とした青年なんです。
    実体を失ったティーダとユウナが、*2 お互いに触れられず、すり抜けてしまうシーンもありますし、何より既に滅びた街の住人との出会い、交流という点で『FF10』っぽい物語だなあ、と」

     

    残響「なるほどなぁ……」

     

    fee「ギャルゲやエロゲでもこういう心が洗われるような純愛モノがやりたいなぁ……って今は『FF10』の話をする場ではないんだった! 『夜の邂逅』に戻りましょう。
    ところで、一応確認しますけど、このストーリーは【四千年前に滅びた、過去の火星人】と、【現在、西暦2033年の主人公】が出会ったお話、という認識でいいんでしょうか?」

     

    残響「時空がねじれている感じですけど、そんな感じじゃないですか?」

     

    fee「ねじれている、というのがちょっとよくわからないですが……えーと、僕が言いたかったのはですね、この火星人は本当に【過去の存在】 なのか?という事です。この『火星年代記』の最終章である、『百万年ピクニック』の後。数千年後の火星人である可能性はないのか?というのを話してみたいなと」

     

    残響「未来……ですか? それは考えなかったなぁ……」

     

    fee「西暦2033年に【廃墟】があるのに、火星人はその廃墟からやって来た。逆に言うと、物的証拠はそれだけですよね?」

     

    残響「そうだと思います」

     

    fee「だとすると……廃墟は復興させれば良いわけじゃないですか。この後の未来で、再建されたのかもしれないですよね?」

     

    残響「あぁ……なるほど……」

     

    fee「ということを考えました。ちょっとこじつけかもしれませんが、未来から来た可能性もある、と考えると夢が広がるなぁと。

    後はそうですね。ひょっとして残響さんが仰った時空がねじれているというのは、あれですか? 【共通の場】がないというか、そういう事かしら? つまり、【2033年のトマスの世界】に、過去や未来から火星人がやってきたわけではない。同様に、【火星人の世界】に、トマスがタイムスリップしたわけでもない。お互いがお互いの時代に留まったまま、ただ相手と交信ができている。まるで時空間に一瞬、小さな穴が開いたみたいに」


    残響「そうです。【共通の場】。これは、物理的なフィールドを共有していない、という意味で、パラレル。思念(テレパシー)の交信は出来ているけども、お互いの物理世界が干渉しあっていない。直結してなく、パラレルになっている。物理的相互不干渉。空間位相がねじれてる。

    それともう一つ言いたいのが、この作品はトマスと火星人、2人だけだから成立するんですよね。どちらかが2人連れだったりするとダメで」

     

    fee「確かにそうですね。1対1だからこそ、の話ですよね」

     

    残響「P179、17行目

     

    『あなたのお祭りに行ってみたいな』
    『わたしも、あなたの新らしい町へ行って、そのロケットとやらを見たり、いろんな人からいろんな話を聞きたいですよ』
    『さようなら』と、トマスが言った。『おやすみなさい』

     

    この最後のやりとりも実に爽やかで、ハートウォーミングというかいい話だなぁと」

     

    fee「ロマンがありますよね。時空を超えて、全く違う時代の人と暖かな交流ができる。清涼剤のような、素敵なお話でしたね」

     

     

    *1 一番上が原曲です。オリジナルです! 真ん中のが残響さんが見つけてきたオーケストラバージョンです!(これに関しては、僕が貼ったんじゃないよ!)
    3番目のは、僕が結構気に入っているヴァイオニリスト石川さんの演奏です。というわけで3つも貼っちゃっていいんかな? まぁ「ザナルカンドにて」が名曲なのが悪いな!(意味不明;fee)

     

     

    *2 問題のシーンね! あ、ここから先はずっと名シーンだから、興味のある人はそのまま見てね!(FF10信者並感;fee)

     

     

     

    ★2033年10月「岸」  一般市民も火星へ

     

    fee「さて、いろんな人たちがやってきたという話ですが……この作品について語る事ってありますか?」

     

    残響「やってきたのはまーたアメリカ人なんですね」

     

    fee「そうですね。ただ今回は、P181、12行目『ヨーロッパや、アジアや、南アメリカや、オーストラリアや、島の人々たちは、ローマ花火の打ち上げをただ見守っていた』とあります。前回は、アメリカの事しか書かれてなかったけど、今回は他の国にも言及されていますよ」

     

    残響「日本はないんだw」

     

    fee「まぁ、アジアがあるからいいじゃないですかw ……アフリカがないぞ??」

     

    残響「……んんっ?」

     

    fee「中米もない……」

     

    残響「島の人々扱い(オセアニアとか、インドネシアとかそのあたりの住人)なんですかねぇ……」

     

    fee「いや、待って。P182、1行目『ほかの世界は、戦争や、戦争準備に忙しかった』って文章がありますよ。ネタバレになりますが、このあと核で地球が滅亡するんです。……アフリカと中米で起こった戦争で地球が崩壊したんですかね?」

     

    残響「ヨーロッパとかアメリカじゃないんだw あとロシアとかでも。なんか大きな戦争と言えば大体ここらへんだと思うのにw」

     

    fee「あと中国とねw アフリカ……アフリカねぇ。核なんて持ってるのかな。割と原始的な武器を使っていそうなイメージなんだけど……」

     

    残響「死の商人(武器商人)が近代兵器を横流ししているので、そんなこともないと思いますよ」

     

    fee「核も横流しされたんだな、きっと……今話題の北の国が横流ししたとか……?」

     

    残響「1ページの作品なのに、なんだか随分語りましたねw」



    ★2033年11月「火の玉」  火星に宣教師が到着 第二の火星人(火の玉)との遭遇

     

    fee「さて、『火の玉』です。これは旧版の『火星年代記』には入っていなかった作品なんですが、リメイクにあたって加えられましたけど……」

     

    残響「けど?」

     

    fee「僕、このタイプの作品は基本的に嫌いなんだよなぁ……正直に言ってつまらなかったです。この手の、説教くさいキリスト教的作品、海外の作品を読んでいると結構出くわすんですけど、全然興味が持てません……こないだ読んでた『ロストシンボル』もラスト50ページまでは面白かったのに、最後突然こちらの方向になってあくびが出ましたし、『アルプスの少女ハイジ』の小説版も……(以下2分ほど喋り続ける)」

     

    残響「『説教臭いキリスト教作品』……そんなに嫌いなのかww フルボッコですなぁ……」

     

    fee「あらすじを言いますね。ペレグリン神父たち3人が、火星に宣教をしに行くお話です。そこで、蒼い火の玉みたいな火星人に出会うんですね。神父はその火の玉に宣教しようとするんですが、火の玉は『私たちの事は気にせずに〜』と言っていなくなってしまいます。ストーン神父はその火の玉こそが、神であると悟る……そんなお話……ですよね?」

     

    残響「ですね。火星の世界には火星の世界なりの、新しい罪がある、と意気込んでますが……」

     

    fee「率直に言って、どうだってええやん、という感想しか湧いてきませんでした。なんでよそものが乗り込んできて、自分の道徳観を他人に押し付けようとするんだろ。やだやだ……」

     

    残響「……ところで、ナイーブな質問になるかもしれませんが、feeさんはキリスト教自体が嫌いなんですか?」

     

    fee「それはないです。ただ、宗教にあまり縁がない人間なもので(神社で神頼みしたり、おみくじひいたり、お地蔵さんに手を合わせたりするけど、宗教には入っていないフツーの日本人です)。このペレグリン神父のような狂信的な宣教者は気持ち悪いなと思いますが……」

     

    残響「まぁ宣教師なんてこんなもんですよ。割と一般的な宣教師像じゃないでしょうか」

     

    fee「イスラム過激派だって受け付けないし、特にキリスト教を嫌っているわけではないです。ただ、中世ヨーロッパの宣教師って、侵略とセットじゃないですか。十字軍もしかりですが、それこそコルテスとか……」

     

    残響「『宣教』と『侵略』の歴史を考えると、フロンティア精神溢れる人なんてこんなもんじゃないでしょうか。嫌いですが。自分、【宗教の布教】ってのが大嫌い」

     

    fee「アステカの人はアステカの人で、火星人は火星人でキリスト教なんて知らなくても楽しくやっていたわけだし……。地球からの入植者に対して、地球人向けの教会を作るというのはわかりますが……」

     

    残響「元々はそのために来たんですよね。ペレグリン神父の好奇心というか、お節介心というか……*1アニミズム的な考えを持った人だったんでしょうなぁ」

     

    fee「ところで、この作品に出てくる火星人は、今まで出てきた火星人とは雰囲気が違いますよね。火星人は2種族いたんでしょうか? それとも、今までにも登場していた火星人が、悟りを開いて解脱か何かをすると、*2青い火の玉になるんでしょうか?」

     

    残響「ちょっとその辺はよくわからないですねぇ。まぁ、ぼくも無宗教的なところはかなりありますが、feeさんよりはこのお話を楽しめたかと。神学論争的なものに興味がないわけではないので……それが良いのか悪いのかはわかりませんが。ただ、神学論争と信仰心っていうのもまた別かと思います」

     

    fee「『火星年代記』の収録作品の中では一番つまんなかったです」

     

    残響「そんなにかーいw」

     

    *1 アニミズム……この世にあるいろんなモノに神が宿っている、という原始的宗教性。信仰心。(残響)


    *2 青い火の玉、と言われて僕が思い浮かべたのは、ドラゴンクエストシリーズでおなじみの「さまようたましい」だった。残響さんが挙げた「ウィルオーウィスプ」の方が多分、作中イメージにはより近いはず(fee)

     


    ★2034年2月「とかくするうちに」 火星にアメリカ風の町が出現

     

    残響「すげえどうでもいいことを言えば、この作品世界、2034年なのに小説家がタイプライターを使ってる……」

     

    fee「リメイクした時にどうして直さなかったんや……ところで、アイオワ州の町、という表現が出てきますが、アイオワ州というのはアメリカのどこにでもありそうな町のイメージなんでしょうか?」

     

    残響「結構田舎だと思います。ニューヨーク……アメリカ北部の都市圏ではない、アメリカの田舎町のイメージでいいんじゃないでしょうか」

     

     

    ★2034年9月「音楽家たち」 火星人の痕跡を焼却

     

    残響「火星人の骨とか死体で遊んでた無邪気(?)な子供が、折檻されるお話ですね。子供だから仕方ないとは思いますが、こういう作品を読むと、やっぱり地球は侵略側なんだなぁと。サム・パークヒルも似たような事をしていましたけど……」

     

    fee「サム・パークヒルは少年の心を忘れないナイスガイですからね」

     

    残響「ナイスガイではないでしょw」

     

    fee「哀れ子供は母親からも父親からも虐待されて……」

     

    残響「母親がやってるのは恐ろしく熱いお湯に少年たちを入れているだけじゃないですか?」

     

    fee「それって虐待みたいなものでしょ?」

     

    残響「そうだけど、ひょっとすると熱湯殺菌かもしれませんよ? ちょっと荒っぽいですけど。なんかそのあたり、昔の開拓時代を描いてる小説世界のような荒っぽさ。それをブラッドベリのノスタルジー作風といってもいいのかもだけど」

     

    fee「あー、死体を触った後だし、そうかもですね」

     

     

     

    第4回に続く……
     

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(2)

    • 2017.09.07 Thursday
    • 20:11

    ☆火星人絶滅。火星植民地化時代 「月は今でも明るいが」〜「鞄店」

    (読書会(2)〜(4))

     

    ★2031年4月 「第三探検隊」 第三次火星探検隊 16名全滅

     

    fee「さぁ、いよいよ第三探検隊が火星に来ましたね」

     

    残響「この話、凄く良いんだよなぁ……」

     

    fee「うん、この話は僕も大好きです」

     

    残響「第三探検隊が、火星に到着してみると、そこは1950年代のアメリカの街並そっくりだった……という物語ですが、この【古き善きアメリカ】の描写が凄く良い」

     

    fee「懐かしくて、感傷的で……これぞブラッドベリ、という感じの描写です。こういうのを描かせたら本当に巧い。宇宙に行ったはずなのに、地球そっくりの街並みが〜というのは*『ドラえもん』にもあった気がしますが、もちろん『火星年代記』の方が先です」

     

    残響「あぁ、ありましたねぇ。懐かしい」

     

    fee「50年代の街並に戸惑う第三探検隊の前に、亡くなってしまった隊員たちの家族やら何やらが出てきます。ブラック隊長が制止しているにも関わらず、ひょこひょことついて行く隊員たち……」

     

    残響「そりゃあ、ついていくでしょう……。これは食らいますよ」

     

    fee「待てあわてるな、これは火星人の罠だ」

     

    残響「と言ったってねぇw そんなブラック隊長も、懐かしい家族が出てくると……」

     

    fee「ここ良いですよね。全文引用したいぐらいですが、長くなるのでこまめに中略を入れながら引用します。P96、16行目、

     

    「何だと?」ジョン・ブラック隊長はよろめいた。

    「ジョンじゃないか、こいつ!」青年は駆け寄り、隊長の手を握って、背中を叩いた。(略)

    兄と弟は互いに手をとりあい、抱擁し合った。「エド!」「ジョン、こいつめ!」

    「元気そうだね、エド」(略)

    「ママが待ってるよ」と、エドワード・ブラックはにやにやしながら言った。

    「ママが?」

    「パパも待ってる」

    (略)

    「わあ! よし、玄関まで競走しよう!」(略)

    「勝ったぞ!」とエドワードは叫んだ。「ぼくはもう年寄りだもの」と隊長はあえいだ。

    「兄貴はまだ若いじゃないか。でも、昔も、ぼくがいつも負けていたっけね、思い出した!」

    戸口にはママ。桃色の頬、肥った体、輝かしい姿。そのうしろにパパ。胡麻塩あたま。手にはパイプ。「ママ、パパ!」

    隊長は子供のように階段を駆け上った

     

     

    残響「隊長がかわいい。『火星年代記』に出てくる隊長はみんな結構かわいいんですけど、このブラック隊長もすごくかわいいですね」

     

    fee「80歳なのに、童心に帰っちゃって……」

     

    残響「そんなお年だったんですかw この、ママ、パパという呼びかけもいいですなぁ。グッとくるものがありますね」

     

    fee「ここでちょっと水を差すような事を言いますけど、『1927年より新らしいものは一つもないでしょう?』という一文は、ちょっとまずい気がしますね」

     

    残響「あっ、これは……」

     

    fee「新版のブラック隊長は1951年にイリノイ州で生まれた事になっていますが、旧版は1920年の生まれです。描写とかはそのままで、31年だけ追加したものだから……」

     

    残響「なんて杜撰なんだ!」

     

    fee「この街はブラック隊長の子ども時代の町なので、ブラック隊長が1951年生まれだとすると、1926年の街並みが出てくるはずはないんですよ。街の描写自体は手を入れていないので、1920年代の街並みの描写を、無理やり1957年ということにしてしまった。ただ、やっぱりどう読んでも、1920年代の街並みを1957年だと言い張るのは無理がありますよね」

     

    残響「世界大戦を挟んでいますからね。1926年じゃ世界大恐慌よりも前でしょう?」

     

    fee「そうです。なので、苦し紛れにここだけ『1927年より新らしいものは何一つないでしょう?』 と31年足さずにそのままにして、1920年代の風景が広がる50年代の田舎町だという事にしているんですが……その言い訳で納得してもいいけど、やっぱりちょっと辛いw」

     

    残響「考えれば考えるほど、31年足す必要があったのかという疑問が……」

     

    fee「ですよねぇ。たとえば今、『新世紀エヴァンゲリオン』を見たとしても、別に萎えたりしないでしょ? パラレルワールドだと思って見ますし」

     

    残響「そうですよ。何の問題もない」

     

    fee「まぁ、この31年追加事件でブラッドベリをいじめるのはこのぐらいにしますかw 作品に戻りますが、この後の展開が……」

     

    残響「とても怖いですよね。アーカムハウス出身の片鱗というか」

     

    fee「一番最後がものすごく怖いんですけど。なんで火星人は泣いてるんですか? P106、3行目

     

    泣きながら教会へむかって歩き出した。教会では新らしい墓穴が掘られ、新らしい墓標が立てられた(略)。市長が短かい悲しい演説をした。(略)「十六人のすばらしい人たちが、昨夜、思いもかけず急死し――

     

     

    思いもかけずって、殺したのは火星人でしょ? マジで、何で泣いてるんですか? 怖すぎでしょ」

     

    残響「地球式の葬式をしているのも謎ですよね」

     

    fee「ほんとにね。火星人たちが祝杯をあげていれば、別に怖くはないんですよ。火星人が第三探検隊を殺したというだけの話になるので。でも、なぜか火星人が泣いている。意味がわからない。それが怖い」

     

    残響「不条理ホラーというか……不気味ですよね。地球人の真似をしたんでしょうけど、真似をする必要がどこにもないし……。少しページを戻しますが、隊長が死ぬ前に、色々と考えているシーンがあるじゃないですか。これはひょっとして火星人の罠なんじゃないか、と延々数ページにわたって考えている。そして、いよいよ逃げ出そうと決意したその時に……」

     

    fee「『どこへ行く? 兄の声はひどく冷たかった……』」

     

    残響「そうそうw」

     

    fee「

     

    『水を飲みに』

    『でも喉がかわいてないだろう?』

    『いや、かわいてるよ』

    『いいや、かわいてない』

     

    この『いいや、かわいてない』も怖いw」

     

    残響「脅迫ですよねもうw しかしこの作品って、ブラッドベリ的にとても贅沢な作品だなあと思います。途中まではブラッドベリらしい、ロマンチックな良い話で、途中からホラーになってる。しかもちゃんとSF連作の中で意味のある作品になっていますし……」

     

    fee「ブラッドベリのいいとこどり、みたいな作品ですよね。さて、そんなわけで第三探検隊も全滅したわけですが……今回はどう見ても火星人側が迎撃態勢を整えていますね」

     

    残響「そうですね。完全に地球人を敵とみなして、殺す気まんまんで来ていますよね」

     

    fee「ここで翻って疑問なのが、第二探検隊……あの、精神病院に入れられちゃう話ですが、あれは火星人の迎撃だったのか?という事です」

     

    残響「いや、あれは……多分違うけど、わからないな。どうなんだろう? もしそうすると、演技で地球人をたらいまわしにしたってことですか?」

     

    fee「うん。多分、素だとは思うんですけど、ひょっとして演技だったかもしれない……そう考えると、それはそれで怖いなと……」

     

    残響「確かに怖いw」

     

    fee「まぁ正解はないんですけどね。では次の……次も語る事がたくさんありそうですね。『月は今でも明るいが』に移ります」

     

    *1 のび太が天才になっていたり、性別が入れ替わったりしているという。(fee)

    (あらすじの参考ページはこちらのリンクからどうぞ)

     

    ★2032年6月「月は今でも明るいが」 火星人滅亡 第四探検隊、火星に到着

     

    fee「第四探検隊が火星に到着します。この作品に出てくるワイルダー隊長、ハザウェイ、サム・パークヒルの3人は、この後の短編でも登場しますので覚えておいてください。そういう意味でも大事な短編です」

     

    残響「火星人が絶滅しちゃってますね……水疱瘡なんかで……」

     

    fee「火星人の絶滅についてはすみませんがちょっとおいといて、第四探検隊は今まで以上にキャラクターが立っているなぁと。今までは、隊長ぐらいしか出番がなかったので……」

     

    残響「確かにw」

     

    fee「この作品で最も印象的なキャラクターはスペンダーだと思うんですが、残響さんはスペンダーについてはどう思いました?」

     

    残響「怖いですね。ちょっと行きすぎちゃってるというか」

     

    fee「なるほど」

     

    残響「『わたしは最後の火星人だ』とか言ってるし……」

     

    fee「中二病に罹っちゃったんですよw 僕は、スペンダーの気持ちはわかりますけどね。もちろん、行きすぎだというのは否定しませんが……」

     

    残響「うーん……」

     

    fee「スペンダーがコルテスのエピソードを語るシーンがありますが、これがそのまま、火星に対する地球の立場になると思います。アステカ文明も、西洋人がもたらした伝染病で絶滅してしまいました。しかも……ビグズとか、サム・パークヒルとか、ちょっと探検隊の民度が低すぎませんか? ポイ捨てとかしてません?」

     

    残響「控えめに言っても最悪ですなぁ」

     

    fee「なんでこんな連中が火星に来たんでしょう? 第三探検隊までは、みんな一応役職があったんですよ。航行士のラスティグとか、考古学者のヒンクストンとか。でも、サム・パークヒルとかビグズとかって、特に何もついてないですよね?」

     

    残響「海賊みたいになっちゃってますからね。ゴロツキというか」

     

    fee「火星を尊重する、という以前に、調査隊としても失格ですよね。環境を保全する気とか全くないし」

     

    残響「着いて早々酒盛りとかしてるし……」

     

    fee「いやまぁお酒は飲んでもいいんじゃない? 第二探検隊のウィリアムズ隊長も、こんな感じで歓迎されたかったんですよ」

     

    残響「サム・パークヒルと言えば、最後の方の『何をうまくやれたのですか』『こんな野郎(スペンダー)といっしょに何をやれたのですか』というセリフが妙に印象的で」

     

    fee「ワイルダー隊長の『スペンダーとわたしなら、どうにかなったかもしれない。スペンダーときみらは、とうていダメだ』というのも」

     

    残響「ワイルダー隊長は苦労人ですね。そしてとてもバランスがとれた人物だと思います。一方にはスペンダーがいて、一方にはビグズやサム・パークヒルがいて……」

     

    fee「もっとも、なんでこんなメンバーで火星を目指したのか、という疑問は残りますがw ビグズなんか連れて行くぐらいなら、まだ納税者を連れて行ってあげた方が……」

     

    残響「納税者ww」

     

    fee「そういえば、第一探検隊は2人だけだったんですよね。第二が4人、第三が16人。どんどん人数が増えているのは、やはり安全対策が関係しているんでしょうか?」

     

    残響「まぁ、毎回全滅していましたからね……」

     

    fee「第一探検隊から第四探検隊までが2年半程度なので、技術の革新があったと考えるには……」

     

    残響「時間が短すぎるんですよね」

     

    fee「それで安全対策のために、チンピラみたいなサム・パークヒルとかビグズを連れて行ったのか……」

     

    残響「それにしたってもう少し人選というものがw ところで、ワイルダー隊長とスペンダーのやりとりは結構面白いと思うんですけど、アクションシーンはあまりうまくないですねw」

     

    fee「まぁアクションシーンで名を売っている人じゃないからw 僕はこれぐらいなら大丈夫ですw」

     

    残響「なんか急に西部劇みたいになっちゃって」

     

    fee「確かに西部劇っぽいw」

     

    残響「ワイルダー隊長とスペンダーが話している、火星人の美観というか、宗教観というかについてはどう思いました?」

     

    fee「正直なところ、あまりよくわからないw ただ、科学発展を彼らがうまく途中で止める事が出来た、というポイントは大事かなと思いました。パソコンとかスマホとかでもそうだと思うんですけど、一度科学が進展してしまうと、それらがない生活に戻るというのは極めて難しい。行きつく先が、核の問題で……」

     

    残響「『太陽の黄金の林檎』にも『空飛ぶ機械』という話がありましたね。科学技術の発展を止めるために、皇帝が人を殺してしまう話が」

     

    fee「そう。確か残響さんは、科学の発展によって救われる命もあるというお話をしてくれて、僕は、空飛ぶ機械が軍事利用されて命を奪う可能性もあるという話をして」

     

    残響「そうでした、そうでした」

     

    fee「今回、スペンダーに対する反応が分かれたのも、『空飛ぶ機械』の皇帝に対する反応が分かれたのと同じかなぁと」

     

    残響「あぁ……」

     

    fee「どちらが正しい、というわけではないんですけどね。うまくバランスが取れればそれが一番良いわけですし。ただまぁ、仮に地球に住めなくなっても、火星を植民地化して、更に大宇宙へと乗り出していけばいい! という発想からは少し、距離を取りたいなというのはあります」

     

    残響「なるほどです。ブラッドベリも、そういう「科学をどんどん進展させて、大宇宙に乗り出していけばいい」っていう人ではないですよね。作品を読んでいる限り」

     

    fee「そうですね」

     

     

     

    ★2032年8月「移住者たち」 火星に植民者がやってくる

     

    fee「『第三探検隊』、『月は今でも明るいが』の2作が序盤戦の山場という感じで、ここからちょっと【接着剤】的な作品が続きますね」

     

    残響「そうですね」

     

    fee「火星人も絶滅し、ついに地球人が我が物顔で火星に乗り込んできました」

     

    残響「イリノイ、アイオワ、ミズーリ、モンタナって……地球の話のはずなのに、アメリカの事しか書いてないですな」

     

    fee「これはねぇ……アメリカの小説にはよくある事なんですよね。スティーブン・キングの『ザ・スタンド』とかでもそうだったんですけど。地球が崩壊、とか文明の壊滅、とかいうけど、アメリカ以外の話は全く触れられもしないという……」

     

    残響「4州出てきますけど、これは全部南部の方かな?」

     

    fee「んー、あまり北部な感じはしないけど……どうだったかな? ちょっと地図を見てみます。(見た)中西部ですね。モンタナだけちょっと遠いけど、イリノイ、アイオワ、ミズーリは隣接してます」

     

    残響「ふむふむ」

     

    fee「特に話は広がらなかったw」

     

    残響「w 最後の『最初の孤独な人たちは、自分たちだけが頼りだった……』 って文章は格好いいですね」

     

    fee「確かに格好いい」

     

    残響「格好いいけど……最初の孤独な人たちって、サム・パークヒルとかですよね……」

     

    fee「うーんw」

     

    残響「それだけですけどw」

     

    fee「それじゃ、次行きますか」

     

     

    ★2032年12月「緑の朝」 火星、緑地化へ

     

    fee「僕、これイマイチよくわからなかったんですけど」

     

    残響「そうですか? 火星が緑地化されるって話かなと。テラフォーミングという単語もありますけど」

     

    fee「うん。それだけですよね?」

     

    残響「はい、それだけですw」

     

    fee「ページ数は多少ありますけど、基本的にはこれも接着剤的な小編と考えていいんですよね? 主人公はベンジャミン・ドリスコル。一応名前もついてますけど……」

     

    残響「特に物語性があるとかではなく、火星がテラフォーミングされるという話なので、接着剤だと思います。ただ、ぼく結構こういうの好きなんですよ。荒れ果てた火星がどんどん緑になっていく描写は感動しますね。『トライガン』を連想する。 *1

     

    fee「うーん、僕はあまり……。キム・スタンリー・ロビンスンという作家が書いた、『火星三部作』。『レッドマーズ』、『グリーンマーズ』、『ブルーマーズ』という作品群がありまして。ちょうど帯で、『ハードSF版火星年代記』と宣伝してたんですが、この三部作はまんまテラフォーミングの話なんですね。

    ブラッドベリの『火星年代記』とは似ても似つかない、ひたすらテラフォーミングの話で……ガチなSF者はこういうのが好きなのかなぁ、僕にはよくわからんわ、とか思いながら一応『グリーンマーズ』までは読んだんですけど……良かったらどうですか?」

     

    残響「そうですね……機会があれば」

     

    fee「あ、それだけです、はい」

     

     

     

    *注1 内藤泰弘『TRYGUN』(続編『TRYGUN MAXIMUM』)

     

    ……DEEP SPACE PLANET FUTURE GUN ACTION……!!
    未来の枯れた星で、流浪のガンマン・ヴァッシュが「不殺」の愛と平和を突き詰めながら宿敵を追い続ける……!というSFガンアクション漫画の傑作。
    本『火星年代記』対談的に話せば、トライガンの舞台は、星間移民の事故により「枯れた星」に不時着してしまった人類、というものです。人類は自律型永久機関である「プラント」を駆使して、水や食料や物資を製造して生き延びます。この「プラントを使って枯れた大地に緑を芽生えさせる」という「画」ですね。荒れた大地でも花は咲くのよ、滅亡と再生なのよ、みたいな。そういう希望の「画」が、個人的にSFマインドにギューン!と心引き寄せられるのです。(残響)

     

     

    ★2033年2月「いなご」 植民地化が加速

     

    fee「口に釘を咥えている、大工さんの描写が面白かった。くらいかな、僕は」

     

    残響「これは、地球人の事をいなごにたとえているんですよね。かなり辛辣というか、ブラックだなぁと思いました」

     

    fee「あ、そうですか? まぁ、害虫扱いですけど……」

     

    残響「荒らしみたいなw *2」

     

    fee「そんな感じですねw」

     

     

     

    *2 昔っからオタク・同人界隈ではよく見られた光景です。

     今まで細々とファンが愛好していた作品やジャンルがあって、その作品・ジャンルがある時突然ブームになる。そうしたら、それまで愛好してきたファンたちのおよそ10倍以上もの新規ファンが来る。ここまでは良い展開ですが、しかし、

    「原作にリスペクトも理解もない二次創作で金を儲けようとする作家」「原作をネタとしてしか取り扱わず、その時は【神!】とか言ったりするけど、次のブームがきたらすぐに捨てる」「やたら勝ち・負け・覇権、みたいな基準で語ったりする」……みたいなのの登場が、不可避です。
    そんな浮動票というか。どこかからやってきて、元々の原作を食い荒らしていって、またどこかへ行っていく、というのを、かつて「同人イナゴ」と呼んだものでした。今はそこまで使われない言葉ですが。
    本『火星年代記』のこの短編のタイトル的には、こういう人間の「群がる」様相が皮肉たっぷりに描かれていて、なるほどなぁ、と独りごちて納得するわたくしでありました。もちろん、わたしたちもどこまで「いなご」であるか。それはね、自分自身ほど「おれはそうじゃねえよ!」と放言しがちではありますけど、ね。(残響)

     

     

    第3回に続く……

    ブラッドベリ『火星年代記』読書会(1)

    • 2017.09.02 Saturday
    • 19:55

    fee「というわけで、今回からは『火星年代記』の読書会を始めたいと思います」

     

    残響「よろしくお願いしますー」

     

    fee「まず初めに、今回取り上げるのは1997年に編集された、新版の『火星年代記』です。元々は1950年代に発表された連作短編集なんですが、その後ブラッドベリが収録作をいじるなど、微修正を加えております。私たちが読むのはリメイク版『火星年代記』ですので、旧版しか知らない方は少し違和感があるかもしれません。まぁ、あまり内容は変わらないんで問題ないと思いますけども」

     

    残響「収録作が少し変わったのと、各短編の作中年代が31年ずつ繰り上がったぐらいですかね? 訳の改稿まではしてない……と思う」

     

    fee「ですね。しかし、無理に年代を繰り上げなくても良かったのにね。どうせ2030年になってもロケットは飛んでないと思うし、そしたらまたリメイクするのかしら」

     

    残響「夢がないw それに、仰るようにこの年代リメイク、あんまり功を奏してないように思える……」

     

    fee「この連作短編では、20ページ程度の短編作品と、2ページ程度のショートショートがありますよね。バラバラの短編作品を、ショートショートで繋いでいるという意味で、便宜上【接着剤】と呼びますけど」

     

    残響「一番最初の短編『ロケットの夏』も【接着剤】ですね」

     

    fee「今回は連作集なので、前回とは違い、時系列順に読んでいく事になります。その前に、後でまとめやすいように、この本でとりあげられた地球と火星の歴史を、年表のようにまとめながら対談していきましょう」

     

    残響「お願いします。*1」

     

    fee「短編集と言えば短編集なので、とりあえず1編1編を語っていく形で読んでいきますが、連作でもあるので、キリの良いところまで来たら、後で通しの感想も言っていきましょう」

     

    残響「そうですね、わかりました」

     

    fee「まずは『ロケットの夏』ですが……この作品、残響さんの6月のツイートを見て以来ずっと突っ込みたくて仕方なかったんですよね」

     

    残響「えっ!?」

     

    *1……例によってあらすじを纏めるのが超絶苦手な残響でありました。以下の「火星歴史年表」もfeeさんの作成です。それにしても自分は圧倒的なまでにこの「要点・要旨を纏める」という作業が苦手で。残響が自分のHP・ブログや、エロゲー批評空間で書いてるレビューなどをお読みの方ならお分かりになられると思いますが、とにかく「纏める」という作業がぼくは苦手です。その時の衝動任せで生きている、とも言えるし、小説も勢いで読んでる、とも言える。また、正しい情報集めも手を抜くのかもしれない。衝動……衝動性! P.U.N.K(中指を立てる)!!  論理ではなく、衝動的イメージ任せ。……しかし、その勢い任せの生き方に最近疑問を抱いてるところです。なぜなら、何しろ次の「ロケットの夏」でさっそく……。

     

     

     

    ☆地球→火星への冒険期 「ロケットの夏〜第三探検隊」

     

    ★2030年 1月 「ロケットの夏」   第一次火星探検隊、地球を出発

     

    fee「まず、残響さんの感想から聞こうかな?」

     

    残響「最初にこれを読んで、この連作短編集を読んで【いけそうだ】、という思いを持てました。何しろ喚起されるイメージが良い。絵になる。イメージ重視の素晴らしい作品ですよね」

     

    fee「確かにイメージ重視の作品ですね。『太陽の黄金の林檎』とか、そちら系の……」

     

    残響「こう、目まぐるしい冬から夏への移り変わりが描かれていますよね……自分、荒い翻訳を以前したんですけど *2(この記事のラスト参照)、文章からして」

     

    fee「……あー、やっぱり……これ、残響さんは誤読していると思うんですけど……この作品は、冬の作品ですよね?」

     

    残響「えっ……あ、そうか。2030年1月だから……」

     

    fee「これは、爽やかな夏が来て、青空にロケットが飛んで行ったって、そういう話じゃないですよ。冬なんですよ。冬に、ロケットが飛んで行ったんです。そしたら、ロケットの燃料というか熱噴射で、一瞬この辺りが猛烈に暑くなった。それを『ロケットの夏』と呼んだんですね」

     

    残響「なんてこったい……! ちょっとこれ、ぼくめちゃくちゃ誤読してるじゃないですか!!(冷や汗ダラダラ)w ぼくが想像していたのは、清々しい見渡す限りの草原と、青空にロケットが飛んでいく夏の風景でしたよ!(しどろもどろ) *3」

     

    fee「まぁ、これ難しいですよ。そんなに読みやすくないですもん。『冷たい空から町に降りつづいていた雪は、地面に触れる前に、暑い雨に変質した』あたりから読み取れるかなとは思いますが……」

     

    残響「……(恥) うーん、ほんとにこの対談大丈夫なのかなw いきなり心配になってきたw」

     

    fee「波乱含みの幕開けになっちゃいましたねw まぁこれはこれってことで」

     

    *注2……記事ラスト参照

     

    *注3……これである。そいえば、昔現代思想とか哲学をかじっていたときのことを思いだした。ある批評家が海外の物語を引用して「この表現はダブルミーニングでこうなんだ」とか「この表現にはこう深読みが」とかって言ってるけど、実はその読解が誤訳の誤読に基づいてる間違い読解だ、っていう恥ずかしさ。しかもその批評家は「そ、そういう風に読めたんだからしょうがないだろう、これもまたポストモダンの誤読による越境可能性がー!」とかってしどろもどろになっていたという無様。しかしそれを今となってはとやかく言えない。なぜなら、嗚呼、なんということか。ぼくも全く同じことをしてしまうというね。

     

     

    ★2030年2月「イラ」 第一次火星探検隊 ナサニエル・ヨーク他1名 死亡

     

    fee「さて、いよいよ火星初登場ですね。この火星の描写ですが、葡萄酒の木が出てきたりとなかなか異国情緒豊かなものになっています。火星人のイラ夫妻が地球や地球について語っている部分もいいですね。P22、9行目の、

     

    『青い目! あきれたね!』と、K氏は叫んだ。(中略)ひょっとすると、そいつの髪は黒かったんじゃないのか」

    『あら、どうして分かったの?』夫人は興奮して訊ねた。

    『いちばんとっぴな色を言っただけさ」と、夫は冷たく答えた』

     

    とかw」

     

    残響「『第三惑星には生命の存在する可能性はないんだよ』(中略)『科学者が調べたところによると、あの惑星の大気には酸素が多すぎるんだそうだ』というのもなかなか……。物理法則を全部裏返しにしていますね。どこか『鏡の国のアリス』を思わせるようなトリッキー描写です」

     

    fee「同じような事を言っている地球人がたくさんいるようなw 生物学について無知なので、変な事を言うかもしれませんが……私たちのような炭素系生命体が存在する可能性はないとしても、全く別の形での生命が存在する可能性は残されていると思うんですよね。それを生命と言って良いかどうかはまたなんとも言えないところですが」

     

    残響「ところで、また翻訳ネタなんですが、英語で【Era】という単語がありまして。読み方は【イラ】もしくは【イーラ】。イラのスペルがこのeraだったとしたら、【時代】を現す言葉となり。この壮大な物語の幕開けに相応しい名前だなぁとか思っていたんですが、原文を当たってみたら違うスペルでしたわ……。【YLLA】っていうね。……このノリでさらに翻訳ネタをカマせば、夫のイルは病気【ILL】とかそんな意味だったりしたのかなぁ、とかいう邪推。まあ多分間違っているとは思いますが!w でも、確かにこの夫は何となく病んでいる……」

     

    fee「神経質ですよね。ラストで、イラが地球の歌を思い出せなくなるシーンがありますが、これは『地球人から、歌を習う』という未来が消えてしまったからなのでしょうか? イラには未来視の能力があって……」

     

    残響「彼らはテレパシー(思念通話、「思ったこと」がそのまま伝達になる)で話しているんですよね? テレパシーと未来視には何か因果関係があるのでしょうか?」

     

    fee「まぁ多分、ブラッドベリはあまり考えてないんじゃないかな……ともあれ、夫の嫉妬……こんなしょうもない理由で第一次火星探検隊は全滅しましたとさ」

     

    残響「こんな理由でねぇ……」

     

     

    ★2030年8月「夏の夜」 火星人たちの不安な夏 謎の歌、地球の影

     

    残響「これは地球の……」

     

    fee「え、いやいや火星の話ですよ」

     

    残響「えっ?

     

    fee「『火星の夜の側の数百の町の円形劇場では』って書いてあるじゃないですか」

     

    残響「(赤面、頭を抱える) う、うーん。どうしたんだろ。てっきり地球の話だと思って読んでいましたよ。誤読多すぎるな、ぼく」

     

    fee「ストーリーを言います。火星の人々が知らないはずの、地球の歌を歌い出しちゃうんですね。『あしたの朝、何か恐ろしいことが起こるわよ』といった具合に、迫りくる地球の不気味な影を感じる話です。前回の『発電所』の読書会で、僕は【電波ソング】を禍々しいものとして捉えたんですが、ひょっとするとこの『夏の夜』の印象が残っていたのかもしれません」

     

     

    ★2030年8月「地球の人々」 第二次火星探検隊 ジョナサン・ウィリアムズ他3名全滅

     

    fee「さて、第二次火星探検隊の到着です」

     

    残響「この作品で気になったのは、地球人を相手にしない火星人の態度でした。聞いてやるもんか、的な……」

     

    fee「いや、別に、聞いてやるもんか、と意固地になってるんじゃなくて、頭のおかしい奴が来たので関わりたくなくて、たらい回しにしているだけじゃない? 靴を脱いでから家に入ってくれ!とか、注意すべきところはちゃんと注意してるし……。地球からはるばる火星にやってきた偉業に対し、歓迎を期待するウィリアムズ隊長。しかし火星人からは、変な妄想狂が来たようにしか見えないという……」

     

    残響「圧倒的ディスコミュニケーション」

     

    fee「火星人の方からは来てくれなんて頼んでないですしね……」

     

    残響「まぁ実際、ぼくの部屋の扉が突然開け放たれて、涼宮ハルヒみたいなのが『金星から来ました』とか言い出したとしても、『病院行け』って対応をするでしょうけど……」

     

    fee「まさに、病院行けという対応をされているわけですが、出てくる火星人のキャラがコミカルで面白いですね。P53、11行目の、

     

    『では、』とアアア氏は講義口調で始めた。

    『あなた方は、ツツツ君の無礼を、当然のことと思いますかな』(中略)

    隊長は言った。『われわれは地球から来たのです!』

    『まったく紳士の道にはずれたやり方だと、わたしは思う』と、アアア氏はむっつりと言った。

    『ロケット船です。それに乗って来たのです。あそこに置いてあります!』

    『ツツツ君の無分別は、今回が初めてじゃないのだ』

    『地球からはるばるやって来たのです』

    『いや、断然、わたしは彼に電話をかけて、はっきり言ってやる』

    『われわれ四人だけです。わたしと、この三人の部下だけです』

    『そう、電話をかけよう、断然そうしよう』

    『地球。ロケット。人間。旅行。宇宙』

    『電話で、ぎゅうと言わせてやる!』

     

    長くなりましたが、こことかほんと最高。この後、アアア氏はツツツ氏に決闘を申し込むんですよねw」

     

    残響「全く話がかみ合ってないw なんとなく芥川龍之介の『河童』を思い出します」

     

    fee「この作品に出てくる火星人は、外見こそ違いますけど、私たち地球人にもいそうな人たちばかりですよね。こういう面白さは、昔のSF特有だと思うなぁ。今のSFにはもうないんじゃないかな、こういうの(あったらすみません)」

     

    残響「旧き良きSF的火星人というか、大らかな感じがしますね。牧歌的といいますか。悪い意味じゃない【テンプレ】みたいな。ところで、アアア氏とかツツツ氏の原書での表記が少し気になったので洋書原文で調べてみたんですが、Aaa氏 Ttt氏でした」

     

    fee「笑いの仮面をかぶっている怪しい火星人、クスクスクス氏というのも出てきますよねw あれ、でも『イラ』では火星人の名前はイラとかイルとかいう名前でしたよね? いつのまにかアアア氏とかツツツ氏みたいな名前になってるけど……

     

    残響「うーん……まぁでもそういうおおらかさというか、適当さがむしろ良い味を出している気もします」

     

    fee 「確かにw あまり細かいことにこだわっちゃいけないwさて、この後、精神病院に入れられてしまうウィリアムズ隊長以下4人。ここでは大歓迎を受け、楽しそうなんですが……」

     

    残響「……コレ楽しそうですか? 凄い歓迎を受けた直後に、もう誰からも見向きもされなくなっていたり、結構怖いですよ、ここ。P65、2行目『かれらの黄色い目は光のなかで大きくなり小さくなり、焦点も外れたり合ったりするのだった』とか」

     

    fee「そういわれると確かに怖いw」

     

    残響「まあ、地球人も極まるとこんな感じになりますけどね(白目)」

     

    fee「なんのフォローにもなってないw とにかく、地球のチュイエレオルからやってきたウウウ氏やミス・ルルルやブブブさん達に囲まれて、一瞬だけ大歓迎を受けたんですけど、大きく持ち上げて、大きく落とされるという……」

     

    残響「結局、最後、まーた殺されちゃいますしね……」

     

    fee「ウィリアムズさん達もそうですが、やっぱり火星的にはいい迷惑だったと思いますよ。クスクスクス氏は死んじゃうし、ツツツ氏は決闘を申し込まれるし、ツツツ夫人の家は泥靴で上がられるしw」

     

    残響「しかしこの連作短編集、尻上がりに面白くなっていきますね。『ロケットの夏』で行けそうだ、と思ったわけですが、『イラ』で更に引き込まれ、この『地球の人々』で更に評価が上がり……この後の『第三探検隊』でさらに【ガン!】とレベルが上がる面白さだし……」

     

    fee「お薦めした手前、そう言っていただけると本当に嬉しいです」

     

     

    ★2031年3月「納税者」 第三次火星探検隊出発 地球に核戦争の影

     

    残響「火星へ行きたいと考えた庶民の話ですね。『俺は納税者だぞ!』っていう……」

     

    fee「消費税がある現代では、その辺の子供だって納税者なので滑稽にしか思えないですね」

                                                                                                   

    残響「厳しいなぁw しかし、探検隊しか火星に行けない時代に、一納税者が火星に行けるはずもなく……まあ、それにしても『俺は納税者だぞ!』しかおまいは主張出来る自慢はないのかいな、とw」

     

    fee「この短編での新しい情報は地球が結構ヤバくなっているってことですね」

     

    残響「検閲、国家主義、情報統制、管理社会、徴兵、なんかそれこそ『華氏451度』的なディストピア社会になっているのかな?」

     

    fee「二年以内に核戦争が起こるだろう、という予告もありますよね。まぁそんな情勢なので、無茶だとは思いますが、この納税者の焦りも仕方ない事かもしれません」

     

     

    次回に続く……(「第三探検隊」の目の前に広がるのは……!?)

     

     

    *注2……以下は、残響の6/30時点のツイート連投です。洋書原文『火星年代記』をアマゾンkindleで買って、さくっと冒頭パラグラフを翻訳してみた、っていう内容です。

     

     

    @modernclothes24

     

    次回のfeeさんとの対談図書であるブラッドベリ『火星年代記』ですが、せっかく今翻訳づいてる自分なので、並行して洋書原版も読んでみんとす(Kindleドルドルっと買った。普通に買うといつ届くかわからない、洋書だから)。思い付いて勝手にきめますた(私信)

     

    理由がないわけでもなくてブラッドベリは1996年に出版社を変えて「火星年代記(原題 the Martian Chronicles 」を改稿してるんですね。手持ちの早川文庫新盤では「ロケットの夏 1999年」が「ロケットの夏 2030年」になってる。ちなみにドルドル原書では1999年

    例えば「2030年(1999年)ロケットの夏」の書き出しは邦訳だとこう「ひとときはオハイオ州の夏だった。ドアは閉ざされ、窓には錠がおり、窓ガラスは霜に曇り、どの屋根もつららに縁取られ、斜面でスキーをする子供たちや、毛皮にくるまって大きな黒い熊のように凍った町を行き来する主婦たち」

     

    でも「One minute it was Ohio winter,」の訳しかたにのっけから疑問をもった。あんまり主語にとらわれすぎじゃなかとか。自分なら以下のように翻訳する。「またたく間に、オハイオ州の冬は、実に速く過ぎた。その間、ドアというドアは閉ざされ、窓には鍵。そのガラスには霜が積もり、すべての屋根は氷柱(つらら)で縁取られた。子供たちはスロープでスキーをし、主婦たちは毛皮を着こんで、凍えるストリートを、のそのそとヒグマのようにうろつく。」(残響訳)


    まあ、この1、2ページだけだと、早川文庫のほうは、より即物的に言葉を使ってますね。ただ、それも理由があって、「ロケットの夏」という言葉を鮮烈に出したい!という訳者氏の気持ちはよくわかる!だから情景をごくあっさり書きこむ形にしたのかな、と想像します。「風通しのよくなった」という表現で、「季節がさわやかに変わったんだ!」「人から人へ言葉が伝わってってるんだ!」と鮮烈に文字通りの「空気感」が伝わる。
    あと、訳された時代、「スロープ」「ストリート」は日本語で市民権得てなかったかも。そこんとこ、2017年なうな残響はラクしてますねw

     

    あー、でも、のっけにおいて冬がさらっと流されたんで「速く過ぎた」ってしたけど、この場合は「そんな短い間でもすごく印象深く、一瞬が長く感じるほどの冬だった」って意味なら、「ひととき(の間)は」っていう訳しかたもアリか!じゃあ意訳気味に訂正して「その年のオハイオの冬は厳しく、」トカ

     

    翻訳は、うん、確かにたのしいですねw(ノー皮肉) あと、これ別にfeeさんから頼まれてやってるわけじゃなく、ノー相談なんで、なんとなく自発的にやってる趣味行為デス

     

    (とわいえ、残響の今の翻訳も、早川文庫の「下訳」があって、こうサクっとできてるわけだから、自慢にはならない。むしろ訳者のかたに申し訳ない)

     

    (ただ、自分は抑揚をつけた英語音読をぶつくさしながらでないと、翻訳が出来ない。翻訳しながら電話は無理に近いかも。「他人としゃべりながら翻訳ができる」柴田元幸氏はやはりゴイス)

     

    ちなみに、自分の翻訳英語音読はどんな感じかというと、えろすけの歴代投票一位の4D氏のフォルト!!S感想の一言感想「オ〜ウ、youはぁ〜パンツをぉ、信じマスカ?(英語原文発音その1)…………ならば戦え。このゲームを許してはならない(英語発音その2)」って感じで、ひどく似ている……だから今まで他人に翻訳のこと言わなかったんだ! 「やたら抑揚をつけて音読」→「きちんと意味を含めるようにしっかり落ち着いて音読」をループするもので。

    「太陽の黄金の林檎」お疲れ様会&あとがき

    • 2017.07.21 Friday
    • 21:47

     

    ●対談が終わって

     

    fee「というわけで、『太陽の黄金の林檎』読書会、終わりー!!」

     

    残響「終わりましたね。長かったですねぇ……何回も読書会をやりましたが、結果数万文字。ひとつの短編集をここまで読んだっていうのもそうはないんじゃないかと。【精読】の名を冠してもよかろうみたいな」

     

    fee「まぁなかなかないでしょうけど、自分たちでそう言っちゃうのもなんだかなぁ……で、お疲れ様会をやるって予告に書いちゃったけど、何を話せばいいんだ!?」

     

    残響「うーん……(ノープラン)」

     

    fee「そうそう、残響さんは『太陽の黄金の林檎』という短編集を読んでどう感じました?」

     

    残響「【かわいい】なって思いましたね」

     

    fee「かわいい!?」

     

    残響「いやあの、題材の扱い方が。もっと生真面目なガチ・ハードSFかと思ってたら、すこしふしぎ系(藤子不二夫的ニュアンス)のSFだったというか」

     

    fee「あぁ、なるほど……」

     

    残響「それだけ【いわゆるディストピア小説】というイメージの『華氏451度』の印象が強かったんですよ、ブラッドベリ……読んでみたら全然違った……」

     

    ●ベスト5発表

     

    fee「じゃあ、今回の収録作ベスト5をお互い挙げてみますか……いっせーのせ、で」

     

    残響「わかりました。じゃあいっせーのせ、で」

     

    feeベスト5(順不同):歓迎と別離、霧笛、山のあなたに、サウンドオブサンダー、四月の魔女
    次点:目に見えぬ少年

     

    残響ベスト5(順不同):ごみ屋、歓迎と別離、山のあなたに、草地、霧笛
    次点:太陽の黄金の林檎

     

    fee「なるほど……結構被ってますね。3つ被ってるのか」

     

    残響「そうですね」

     

    fee「『ごみ屋』を選んだんですかw ちょっと渋すぎでしょ!」

     

    残響「職業小説というか、これを読んだ後に自分の仕事を思い返してしみじみ思ったんですよ。あれ、おれってこの仕事結構好きなんだなぁって。そういう気づきがあったんで……。手前味噌ですが、この回は自分でも良い文章(語り)をした気がする」

     

    fee「なるほどなぁ……。じゃあ『対談をやって特に良かった作品』とか。お互いの意見が分かれた作品が幾つかありましたよね? 最たるものが『目に見えぬ少年』」

     

    残響「これ、解釈が真っ二つに分かれましたね」

     

    fee「ここはどちらかの意見を潰すまで激論した方が、見世物的には良かった気もしますがw でもお互い、自分の読みには自信があるでしょ?」

     

    残響「自信があるというか、ぼくはこう受け止めた……は変わらないですからね。変えるつもりがない、っていうことでは全然ないんですけど、初読で【こう読んでしまった自分が居るんだからしょうがあるまい】みたいな」

     


    ●対談を経て評価が変わった作品

     

    fee「僕が、残響さんに面白さを教えてもらった作品は、『草地』でした。一人で読んだ時は意味がわからなかったんですけど、残響さんの解説を聴いていたら、僕が思っていたほど難しい話じゃなくて、理解しやすい話だったんだなって」

     

    残響「あぁ、そう言っていただけると嬉しいですねぇ。自分は理屈読みばっかりで、何かこの短編集の分解魔のように見えてるんじゃないかとw」

     

    fee「逆もありましたね。『鉢の底の果物』とか『夜の出来事』あたり」

     

    残響「うーん。あれは、ね。あれは」

     

    fee「ハプニング大賞は『歩行者』ですね。これ、記事ではしれっと対談してますけど、一度対談した後に、2人共お互い誤読しながら読書会をしていた事が後で判明してw」

     

    残響「警察【者】ならぬ警察【車】ね。二人してサラっと流してたっつう」

     

    fee「だから、もう一度追加対談したり。『四月の魔女』あたりも追加対談が入ってたりしていますけど」

     

    残響「これが裏事情暴露や!w」

     

     

     

    ●あとがき(残響分)

     

    そんなわけで、『太陽と黄金の林檎』読書会、いかがだったでしょうか。改めて自分で読み返してみて、個人的にはなかなか面白い対談になっていると思うのですが。これがスペース星間に響き渡る手前味噌ってやつだぜ。

     

    改めて言うのもなんですが、ぼくとfeeさんとはかなり「読み方」が違う、というのが分かりました。わざわざそれを探っていた、っていうことでもないのですが。二人が同じ本を読んで感想を言い合って、感想の趣旨・立脚点が自然と異なっていたり。あるいは感想を語るにおいて、各々ネタの「引っ張り方」が異なっていたり。

    ネタの「引っ張り方」でいえば、feeさんは「物語そのもの」ときちんと向き合って、外部の情報をわりかし抜きにして語ってる。ネタを物語自身から引っ張る、って印象がありました。

    対して残響は、あっちこっちから「外部の情報」を引っ張ってきて語ってる、っていう自己分析。まあ、残響の場合、んなたいしたもんじゃなく、胡乱なヨタトリビア知識を引っ張ってきてるってだけの話ではありますが。

     

    ただ、このあたり。

    「物語」に耽溺し、物語の中の一員として没頭しきれるfeeさんと、

    「物語」をあくまで「考えるひとつのネタ」として、物語外部から観測して考察する残響。

    これは、今までのエロゲ対談でも、かなり似通っている図式ではないか、と思うのです。

    言い換えれば、一人称型没入と、三人称型観測。主人公プレイと、百合カプ観測と。別にこの小説、そんなにカップリングなかったけど……(百合者は夜のしじまに沈黙する)

     

    どちらが正しい、ということではありません。ただ、ぼくとしては、「違うひとの違う見方」から何かを得てみたい。考えに触れてみたい、という目論見はありました。「読書会」とは言ってますが、この対談ブログの煽り文にもあるように、「バトル漫談」としての異種格闘技感想大会、みたいなフシもありますw

     

    異種格闘技の醍醐味というのは、おそらく「通常の文脈の逸脱」みたいなところにあるのではないでしょうか。難しく言ってますが、ようは「えっ、そんな読み方アリなの?」みたいな。もちろん奇策・飛び道具みたいな、付け焼き刃で驚かせよう、みたいなのは興ざめです。お互いがお互い、自然に読んで率直な意見をぶつけた時にこそ、意外なモノが生まれ出ます。バトル!ノベル!バトル! これこそがナラティヴストラテジー、物語を巡る獅子戦争タクティクスはこれからも続く……(残響の自室は現在エアコンが壊れていて超茹だってます)

     

    この対談をお読みいただいて、

    「おお、じゃあブラッドベリを読んでみようか」「同じ本を読んでみようか」

    「むしろ読んだけど語りたいことがあるんでブログコメント書いてみるか!」

    「おれもあたしも対談ブログやってみようかなぁ」「SF読んでみようかな」

    「読もう」「語ろう」

    「バトル!ノベル!」

    みたいなのが続いていけばいいなぁ、と、かすかに遠く星を見ながらの期待をしています。

     

    もっと多くの「趣味の語り」を!といいますか。

    ノベルバトルはしばらく置くとして、我々の生活には、多くの趣味文化の語りが必要なのです。「議論プロレスが活発になればいい」というよりは「文化としての語りが活発になればいい」みたいな。

    ぼくとfeeさんは、この企画の最初から「何かたのしさが伝わればいいよね」みたいに話していました。押し付けるつもりはさらさらありませんが、「たのしさ」は、次の「たのしさ」に、さらさらと流れる小川のように続いていくのです。ぼくはそう信じています。

    読書とは個人的な営みです。ましてや趣味としての小説読書など。それでも、ひとつの小説を通して、何かネットの片隅に「たのしさ」を置き残すこと。それが誰かにふとした形で伝わること。それをぼんやり夢想しています。

    この感覚は、論理的に確かなものではありません。また、それほど強いものでもありません。遠くの星を見るかのような、そんなものです。ブラッドベリっぽいですね。

    それでも。「たのしさ」は確かに続いていくのです。

     

    てなわけで、次の読書会は、同じくブラッドベリの連作短編『火星年代記』を読みます。

    feeさんはこの小説をブラッドベリのフェイバリットとして挙げておられて。ぼくはその意気にかられて。また、『太陽の黄金の林檎』でブラッドベリいけるんじゃないか、とも思ったので。そういった理由で、『火星年代記』です。

    (ちなみに、残響は『火星年代記』の洋書キンドル版も買ってる。たまに翻訳してみて、ひとつふたつネタを提供できたらいいなぁ的な)

     

    あるいは、きゃんでぃそふと『つよきす』になるかもしれぬ……。

    これは現在、feeさんがプレイしておられるエロゲのひとつで、feeさんになんとはなしに布教されて、残響め「あ、案外イケるかも……」という始末。これまでつよきすを、有名度合いのわりには食わず嫌いというか、避けてきたのですねぼく。「なんかギラギラしてそうで合わないんじゃないか」と。ただ、feeさんのブログ連載「つよきす三部作 やってます」シリーズがこう、味があってね……。文章がね……。で、興味を持って、体験版プレイしたら「あれ? 自分の波長にあってるかも?」と。「普通にたのしいエロゲだ……」

     

    そんなわけで、現在の予定としてはこの2作品です。

    また対談を収録したら、このブログにアップしますので、お楽しみいただけたら、と思います。

    改めまして、読者の皆様も、「ブラッドベリ読書会」にお付き合いいただき、ありがとうございました。

     

     

    残響

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(7)

    • 2017.06.24 Saturday
    • 21:10

    第19作目/全21作(「荒野」は除く)「サウンド・オブ・サンダー」 P209〜236

    残響評価 B+ fee評価 A

     

    fee「タイムトラベルのお話です。恐竜ハンティングをサービスにした、狩猟タイムトラベル株式会社というのがありまして。過去に行って、恐竜を撃てるというサービスなんですが、未来世界に影響を与えてはいけないので、撃っても良い獲物は慎重に選ばれています。歩ける通路も厳密に決まっているんですね。ところが参加者のエッケルスさんが、色々と自分勝手をしまして。通っちゃいけない場所を通って蝶々を踏み殺してしまいます。そして現代に帰ると……」

     

    残響「大統領が変わっているんですよね。P213ではキースというまともな大統領が選挙に勝って良かった、と言っているのに、P235ではドイッチャーというろくでもない大統領が選挙に勝った事になっている」

     

    fee「そうです。このドイッチャーというのはドイッチュラント……ヒトラーを連想させるキャラクターなわけですが、それはさておき。まず、訳がうまいですね。

    P211 4行目『狩猟タイムトラベル株式会社。あらゆる過去への遠征。獲物の名前を言って下さい。そこへ御案内します。あなたは撃つだけです』という宣伝文が、

    P234 8行目『主猟タイムトラベル株式会社。あらゆる過去への延征。絵物の名前を行って下さい。そこへ御安内します。あなたは得つだけです』に変わっている。不安定な現実世界を巧みに描いた作家にフィリップ・K・ディックがいますが、ここの描写はどことなくディックっぽさを感じます」

     

    残響「なるほど。現実が改変、浸食されていく感覚」

     

    fee「外部情報の話をしますと、エッケルスさんが踏んでしまったのは蝶々ですよね。元々バタフライ効果という概念があったんですけど、それを有名にしたのがこの『サウンド・オブ・サンダー』だと言われています。その後、同名の有名な映画も作られましたし、たとえば『Steins;Gate』などにも取り入れられました」

     

    残響「あぁ、そうなんですね。バタフライ効果というのは元々カオス理論*の表現なんですけど、ブラッドベリはネガティブな感じで使っていますよね。あー、やっちゃったーみたいな」

     

    fee「ポジティブな意味でも使えるものなんですか?」

     

    残響「そうですね。現実の可能性が固定されない……【そういう可能性もありうるんだ!】、みたいな。でもブラッドベリは、ネガティブですよね。やはりブラッドベリは、元々あるものを変えたくない、過去を大事にしたい、というタイプの作家なんでしょうね」

     

    fee「ですね」

     

    残響「しかし、カオス理論についてきちんと知っているあたり、あまり科学に興味がなさそうに見えても、ちゃんと調べているんですね。「山のあなたに」の記事でも話したぼくの深読みによれば、ブラッドベリは現代思想にも興味があった事になっていますしw この作品はなんだか凄く、SFって感じがします」

     

    fee「この短編集の中で一番SFしてるんじゃないですか? むしろ他の作品がほとんどSFしていない……」

     

    残響「確かにw」

     

    fee「作品に話を戻しますと、まずエッケルスさんがヤンチャをしてしまったわけですが、冷静に考えるとエッケルスさんが悪いというよりも……」

     

    残響「と、いうよりも……?」

     

    fee「狩猟タイムトラベル株式会社、とかいう会社がいかにもヤバいですよね。だって、エッケルスさん程度の困ったチャンが出てきたぐらいで、このザマですよ? リスクマネージメントどころの話じゃないというかw」

     

    残響「多分、一般上場とかはしていないすっごいマイナーな会社っぽいですよね。有限会社? ヤブというか、闇企業というか。金持ちだけに知られている、知る人ぞ知る、的な。このエッケルスさんにも金持ち特有の傲慢さ、愚鈍さを感じます」

     

    fee「リスクマネージメントが全然できず、システムが暴走して悲惨な状況になるというのは、同じ恐竜繋がりのマイクル・クライトン『ジュラシック・パーク』などと共通している事ではありますが……エッケルスさんみたいな困った客が出てくる事ぐらいは想定していてほしいですね」

     

    fee「ところで、この最後の『雷のような音』というのは、ブチ切れたトラビスさんに、エッケルスさんが撃たれた音ですか?」

     

    残響「そうだと思います。P232 10行目『言っておきますがね、エッケルス、あなたを殺してやりたいくらいですよ』からもわかるように、トラビスさん、相当怒っていますからね……」

     

    fee「後は……そうですね。ブラッドベリにしては珍しく、この作品には映画があります。予告編はこれなんですが……」

     

     

    残響「どれどれ……なんだこれ、ジャングルの中をただ歩いてるだけじゃないですか!w」

     

    fee「うん。なんか、いかにもつっまんなそーな……ブラッドベリ作品の映画化は『華氏451度』がそれなりに成功しているんですが、他はちょっとアレなんですよね。そのアレな話は、次に取り上げる『霧笛』でもお話するんですけれども」

     

    残響「なんだろうw ちなみに『華氏451度』の方は悪くなさそうですね。『サウンドオブサンダー』の映画よりは面白そうだ」

     

     

    fee「良かったら見てくださいな。『サウンド・オブ・サンダー』に関してはこれぐらいかな?」

     

    残響「そうですね」

     

    fee「面白かったし、好きな作品なんですけど、意外と語る事が少ないかなぁ。別に、二人の間で解釈が分かれるとかそういうのもなさそうですし」

     

    残響「素直に面白かったんですけどね。まぁそういう作品もあるってことで、『霧笛』に行きますか」

     

     

     

    *カオス理論……複雑系登場以前の典型的科学的思考は、各要素の煮詰め重視。「〇〇すれば、××になる」式のものでした。ざっくり簡単に言うと、「同じ原因だったら、同じ結果になるよ」というものです。
    ところが、これは局所的な考えにすぎない、というのがカオス的な考え方です。そもそも事象(モノ、出来事)は、単独(一個だけ)の要素だけではなく、様々な要素が複雑に絡み合って成立している。

    そういう自然の実際に対し、「〇〇すれば、××になる」といった考えは、ひとつの要素「のみ」を扱った単純な考えにすぎない。すべての要素が絡み合った事象の全体集合が、この自然世界なのだから、全体(システム論的思考)でもって物事を考えよう、というのが、基本です。
    さて、バタフライエフェクトに関してですが、これはある意味でカオス理論の基本である「初期値鋭敏性」にも関わってきて。

    蝶の羽ばたくか、羽ばたかないかなど、些細なものです。でも、カオス理論ではこの初期の小さい挙動のズレこそが、その後の全体(システム)に決定的な差異をもたらす、っていうこと。風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな。
    しかし、こうしていくと、「えー、そしたらもう何も考えられんじゃないか、複雑すぎて!」となりますね。いや、そうではない。ここで提言されてるのは、要素一個のみをただ煮詰めて「〇〇すれば、××になるよ」ですべて事足れり、とする単純さでは、解決出来ないモデルが現実には山とある、っていうことで。

    「システムという全体概念を重視せよ、無視するな」……個別の要素だけでなく、総合的な、矛盾も孕んだ全体をきちんと考えよ、というっていうこと。これがカオスの意味(の初歩)なのではないのかなぁ、と思うわけです。西洋的というよりは、東洋的、八卦的ともいえるのかも。(残響)

     

     

     

    第20作目/全21作(「荒野」は除く)「霧笛」 P9〜26

    残響評価 A fee評価 A

     

     

    fee「いよいよビッグネームの登場です。マックダンさんという灯台守と、語り手のジョニー、2人がいる灯台に、灯台の音を仲間の恐竜の声だと勘違いした恐竜が、やってきます。で、まぁ勘違いだとわかって帰っていくという……」

     

    残響「プロットだけ取り出すと身も蓋もないな……でも、すごくいいお話だと思います」

     

    fee「表現がとにかく綺麗なんですよね。P18の7行目『その叫びは水と霧の数億年を越えてやってきた。ぼくの頭と体がふるえ出したほど、孤独で、悩ましげな叫びである(中略)孤独な、深い、遠い音。孤立の音、視界をとざされた海の音、冷たい夜の音、別離の音』とか、P19の3行目『この世界は、あいつに向いていない。この世界じゃ、あいつは隠れていなきゃならない(中略)かすかだが聞きおぼえのある音を聞くと、あいつの腹の中の炉が熱くなる。あいつはすこしずつ、すこしずつ上昇を開始する』などなど。P24の16行目、『奴もいい勉強をしたものさ。この世界じゃ、どんな相手でも、あんまりふかく愛しちゃいかんということをな。海の底の底へ帰って、奴はまた百万年ほど待つだろう』というのも。全文引用してもいいくらい」

     

    残響「そうですね。本当に美文だと思います。ときに、ぼくは短編集を順番どおりに読んだので、最初にこの作品を読みました。ブラッドベリ自体初めてなので、これが初ブラッドベリ作品になったんですが、『やるなぁ』『いいなぁ』と思いました。深く響くというか……詩的ですよね。これなら最後まで投げ出さずに、まぁいけるかな? と思ったんです。feeさんはブラッドベリの文章(文体・語り口・地の文)についてはどう思いますか?」

     

    fee「巧いなぁ、と思います。残響さんの仰ったとおり、詩的な良い文章で。ただ、たまにやや過剰に思える事もあって。短編の長さならいいんですけど、長編だとちょっと冗長さに焦れてしまう事もあります」

     

    残響「なるほど……。この辺り難しいですね。詩的な文章ゆえに、逆に読者をぐいぐいっと強引に持っていくドライヴ感が欠落……もたついてる? と批評は出来ますが。このあたり『あちらを立てればこちらが立たず』というか。さて、『霧笛』に話を戻しますと、ぼくはマックダンさんというキャラも好きですね。良い感じに老成しているというか、渋いというか。少年のジョニーと比較して……」

     

    fee「いやいや、ちょっと待って。ジョニーは少年じゃないですよ。P24の5行目に『小さな田舎町で職場と妻を得て身をかため』ってありますし」

     

    残響「あっ、ほんとだ(やべえ)」

     

    fee「マックダンさんの方が年上ではあるんでしょうけどね。5歳か、10歳か、それぐらいは。というか、ジョニーって何者なんでしたっけ? 同僚? ただ遊びに来ただけ?」

     

    残響「さぁ……どうだったかな……?」

     

    fee「まぁ、それはいいか。海の底から恐竜がやってくるというのはロマンですよね。悠久の時を海の底で待ち続けた恐竜の耳に、灯台の音が遠くから聞こえてくる。ひょっとしたら仲間がいるんじゃないか。そう思い、水圧の問題もありますので、これまた長い時間をかけてゆっくりゆっくり恐竜が海の底から上がっていき……。そして、仲間の姿は見えず、消沈して帰っていく……。恐竜に感情移入してしまうと、すごくしんみりとしてしまいますね。ところで」

     

    残響「あ、なんでしょう?」

     

    fee「この作品は、ある有名な怪獣の元ネタにもなっているんですが、なんだかわかりますか?」

     

    残響「えっ……なんだろ……」

     

    fee「ガッディーラです(石原さとみ風)!」

     

    残響「がっでぃーら?(意味不明)」

     

    fee「……ゴジラです(しょんぼり)」

     

    残響「あ!あ、そうか(やべえ) え、ゴジラって、あのゴジラですか?」

     

    fee「はい、『サウンド・オブ・サンダー』と同じく、この『霧笛』も映画になったんですが……それがこちらの『原子怪獣現わる』という作品でして」

     

     

     

    残響「うわっ、なんじゃこりゃw 全然『霧笛』じゃない! そして確かにそこはかとなく初代『ゴジラ』っぽい。一応灯台は壊してますけど……ブラッドベリは単に客寄せに使われただけなんじゃw」

     

    fee「多分そうですw 『霧笛』とは別物の怪獣パニック映画なんですけど、これに影響を受けて『初代ゴジラ』が生まれたので、乱暴に言っちゃえば、ブラッドベリはゴジラの産みの親と言えるのではないかとw」

     

    残響「すごいな……これは全く知りませんでした……」

     

    fee「それとは別に、日本のアマチュアの人がupしている『霧笛』の動画があるんですが、こちらも良かったら見てください」

     

    (この動画はブログ埋め込みが出来なかったので、リンクから見てください)

     

    残響「あっ、これ、なかなかいいですね。こちらの方がずっと、ブラッドベリっぽい……」

     

    fee「ですよね。ブラッドベリの良さをちゃんと捉えている、良い動画だと思います。『原子怪獣現わる』とかよりもよっぽどw」

     

     

    第21作目/21作(「荒野」は除く)「歓迎と別離」 P371〜386

    残響評価 S fee評価 S

     

    fee「いよいよ最後の作品になりました。『歓迎と別離』。あらすじは、不老不死……不死じゃないのかな?」

     

    残響「不死についてはわかりませんね。不老は間違いないです」

     

    fee「はい。不老の少年、ウィリーが主人公です。彼は本当は43歳なんですが、見た目が12歳のまま成長しないんですね。なので、何年か暮らすと、周囲の人に怪しまれてしまい、街を離れないといけません。何年か暮らしては街を離れ、何年か暮らしては街を離れ……そういう暮らしをずっとしてきたわけです」

     

    残響「まさに『歓迎と別離』ですよね。ひとつ所に留まれない、別れを繰り返す物語」

     

    fee「この作品は、僕が考えるブラッドベリらしさが凝縮されているような作品です。寂しさ、優しさ、暖かさ、切なさ、郷愁……」

     

    残響「そうですねぇ。寂しいお話でもあるし、優しいお話でもある……」

     

    fee「邪悪な人間は出てこないんですよね。むしろ暖かい人たちが多い」

     

    残響「皆、ウィリーをわかろうと努力するんだけど、わかってあげられない。ウィリー自身もそれをわかっている。冒頭の一文『でも、もちろん、行かねばならない。ほかにはどうしようもない』からもそれがうかがえます」

     

    fee「ウィリーの周囲は暖かい。けれど、別れは必ずやってくる。別れを繰り返して生きていかざるを得ない」

     

    残響「さよならだけが人生だ(井伏鱒二)、じゃないですけど、そんな感じですね」

     

    fee「つまらない事を言うと、実際には43歳だとしても、外見が12歳なら、12歳として人から見られる。そして、12歳として生きていくんだなぁというのは思いました」

     

    残響「ウィリーの屈託も描かれていますよね。『成長しない自分』として、成長していかなければならない、というような。P382の11行目『「あなたは淋しくなることはないの。おとなのすることを――いろんなことを、したくならない?」「それはずいぶん、苦しみました」と、ウィリーは言った。「ぼくは自分に言いきかせたんです。ぼくは子供なんだ、ぼくは子供の世界に住まなきゃいけない。子供の本を読み、子供の遊びを遊び、ほかのことからは自分を切り離さなきゃいけない。つまり、ぼくはたった一つのもの――若さ、であればいいんです」』

     

    fee「ふむ……」

     

    残響「イノセンスの喪失、というものがアメリカ文学の一つの伝統だとぼくは思っているんですが、ウィリーの存在自体がイノセンスの塊ですよね」

     

    fee「イノセンスの喪失、というのは?」

     

    残響「無垢なるもの。子供が大人に成長するにつれ、失われていくもの。近代以降の欧州の物語類型(「小説=ノベル」)では、それをポジティブに成長物語(いわゆるビルディングス・ロマン)とする例が多いように思うんですが、アメリカ文学ではむしろ成長と引き換えに失われていくもの、見失ってしまうもの。そちらに目を向けるケースが多くて。そこに、もう一つのアメリカ文化表現……アメリカ映画の伝統でもある、ロードムービー。旅物語、ですか。その要素もこの作品には含まれている」

     

    fee「ロードムービーはアメリカに多いんですか?」

     

    残響「多い、とは言われていますね。ある種の典型。『イージー・ライダー』とか。まあ、少なくとも、アメリカ文化の作品に多くみられる形式だと思います。何しろあの村上春樹(小説家としてだけでなく、アメリカ現代文学の翻訳者でもある)が大学時代、卒論で書いたテーマが『アメリカ映画における旅の系譜』だったりしますから」

     

    fee「なるほどなぁ……」

     

    残響「イノセンスの喪失だと、たとえば『ピーター・パン』とか『ハックルベリー・フィン』とか。あるいは『ライ麦畑でつかまえて』とか」

     

    fee「あぁ……ハックか。確かに、このウィリーは、ハックルベリーフィンの感覚に似てるかもしれない」

     

    残響「はい。そういった作品のオマージュのようにも思えるんですよね。意識してか、無意識にかはわかりませんが、ブラッドベリが今まで読んできた作品群からの影響というか。feeさんもこの作品にSランクをつけていますけど、feeさんはどうお感じになりましたか?」

     

    fee「いや……なんか、残響さんが素晴らしい感想を言ってくれたので、僕からはもうあまり……」

     

    残響「いやいやw」

     

    fee「いや、ほんとそうですよ。僕から言えるのはそうですね、最初にも言いましたけど、胸が締め付けられる、優しくて美しい物語だということ。この短編集には、他にもブラッドベリらしい作品、寂しさを感じる作品はありますけど、イメージの美しさ、鮮烈さではこの作品と『霧笛』の二作が最高峰かなと思います」

     

    残響「ただあれですね。この作品は、長編だと書けないですよね。もたない、というか」

     

    fee「そうでしょうね。なのでブラッドベリは基本、短編の人なんですよ。もちろん長編にも良い作品はありますけど、短編の方に見るべき作品が多い……」

     

    残響「ふむふむ(ブラッドベリ初心者的首肯)」

     

    fee「イノセンス、という意味では、『10月はたそがれの国』に入っている『みずうみ』と双璧かなぁ。こちらも是非読んでほしいんですが……というか、『歓迎と別離』が好きなら、ブラッドベリをどんどん読んでくださいよw」

     

    残響「とりあえず『火星年代記』は読む予定なのでw しかし、長かった『太陽の黄金の林檎』21作品レビュー、とうとう終わりましたね」

     

    fee「そうですね、楽しかったです」

     

    残響「こちらこそ。最後に、何かいい締めの言葉はないかな……ブラッドベリの引用とか……」

     

    fee「『世界は自己の表象であり、世界の本質は生きんとする盲目の意志である』」

     

    残響「と、突然なんですかww」

     

    fee「え、いや、締めの言葉を探してるっていうからw」

     

    残響「唐突すぎますよw なんなんだ……ホントになんなんだw というかいいのかいなコレ(saphireさん御健在なのかしら……)」

     


    次回へ続く……(『太陽の黄金の林檎』読書会 総まとめ&お疲れ様会)

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(6)

    • 2017.06.08 Thursday
    • 16:15

    第17/全21作(「荒野」は除く)「山のあなたに」 P237〜262

    残響評価 A fee評価 A+

     

    fee「コーラさんというおばさんが山奥に住んでいます。夫のトムと、隣近所のブラバムさんぐらいしかいない、人里離れた田舎です。そこに、甥のベンジーが夏休みの間だけ訪ねてくるんですね。コーラさんは文字が読めません。隣のブラバムさんの家には手紙が結構届いてるんですが、コーラの家には届かないので孤独です。そこで、文字の読めるベンジーがいる間、コーラさんは通販のカタログとか通信講座の資料とか、その他なんでも思いつく限りの手紙を書いて、手紙を受け取るんですね。そうして誰かと繋がって、孤独を癒す。ラストはベンジーが家に帰ってしまい、文字の読めないコーラは再び孤独に取り残される、そんな話です」

     

    残響「……時代性なのかなぁ。識字率が低い故の悲劇というか……」

     

    fee「いくら孤独だからって、迷惑メールを大量にもらって喜んでるというのも寂しい話だなぁと思ってしまうんですが」

     

    残響「あ、やっぱり迷惑メールを思い浮かべました?」

     

    fee「うん。あるいはスーパーのチラシとか。いくら寂しくても、それじゃ気は紛れないでしょ」

     

    残響「まぁねぇ。でも、それでも一応そのメールの向こうには『人間』がいる、ということなのでしょうか」

     

    fee「今ならインターネットがありますからね。それこそTwitter、SNS、2ちゃんですよ」

     

    残響「うーんw (ささやかに感じ取る地獄テイスト)」

     

    fee「一応隣にブラバムさんという人が住んでいるのに、孤独は癒されないんですねぇ。仲良くできれば一番いいのに」

     

    残響「それは……無理なんでしょうね。なんつうか、同族嫌悪?」

     

    fee「世界中で人類が2人だけになっても、仲良くなれない……『火星年代記』にもそんな話があったな」

     

    残響「このブラバムさんという人も相当病んでますよね(完全にお前が言うな案件)」

     

    fee「僕、ちょっとこの人は意味がわからないですね。この人も孤独なわけでしょ? で、手紙を自分の郵便ポストに入れて、これ見よがしにコーラさんに見せる。『私はこんなに郵便が来るのよ』って……寂しい者同士で何やってんだろ、って思う。何が楽しいのかなぁ?」

     

    残響「でもこういう人、いますよ……ぼくのリアル知人にもいるな……」

     

    fee「現代ならあれですね。Twitterのフォロワー競争で『私、フォロワーが1000人もいるのよ?』的な……」

     

    残響「ブラバムさんは、クソリプ製造機なイメージw」

     

    fee「絶対に相互フォローします、みたいなアカウントを片っ端からフォローして、フォロワー人数1000人を誇る感じじゃないですか? コーラはbotに話しかけまくって、リプをもらっちゃ喜んでそうだし」

     

    残響「酷い……インターネッツ地獄界隈や……」

     

    fee「まぁ、何がしたいんだか僕にはさっぱりわかりませんわ……わかりたいとも思わないけど。ブラバムさんはいいとして、コーラに話を戻しますが、やはり今のアメリカなら田舎でも識字率は高いんですか?」

     

    残響「多分高いと思いますよ、今なら。流石に。コーラの悲劇は学校教育を受けられなかった弊害、的なものも……」

     

    fee「でもこれ、通信講座が出てくるじゃないですか。P256の9行目、『当通信教育学院独特の衛生技師資格通信講座申込書一部をお送り申し上げます』。あの、現代で言うアイキャンみたいな……」

     

    残響「ユーキャン?」

     

    fee「そうそうw ユーキャンの講座。ユーキャンなら……あった、『日本語の常識』講座。ね、こういうのを使って英語を覚えれば良かったんですよ」

     

    残響「29000円か……微妙な値段だ……。コーラに払えるのかなぁ」

     

    fee「コーラ、たぶん専業主婦ですからねぇ。旦那のトムが払ってくれれば……」

     

    残響「『女に教育はいらん!』とか昭和時代の劇画調で言って、そのお金で安酒買いに行きそう……」

     

    fee「酷い……。こんな田舎じゃ、バイト先もなさそうだしなぁ。後ね、コーラはなんでどうでもいい資料請求とかばかりしてるんでしょ? 文通相手とかを作れば良かったのに。現代のSNSもそうですが、少なくとも、入りもしない講座の資料を請求するよりはメル友でも作った方が遥かに良いような」

     

    残響「まあ確かに」

     

    fee「とにかく、コーラは文字を覚えれば良かったんですよ。通信講座が無理なら、ベンジーが家にいてくれる間に、少しでも習うべきでした。別に難しい構文とか要らなくて、簡単な単語だけで良いじゃないですか。それで、文通でも始めればまだ世界は変わったかもしれないのに……」

     

    残響「コーラにとって、文字(テキスト)の世界=知の世界、はあくまでも憧れの世界であって、自分が属する世界ではなかったのかもしれませんね」

     

    fee「P259の16行目『でもね、ベンジー、わたし結局、文字をおぼえなかった。手紙を出すことばかりに夢中で(中略)、文字をおぼえるひまがなかった……』。コーラは、きっと文字を覚えたい気持ちはあったんでしょうね。でも、やっぱり難易度が高かった」

     

    残響「この小説の原題は『The great wide world over there』。直訳すると『ここからの広く、広大な世界』でしょうか。コーラの世界は、閉じられた、狭く、文字のない世界。そして山のあなたに広がるのは、人が多く、広大で、(文字のある)知的な世界」

     

    fee「コーラが人生を変えるには、1.『文字を覚える事』 2.『引っ越しをする事』 3.『ベンジーが救世主になってくれる事』。この3つのうちどれかを成し遂げない事には……」

     

    残響「経済的な問題、場所的な問題、能力的な問題、色々と制約があって……」

     

    fee「そういうのもあるでしょうけど、結局、一番の問題はコーラが自分の枠を壊せなかった事なのかなぁと。人間、何歳になっても新しい挑戦をして良いと思うんですが、コーラには今までの55年の人生を変えるのは難しかった……」

     

    残響「P261 10行目『とうとう、ある日のこと、郵便箱が風に倒された。それでも朝が来るたびに、コーラは小屋の戸口に立ち、白髪を撫でつけながら、黙って山を眺めるのだった。年は過ぎていき、それでもコーラは、倒れた郵便箱のそばを通るとき、きまって意味もなく箱に手をつっこみ、そしてむなしく手をひっこめ、それから野原へさまよい出るのだった』」

     

    fee「泣ける……」

     

    残響「この、『野原』へさまよい出るというのも象徴的な感じがしますね。知の世界から背を向けて、文字のない自然の世界をさまようという」

     

    fee「なるほど……」

     

    残響「古代ギリシャの哲学者プラトンの使った言葉で、『コーラ』という哲学用語があるんです。これは『(母なる)場所』のことを表すんですが……ブラッドベリはその辺を意識して書いたのかもしれませんね。デリダとかと同時代だったはず。まあ、(ブラッドベリが現代思想にどれだけ親近性を持っていたかは疑問ですが)。だとするなら、コーラは『山のあなた』にはたどり着けない……彼女・コーラの割り当てはこの、文字のない自然界なのですから *1」

     

    fee「深いなぁ。僕はその方向から深めることはちょっとできないので、どうでもいい話をしますと、P255 11行目の『あの、申しわけありませんけど、もし御面倒でなかったら、すみませんが……郵便箱に入れていただけません?』というところが面白かったです。手紙を直接渡されるんじゃなく、ちゃんと郵便箱から取り出したいですねw 形から入るというか。このコーラさんの面白いところは、P261の8行目『むこうでもわたしたちの手紙を待っているのに、わたしたちは書けないで、むこうもだから返事を書けないのね!』」この辺りも、コーラさんの無邪気さが炸裂しているというかw」

     

    残響「ですねw しかしこれ、文字が読めたら別の絶望が生まれかねないような。あと、ちょっと思ったんですけど。トムってなんなんですかね? 一応旦那さんのはずなのに存在感がまるでないというか……トムがコーラと仲睦まじくできれば、それだけでだいぶ癒しになる気がするんですけど。トムはこの状況、どう思ってるんだろう。何も感じてないようにも見える……」

     

    fee「ひょっとしたらトムは山の向こうで仕事をしているのかもしれませんよ。だから、仕事の時間は人とのふれあいがあって、知の世界にもある程度接しているのかも。ずっと家にいるコーラとはその辺で差があるのかも」

     

    残響「なるほど。あと、ベンジーという甥がいるんですから、コーラには子供がいるはずですよね」

     

    fee「言われてみればそうですね。子供を頼って引っ越すわけにはいかないんでしょうか。……せっかく子供を作っても、子供は親を見捨てていくんですよ……邪魔者扱いされたりしてね、しょうがないね……。でもベンジーは本当にいい子ですよ。おばさん孝行をすごくしているし、P259 14行目 コーラ『いい夏だったわ』に対して、『ほんとだね』と答えてくれてるんですよ」

     

    残響「清涼剤ですなぁ。まぁでもそのうち来なくなっちゃうんじゃないですか? もう少し大きくなったら……だいたいそんなもんですし。都会のチルドレンは」

     

    fee「確かに、コーラのところに来ても特に楽しくないだろうし……」

     

    残響「暗いなぁ……」

     

    fee「この話、めっちゃ鬱ですからね。大体、他人事みたいに言ってますけど、残響さんって結構山奥に住んでいらっしゃるんでしょ? もしインターネットがなかったら、どうですか? おまけに文字も読めなかったりしたら」

     

    残響「うっ……それは、ヤバい……地獄とはシマーネ農業王国のことでありけり……」

     

    fee「残響さんが、コーラの立場になっちゃいますよ。ブラバムさんみたいな人もいるみたいだし」

     

    残響「これはよしましょうw この話はあまり深めない方がいい気がする……」

     

    fee「わかりましたw やめましょう」

     

    残響「しかし随分喋りましたね。この作品、今までので一番長く喋ったんじゃないですか?」

     

    fee「一番最初、まだ読書会に慣れていなかった頃にやった『二度と見えない』あたりも長かった気がしますが、慣れてきてからに限定するなら多分これが一番長いですね」

     

    残響「やはり、色々言いたくなる作品だったということで、良かったです」

     

    *1……このあたり、フランス現代思想の哲学者、ジャック・デリダの『プラトンのパルマケイアー』の説明のニワカ仕込みの孫引きをしております残響さん。あと同じくフランス現代思想のジュリア・クリステヴァとかのも。学生時代、そのあたりの本をボンヤリ読んでたので……。詳しくはこちらリンクとか

    http://db.10plus1.jp/backnumber/article/articleid/1018/

     

     

    第18作目/全21作(「荒野」は除く)「目に見えぬ少年」 P103〜124

    残響評価 B fee評価 A+

     

    残響「魔女と、いたいけな少年のお話ですね」

     

    fee「かわいそうなおばあさんと、魔性の少年の話じゃないんですか?」

     

    残響「えっ!?」

     

    fee「えっ!?」

     

    残響「相変わらず、なんだこの違いはww」

     

    fee「ちょ、ちょっと順を追っていきましょうか。おばあさんのところに少年がいますよね。

    このおばあさんは、魔女の振りをしています。構ってちゃんなので、少年と遊びたくて仕方ないんですね。でも少年は、バーチャンと遊んでもつまらないので帰りたがる。そこでおばあさんが嘘をついて、『透明人間になる魔法をかけた。このままじゃ家に帰れないよ』と脅す。まぁほんとはそんな魔法はかかっていないので、おばあさんは少年の姿が見えない振りをするんですね。で、少年はいい気になってアカンベーしたり、勝手におばあさんのベーコンを食べたり。この辺の、哀愁漂うユーモラスなやりとりが面白いなぁと思うんですが……」

     

    残響「うん、はい。異論はないです」

     

    fee「で、最後におばあさんが根負けして、とうとう魔法が解けたと宣言します。少年は意気揚々とおうちに帰ります。寂しいおばあさんを一人残して……」

     

    残響「いやいや、ちょっと待ってください! P123の3行目に『今度こそほんとうに見えなくなったチャーリーは老婆のあとをついて来た』とありますよ。どうしてかはわかりませんが、『透明人間になる魔法』が最後、本当に少年にかかっちゃったんですよ」

     

    fee「うーん、そうかなぁ?? とりあえずそこの話をする前に、最後の8行目まで……つまり、作品の始まりから、P123、2行目の『老婆はぐったりと疲れて』までの展開についてはお互い意見は同じなんですよね?」

     

    残響「はい、そうだと思います。問題になっているのは最後の8行、ラストパラグラフです。『今度こそほんとうに見えなくなった』とあるんで……」

     

    fee「残響さんは、『透明人間になる魔法』が少年にかかった、と。僕はこれ、少年は普通に家に帰ったんだと思います。最後のこれは、おばあさんの妄想ですよ」

     

    残響「妄想ですか!!」

     

    fee「うん。このおばあさんは、寂しさのあまり少年に構ってチャンしてたわけで、それにも関わらず少年が帰ってしまった。そこでおばあさんは、目に見えない少年が戻ってきた、という妄想にふけってしまったんですね。P123の6行目『今度は奪われる心配もなく老婆はベーコンをたべ、それから何かの呪(まじな)いをして、棒きれやボロや小石で作ったチャーリーを抱き、ほんもののあたたかい息子のように子守唄をきかせ、しずかにゆすり、二人はいっしょに眠った……眠い声で何かキラキラ輝くもののことを語り合い……やがて夜明けがちかづき、焚火はすこしずつすこしずつ、消えて……』」

     

    残響「美文ですなぁ……味わい深い文章だ」

     

    fee「うん、素敵な文章だと思います。けど……本当に目に見えないチャーリーがここにいるなら、こんなに大人しくしてますか? ベーコン奪って、あかんべーするようなチャーリーですよ? これはおばあさんが、自分の寂しさを慰めるために妄想した、理想のチャーリーだと思います」

     

    残響「うーん……そう言われてしまうと、確かにそうも読めるから困る……。でも、ぼくはfeeさんと違って、このおばあさんは本当に魔女なんだと思います。冒頭から『カエルの干物をすりつぶして』いますし。なんちゃってコスプレ魔女がここまでやりますかね?」

     

    fee「ただ、冒頭から既にチャーリーは来ていますからね。チャーリーのいないところでは普通のおばあさんなのかもしれませんよ? でもまぁそう考えていくと決め手に欠けるというか、どっちにも読めますよね」

     

    残響「そうですね。どちらにも読めるように、解釈の余地を残しているというか」

     

    fee「これに関しては、僕は自説『おばあさんの妄想エンド』に自信を持ってはいますが……ただ、この読書会の趣旨は、自説の正当性を主張して相手の読みを叩き潰すところにはないんです。むしろ、そういう読み方もあるのか、と幅を広げていくような方向性でありたい」

     

    残響「そうですねぇ。読書は……小説は、自由だ!(ガンダムビルドファイターズ風) しかし、ここまで読み方が違うとは、本当に面白いですね」

     

    fee「うん、面白い。この作品を読んだ人は、僕と残響さん、*どっちの読み方で読んだ人が多いんだろう。アンケートとか取りたいですよね。多数派が優れているとかそういうんじゃなく、純粋にどうなのかな、と」

     

    *あるいは、更に別の(fee)

     

     

    残響「気になりますよね」

     

    fee「僕の見方だと、この作品は『山のあなたに』に似てるんですよ。寂しがり屋のコーラ=魔女で、コミュニケーションの断絶のお話。結構かわいそうなお話だと思ってるんです。おばあさんはこんなにもチャーリーを思っているのに」

     

    残響「ふーむ。ブラッドベリは結構印象的なおばあさんキャラを出しますよね。『大火事』でもおばあさんが活躍しましたし。あと、ぼく、結構おばあちゃんっ子だったんですよ。それも読み方に関係しているのかもしれません。ぼく、この作品は好きですね」

     

    fee「僕もこの作品は好きです。でも残響さんが好きなのは、最後に少年が透明人間になっちゃう『目に見えぬ少年』で、僕が好きなのは、少年が家に帰って、おばあさんが妄想で自分を慰める『目に見えぬ少年』でしょ?」

     

    残響「ですねww」

     

    fee「確固とした正解はなくて、お互いどちらも自分にとって好きな結末を選んでいるだけなのかもしれません。残響さんは怪奇幻想色の強い結末が好きで、僕は寂しい結末が好き、みたいなw でも、読書なんてそれでいいんだと思うんですよ」

     

    残響「それは本当にそうですね。この作品でも、自分では気づかなかった別の読み方を、お互い知ることができました。ブラッドベリという作家自身、ひとつの確定的真実の押しつけではなく、複数の解釈ができるように作品を作っているのもいいなと思いますし、読書会にピッタリな作品だったのかも」

     

    fee「ですね」

     

    第7回に続く……(「サウンド・オブ・サンダー」「霧笛」「歓迎と別離」)

     

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(5)

    • 2017.06.05 Monday
    • 21:17

    第14作目/全21作(「荒野」は除く) 「発電所」 P263〜282
    残響評価 A-   fee評価 B−

     

    fee「いつもは僕があらすじを言うんですが……僕この話、ちょっとよくわからなかったんですよね……」

     

    残響「これ、いい話なんですよ。えと、登場人物は一組の夫婦で旅をしてるんですが、奥さんの方がちょっと人生に疲れちゃったんですね。先行きも不安で、なんか心細い。で、休憩で発電所に立ち寄るんですが……そこで不思議な出来事が起こって電波みたいなのを受信する、と。その電波に癒されて『私は一人じゃないんだ』という穏やかな気持ちになります。同時に、隣にいた夫の事もより深く理解できるようになる。夫も同じように『自分は一人じゃないんだ』といつも思っていたからこそ、常にどっしりと構えていられたんだ、と奥さんは理解する。そして、『これからは時折、発電所に来ましょうね』と奥さんが言って、夫も同意する。そんなお話ですね」

     

    fee「そんな話だったのか……」

     

    残響「文中で、最初のほう、キリスト教的な単語が出てきます(「教会」「聖書」「牧師」)。それを考えると、元々、一神教的なキリスト教(God)の教えが、奥さんにとってはあまり馴染まないものだったのかな、と。しかし奥さんにとっては、後半で示唆される、【神(Spirits)は遍在する、どこにでもいる】という、アニミズム的な宗教観が肌に合っていたのではないでしょうか。発電所の電波から福音(? あるいは霊感?)を受けたというか、そうした気づきを得たというか。だから *1いい話だなぁと思うんですけど……feeさんはどんな話だと思いましたか?」

     

    fee「えーと、僕はこれはエロゲの『雫』みたいな話かなって。あの、『雫』未プレイなんで適当な事を言ってるんですけど、毒電波みたいなのを受信した話かなって」

     

    残響「『雫』!w なんてこったい、凄いところ来ましたねw」

     

    fee「電波を受信した後、奥さんが謎の音楽をハミングするじゃないですか。このハミングを聴いてしまった人が、またハミングをする。ハミングの連鎖が起こって、世界中が発電所の毒電波に洗脳される。そんな感じのホラーかなと思って読んだんですけど」

     

    残響「『巫女みこナース』でも流してるんですかねww 頭痛生理痛(略」

     

    fee「しかも奥さんは、また発電所に行きたがっている。末期の電波中毒ですね。そのうちご近所誘って発電所に行くようになります。そして新興宗教、電波教の誕生……」

     

    残響「なんかラヴクラフトっぽいな……この電波を、善きものとして読むか、禍々しいものとして読むかは読者によって変わってくるのかな。しかしまあ、確かに電波、そして物語の描写、確かに禍々しい感じもするな……」

     

    fee「この作品を読んだ読者の方にアンケートをとって聞いてみたいですね。善きものとして読んだのか、禍々しいものとして読んだのか。それにしてもこの話、難しかったです」

     

    残響「何が書かれているのか、ざっと読んだだけじゃ掴み切れないですね。もっとも『草地』の方が難しかったかなと思いますけど」

     

    fee「あぁ『草地』か……次はじゃあその『草地』で行きますか」

     

    残響「了解です」

     

     

    (注1)……残響がこのように発言しているのは、昔読んだ和風伝奇/クトゥルー神話趣味漫画、八房龍之助『宵闇眩燈草紙』(やつふさたつのすけ・よいやみげんとうぞうし)の影響が濃い。漫画後半、アメリカを舞台にした「シホイガン編」にて、作中でこんな問答がある。

     

     

    「そんな事はあり得んッ 正しき信仰を胸に日々悔い改め続けた正しき我ら神の子に正しき神が正しき救いの正しき恵みを正しく与えたもうに正しく違いない!!」

     

    「神父よ、おそらく貴様等と我々では『神』の概念が違う。神とは比類なき何がしかのベクトルを持って突出したエントロピーの代名詞に過ぎん。水、風、大地、獣、路傍に転がる石コロに致るまでそれは神たりうる。神とは崇め奉り何とかして欲しいと救いを求められるモノじゃない。神とは畏れ、伏しどうか何もしてくれるなと宥め賺すモノだ。あの日、騎兵隊の虐殺戦の前夜、族長 ロッキング・ボアから俺が言いつかったのはただ一言。『あるがままなり』」

     

    「野卑な原始宗教の言いそうな……」

     

    (残響)

     

     

     

     

    第15作目/全21作(「荒野」は除く)「草地」 P313〜342

    残響評価 A fee評価 C+→読書会を経てB 

     

    残響「あらすじです。映画の撮影現場で働く夜警のおじいさん、スミスさんが主人公です。映画のセットが取り壊される事になるんですが、スミスさんはどうにか壊させまいとするんですね。そこで出てくるお偉いプロデューサーのダグラスさん。彼がオカシなスミスさんを説得しようとするんですが、しかし最後、ダグラスさんはスミスさんに逆に説得され、映画のセットは守られる。そんなお話になっています」

     

    fee「これ、最初に読んだ時は難しい話だなぁと思ったんです。でも、こうして聞くと結構単純な話だったんですね」

     

    残響「映画のセットの描写がやけに細かいんですよね。固有名詞(世界各国の建築物名)もバンバン出てくるし」

     

    fee「そう。ニューヨークの聖パトリック教会とか、ロストフのギリシャ正教の教会とか、オシュコシュとかスワッソンとか、色々言われても全然イメージできなくて。ダルいなぁ、難しいなぁと思って読んでたんですけど……何てことはない、世界中のあらゆる場所が映画のセットになっていたんだな、って考えればそれでいいんですね」

     

    残響「難しいと言えば、ぼくはスミスさんの行動原理がよくわからなかったんですが。なんでこんな撮影セットにこだわるんだろうって」

     

    fee「そこはほら、ブラッドベリは大体昔のものをそのまま残そう、みたいな人だから」

     

    残響「うーん……それにしてはクレイジーな……」

     

    fee「ジオラマみたいなものでしょ? そりゃ大半の人から見たらどうでもいいものかもしれないけど、スミスさんにとってはめちゃくちゃ愛着があるんですよ」

     

    残響「あぁ、そう見るのか。それならわかりますよ。ぼくもスミスさん側だ。どれだけ手間暇かけてジオラマを作ったと思ってるんだ!ってなりますよ *2」

     

    fee「まぁ、この撮影セットを作ったのはスミスさんではないですけどねw ただ、P320 7行目『三十年間、わしはこの土地が育って、こんな世界になるのを、見守ってきた。この土地といっしょに生きてきたんだ。楽しいくらしだったよ』って言ってるぐらいですし、30年間働いてきた職場なわけでしょ。そりゃ愛着も湧きますって。土地開発とかと同じですよ。昔ながらの商店街を壊して、新しいショッピングモールを建てようって言ったら、嫌がる人は絶対いるでしょ。土地の所有者ではないのに嫌がって反対運動をするのは、道理としてはおかしいし、皆がそんなワガママを言っていたら何も進みませんけど……しかし、気持ちとしては大いにわかりますね」

     

    残響「なるほどなぁ……確かにわかる。そもそも、スミスさんが抱く、虚構(撮影セット)への思い入れみたいな、そういう虚構が生み出す何かしらの『感情』が映画産業そのものを支えているとも言えますし。『虚構&感情』がなければ、映画という『創作』はそもそも成り立ちえない。そういう意味で、『虚構』を壊したくない、残したい、という気持ちもスミスさんは持っているのかもしれませんね」

     

    fee「言われてみれば確かに、あるでしょうね……。僕はそこまで深くは読めていませんでしたけど、納得です。『火星年代記』にもそんな話がありました……」

     

    残響「原型みたいなものなのかな。アイディアの再利用というかw やっぱり夜警のおじいさんが主人公というのも良いんでしょうね。これがもしスミスさんが美少女だったら……」

     

    fee「ダメでしょ。大体美少女だったら『30年間』の重みが出ない。つい最近バイトで入ってきた美少女なら、『新しい職場を探してください』で終了でしょ。でも美熟女ならいいんじゃないですか?」

     

    残響「美熟女ねぇw ロリババアみたいなのでもダメじゃないですか? ……しかし、これは差別意識なのかもしれないけど、やっぱり夜警というか、うだつの上がらなそうな職業……」

     

    fee「まぁ金持ちだったら、自分の土地でやってどうぞ、で終わっちゃいますからね。明るそうな人はダメですね。生活に疲れてそうな人が良さげ」

     

    残響「もう私にはこれしかないんだ、的な……」

     

    fee「そうそう」

     

    残響「この作品で面白いのは、ダグラスさんがスミスさんに説得されて、映画のセットを残すという結末ですね。これがもし『歩行者』の警察だったら……」

     

    fee「『歩行者』の警察車は文字通りひとでなしですからw ミードさんと同じようにスミスさんも捕まっちゃいますよ。しかし、そう。『歩行者』と違ってハッピーエンドなんですよね」

     

    残響「うん、そう。優しいお話だと思いました」

     

    fee「そうですね。なんか、難しい話だと勝手に思ってたけど、こうしてお話してみるとそうでもなかったな。面白かったです」

     

    (注2)……対談ではあっさり流した残響ですが、これをこと細かく言っていくと、へっぽこモデラー/模型マニアとしては、激おこぷんぷん丸となってしまうカム着火怒りのファイヤー!なので流しました(古!)

    何しろ模型を知らないひと、「ものづくり」を知らないひとは、こういうジオラマにかかる労力、時間も、ちょいちょいっと作るように思えてるんだからアレ。現実はマインクラフトじゃないんだっちゅうの。まずボードの設定をして、そこに粘土や発泡スチロールで地面や岩石の土台を作り、ライケンやパウダーとかで草地を表現(これでもシーナリー造形を大幅に簡略化した説明)。同時に建物をキット流用だったとしても所々改造して手を加えながら作りつつ、鉄道模型だったらフレキシ線路の処理をしたり、AFV(戦車模型)だったら全体の戦場の流れを設定したり、という作業(これでもストラクチャ造形を大幅に簡略化した説明)。そして楽しいウェザリング(退色表現=サビとか空気の質感を表現する「汚し」作業)!! そんなふうに無限に何時間何十時間も手が入れられる楽しい工作の成果を、本文であるようにバッカーン!と壊されようものなら、これはもはや「生命を賭けた時間を破壊しているのだ」と表現して差支えはないっ!! まさに激おこぷんぷん丸ですよ!(残響)

     

     

     

    第16作目/全21作(「荒野」は除く)「太陽の黄金(きん)の林檎」 P387〜400

    残響評価 A- fee評価 C+

     

    残響「あらすじですが……これ、どう説明したらいいんです? 太陽にGo!みたいな感じですか?」

     

    fee「冷たくなってしまった地球のもとに、太陽の熱を持ち帰ろう、というお話です。この話は、何というかおとぎ話ですね。何に似てるって、『勇気一つを友にして』ですよ。昔ギリシャのイカロスは〜ってやつ。太陽の熱でロウが溶けちゃう」

     

    残響「神話(的)ですよね。叙事詩的というか。SFという感じじゃない。データとか数値とかも全然出てこないし。イェーツとかスタインベック、シェークスピアなどの名前も出てきて、文学的な感じはありますが」

     

    fee「これを読めば、ブラッドベリがハードSFの作家だ!なんて口が裂けても言えなくなりますよw」

     

    残響「イメージ重視というか……そう、イメージ表現ですね」

     

    fee「この短編集の他作品だと『ぬいとり』に似ている感じがします。太陽の火を持ち帰るのに、杯を使うというのもいいですね。ついこないだ、*アニメの『Fate/Zero』を見ていたんですが……」

     

    残響「なるほど、これもまた一つの聖杯伝説的な……。何回も言いますが、ラヴクラフト的な感じというか。以前注に書いたんですが、ブラッドベリはアーカムハウス出身の作家だということで、怪奇幻想小説の要素を持っているんですよね」

     

    fee「子供がサーカスに抱く、恐怖、憧れ、畏怖のような。ブラッドベリは、そういう作品を結構描いていたりしますね。長編『何かが道をやってくる』とか、短編集『10月はたそがれの国』あたりにそういう作品が多いですが、『刺青の男』にもありました。宇宙を舞台にした神話でありながら、P399 8行目『一つかみのタンポポを持って学校から帰る小学生のような気持ちだ』というのも、いかにもブラッドベリという感じがします」

     

    残響「ですねぇ。……この作品はこれぐらいかな?」

     

    fee「そうですね。次はどうしましょう」

     

    残響「『山のあなたに』あたり行きますか?」

     

    fee「了解です。そうしましょう!」

     

    注:アニメよりも小説版の方が、より一層お薦めです(fee)

     

     

     

    第6回に続く……(「山のあなたに」など)

     

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(4)

    • 2017.05.18 Thursday
    • 22:02

    第12作目/全21作(「荒野」は除く) 「大火事」P355〜370
    残響評価 B fee評価 B+

     

     

    fee「マリアンちゃんという女の子が、恋をしました。超テンションが高いので、ママとパパはウンザリ。ですが、毎日のようにご機嫌なマリアンを見て、マリアンが結婚するんじゃないかと、ママとパパは期待を始めます。しかしラスト、おばあさんが真相を語る……。そんな感じのお話です」

     

    残響「付け加える事は特にないです」

     

    fee「MVPはおばあちゃんかなって」

     

    残響「いいところ全部持っていきましたからねw P368 14行目『どんな女だって、こういう時期があるものよ。大変だけど、大丈夫、死にゃしないから。毎日、別の男とデートすれば、女は立派に鍛えられるわ!』このおばあちゃんの台詞が凄いw」

     

    fee「このおばあちゃんも、若い頃はブイブイ言わせていたんですよw」

     

    残響「そうですね。ブイブイとww」

     

    fee「パパは男性だからまだいいとして、ママはちょっと鈍いですよね。もう少しマリアンの様子に気を配ってあげても……」

     

    残響「ですねぇ。パパとおばあちゃんの絡みも良かったです。P368 16行目で『あなたという人は!』と叫んだあと、P369 1行目でマリアンがやってきて、もう一度P369 3行目で『あなたという人は!』とおばあさんにむかって、繰り返すw これ、面白かったなぁ」

     

    fee「マリアンちゃんについてはどう思いました?」

     

    残響「うーんw ぼくは否定はしない、否定はしないけど……」

     

    fee「ブロンドの青年、背の高い色の浅黒い人、茶色い口髭の人、赤いちぢれっ毛の人、背の低い人と、マリアンちゃんの守備範囲は結構広いですね。自由にいろんな男性と遊べばいいとは思いますが、毎日はさすがに多すぎるw せめて毎週ぐらいにしてほしいw

     

    残響「そうですねぇ……」

     

    fee「このエネルギッシュな自分勝手さ、どこか『四月の魔女』のセシーに似ているような。あれですよ、トムがやってこなかった、あるいはトムに飽きちゃったセシーの慣れの果てですよ、これは」

     

    残響「だからセシーはアンと結ばれれば良かったんですよ。しかし、ブラッドベリはこういうおてんばというか、元気な女の子が好きなんでしょうか。あまり深窓の令嬢みたいなキャラは出てこないような……」

     

    fee「言われてみれば確かに。あと、どうでもいい点としてP359 16行目に『早春の異様なあたたかさに(温度計は五十五度を指していた)』とあります。この55度というのはもちろん……」

     

    残響「華氏ですよね。摂氏ではなくて」

     

    fee「そうです。でもこの華氏55度、ネットで計算してみると摂氏12.7度なんです。摂氏12.7度って、『早春の異様なあたたかさ』ですか?」

     

    残響「うーん……」

     

    fee「で、ですね。P362 10行目に『十月か、とパパはゆっくり計算した。「じゃあ、今すぐ死んだとして、百三十日も墓場で待たなきゃならんのか」』と言っています。パパの計算間違いじゃなければ、10月−130日ですから、5月の20日以降になりますよね。5月20日って、早春ですか? 早春で異様なあたたかさなんです? むしろ12.8度じゃ寒くないですか?」

     

    残響「うーん……きっとカナダ寄りの寒い地域だったんでしょう、としか言えないんですよね」

     

    fee「そう。これ以上深める材料がないんですよね。〇〇州、という地名も出てきませんし。あと、『あのなつかしい黒魔術』っていう曲が作中に出てくるんですけど、これはブラッドベリの創作なのかな? タイトルの響きがとても面白いなぁと思ったんですが」

     

    残響「いや、これは多分『That old black magic』というジャズの曲ですね。これです」

     

    fee「おっ、ありがとうございます! 後で聴いておきます!(追記:聴きました。軽快で楽しい曲でした)」

     

    残響「ここに歌詞の日本語訳が載っていますが、微妙に作品内容に被っているんですよね」

     

    fee「ふむふむ。この歌詞を参考にして読むなら、マリアンはそのうち刺されますね。男の方はこんなにマジにマリアンに惚れてるのに……」

     

    残響「悪女というか何というか……罪作りな女の子ですね……しかしこれ、なんだか露骨にホームドラマっぽい気がします」

     

    fee「古き良きホームドラマをブラッドベリが描くとこんな感じになるという、そんな作品だと思います」

     

     

     

    第13作目/全21作(「荒野」は除く)「金の凧、銀の風」 P155〜166
    残響評価 B fee評価 B

     

     

    fee「さて、次は『金の凧、銀の風』を読みたいと思います。舞台は中国。隣り合う二つの街が、ライバル心を剥き出しにしています。片方の街が城壁を豚の形に変えると、もう片方は棍棒の形に変える、というような。最後は疲れて、仲直り。それだけの話ですね」

     

    残響「うん、それだけですね」

     

    fee「舞台が中国だったり、寓話チックなところがどことなく『空飛ぶ機械』に似ていると思うんですが……残響さんの評価も似たり寄ったりで……」

     

    残響「『空飛ぶ機械』よりも低評価かな……城壁を次々に作り替えていくという発想は面白いと思ったんですけどね」

     

    fee「これ、時代はいつなんでしょう? 中国史に詳しくないのでよくわからないんですが、内戦してるのかな? 戦国時代?」

     

    残響「いつぐらいですかねぇ」

     

    fee「あと、主人公の『役人』がすごく偉い感じがするんですが。この人の指示で城壁を作り替えているんですよね? なんか『市長』クラスな気がするんですが、『役人』?」

     

    残響「原文を読んだわけじゃないのでわかりませんが、これは訳のミスじゃないかなぁ。そもそも中国でいう役人って『科挙』を潜り抜けたスーパーエリートなんですよね」

     

    fee「『公務員試験』とはレベルが違う感じですかね。『科挙』って言うと、50歳とかまで浪人して、それでも受かれば人生一発逆転するって聞いたことがあるし……」

     

    残響「そうですね。feeさんが想定しているのはcivil servant、いわゆる『公僕』ですが、これはofficerな気がします」

     

    fee「そもそもこの話は、隣の町が豚の形に城壁を作り替えた事を聞いた主人公の『役人』 が、こちらの城壁をオレンジから棍棒の形に作り替えたことから、城壁作り替え戦争が始まったわけですが……隣町は本当に、喧嘩を売るつもりで豚の形にしたんですかね? 何か別の理由があって、豚の形にしただけなのに、過剰反応しているようにも思えるんですが……」

     

    残響「うーん……それはわからないなぁ」

     

    fee「ネットとかでもよく見ますよ。全く関係ない人が、自分の悪口を言われたように感じて突っかかっちゃう光景って。こちらは変な意図ではなく、たまたま……たとえば家畜の豚の繁栄を祈って城壁を豚の形に変えたのに、隣の町が棍棒の形に城壁を作り替えてきた。なんだあいつらは、俺たちに喧嘩を売っているのか!? やっちまえ」


    残響「ネットの地獄ですなぁ。この話でぼくが気になったのは、城壁というものに込められている……かもしれないメタファーについてです。マクルーハンという人が書いた『メディア論――人間の拡張の真相』という本に、『衣服が個人の皮膚の拡張で、体温とエネルギーを蓄え伝えるものであるとするなら、住宅は同じ目的を家族あるいは集団のために達成する共同の手段である。住宅は人が身を寄せる場であり、我々の体温調節機構の拡張――すなわち、共同の皮膚あるいは衣服――である。都市は身体諸器官をさらに拡張したもので、大きな集団の必要を調整する』という文章があるんです(長いっ!w)。城壁を作り替えること……それは、こう変わっていくんだという街の意思……そんなふうにも読めるかもしれません」


    fee「うーん、ブラッドベリってそこまで考えて書いてるんですかねぇ?」

     

    残響「それはわからない……」

     

    fee「P160 13行目『だが喜びは冬の花に似て、たちまちしぼんだ。その日の午後、使者が中庭に駆けこんで来たのである』。喜びは冬の花に似て〜の文章は良いなぁと思う一方で。『その日の午後』……城壁を1日で作り替えたってことになるんですが、さすがに無理じゃないですか?」

     

    残響「その辺は寓話ということで……やっぱりあまり考えないで書いているような気がしてきたw」


    fee「まぁ、作者が意図していなかったものを読者が読み取って楽しむというのも、それはそれで作品鑑賞としてアリじゃないかなとは思います」

     

    残響「ですね」
     

     

     

     第5回に続く……

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(3)

    • 2017.05.18 Thursday
    • 19:48

    第8作目/全21作(「荒野」は除く)「黒白対抗戦」 P185〜208
    残響評価 B fee評価 B

    (S〜E評価です)

     

    fee「黒人と白人の野球大会のお話です。白人チームがとにかくウザいわけですが、最後に黒人チームがウザい白人をギャフンと言わせて終了……でいいんですよね?」

     

    残響「そうですね。今の時代にはなかなかお目にかかれないような、ド直球な人種差別の話ですねぇ。まだ人種差別が単純だった頃のアメリカというか……」

     

    fee「単純だった、というのは?」

     

    残響「今は黒人だけでなく、ヒスパニックとかアジア系とかイスラム系とか、本当にいろいろあるじゃないですか。【人種のるつぼ】というか、複雑化してわけがわからなくなっているというか」

     

    fee「あぁ、なるほど」

     

    残響「それに、この描写の仕方も何というかステレオタイプというか……。黒人はマッチョで、運動能力が高い。でもブルーカラー(肉体労働者階級)。みたいな……。feeさんはこの作品、どう思いました?」

     

    fee「とりあえず、ここに出てくる白人はバカだなぁと」

     

    残響「バカですかw」

     

    fee「この野球大会、白人にとってはどうでもいいイベントですよね。黒人の不満をガス抜きする、年に一回の野球大会なんだから、気持ちよく黒人に勝たせてあげればいいじゃないですか。どうせ明日からはまた白人の天下なんだし、良い気分にさせてあげるのが本当でしょ。ガス抜きの場で差別行為をしたり、黒人の神経を逆なでするような真似をするとか、バカ以外の何物でもないと思いました」

     

    残響「まぁ、ガス抜きの場で、うまくガス抜きさせてあげられないのは、往々にしてあることですが……」

     

    fee「それはまぁそうですけども……ところで、黒人は基本いい奴に書かないとまずい、みたいなお約束が、昔のアメリカ小説にはありましたよね」

     

    残響「ありました、ありました」

     

    fee「でもそれが逆に差別だ、みたいな話もあって。僕なんかは、自分たちが良く描かれるならいいんじゃね?とか思っちゃうんですが、どうなんでしょう? 悪く描かれるよりはよほどマシだと思うんですけど……」

     

    残響「アファーマティブ・アクションという言葉はご存知ですか?」

     

    fee「え、なんですって?」

     

    残響「これなんですけど社会的弱者に対する救済を目的とした優遇措置的なものなんですが、それが逆に差別だという話も……」

     

    fee「奨学金とかもそうなんですか。うーん、言わんとしている事は解るし、差別だと感じる人もいるかもしれないけど……個人的にはよく解らないなぁ。欧州サッカーでも、ホーム・グロウン枠……自国人枠みたいな考え方があるんですけど、それが差別だという弾劾はあまり聞いたことがないですし。これらがない方がよほど問題ある社会になりそうな気がするんですが……」

     

    残響「差別というのは相手を見下すだけでなく、妙なコンプレックスとか憧れを内包していたりもするんですよね。たとえばジャズの世界では、『黒人にしか本物のジャズは演れない』ということを、黒人だけじゃなく、白人でも本気で言う人がいるんです。そこには自分たちではどうしても至れない、って白人が勝手に思ってるある種の憧れ(コンプレックス)がある……と思うんですよ。この『黒白対抗戦』でも、主人公のママが黒人に対して抱いているのは、憎しみだけでなく、優れた身体能力への嫉妬というか。だらしない白人チームへの苛立ち、そういったものがまた、黒人への憎悪を強くしている気がします」

     

    fee「なるほど……確かに単純な見下しだけではないんでしょうね」

     

    残響「黒人への憧れを表すような形で、白人が自分の肌を黒く塗って行う芸がありました。ミンストレル・ショーというんですが、時代が進むにつれて、それもまた差別の色合いが濃くなってしまい、結局廃れていったという……」

     

    fee「本来持っていた精神から離れてしまったんですね。元はガス抜きの大会として企画された野球が、いつの間にか憎しみを募らせるイベントになってしまったように」

     

    残響「しかしブラッドベリは完全なハッピーエンドは書きませんね。この野球大会を機に黒人が認められて……みたいな話にはならない。明日からはまた元通り、黒人は白人の奴隷……までは行かずとも、使用人的な(奴隷ではないまでも)」

     

    fee「これでいきなりハッピーエンドを書かれても白けちゃいますけどねw まぁ、主人公の少年が、人種のしがらみに捉われていないのは救いな気がします。それも今後どうなるかはわかりませんが……。『黒白対抗戦』はこんなところでしょうか?」

     

    残響「そうですね。次も社会風刺系で『日と影』あたり行きませんか?」

     

    fee「え、社会風刺? 『日と影』はギャグコメディじゃないんすか?」

     

    残響「えっ!?」

     

    fee「えっ!?」

     

    残響「なんだ、この読み方の違いはw」
     

     

     

    第9作目/全21作(「荒野」は除く)「日と影」 P295〜312
    残響評価 B fee評価 A

     

     

    fee「リカルドという困ったおっさんがいまして。このリカルドさんが住む地区にカメラマンがやってくるんですが、リカルドさんがことごとく邪魔をするお話……で合ってますよね?」

     

    残響「大丈夫ですw このリカルドさんを、ぼくは下層階級……というと言い過ぎかな。【持たざる者】として読んだんです。持たざる者が、精一杯の反抗をするような」

     

    fee「なるほど」

     

    残響「言っていることは無茶苦茶なんですが、何かもっともらしい事を言って邪魔をするw 本を読んでいるという、知識人アピールをするのも面白いですね。P301 1行目『おれの本を出して見せろ!』と、リカルドは叫んだ。5行目『階上(うえ)には、まだ二十冊もあるんだ! と、リカルドは叫んだ。お前さんの目の前にいるこのおれは、無学文盲の田舎っぺじゃないぜ。ちゃんとした一コの人間だ!』威張っている割に、20冊『も』というのもいいですねw」

     

    fee「本をたくさん持っているのが偉いとは言いませんが、20冊で威張られてもw」

     

    残響「ですねw 無茶苦茶なリカルドさんですが、なんか憎めないというか、結構好きだったりします」

     

    fee「僕もリカルドさん好きですよw」

     

    残響「まぁ、いちいちズボンを下げるのは擁護しませんけどw」

     

    fee「それも面白いじゃないですか。この人、奥さんいるんですよね。よく結婚できたなぁ……」

     

    残響「リカルドさんって、そもそも働いてるんでしょうか? なんか何もしてなさそうな気が……」

     

    fee「この性格じゃ雇われ人は無理だなぁ。きっと頑固一徹な職人とか……」

     

    残響「この道、ひと筋的な? リカルドさん、格好いいですね!」

     

    fee「ごめん、P300 8行目で『おれも雇われている人間だ』って言ってるわ……」

     

    残響「リカルドさん頑固職人のイメージが台無しw」

     

    fee「真面目に働いて、結婚して、子供もいるはずなのに、何だろうこのリカルドさんのフリーダム感……社会不適合者の遊び人にしか見えない……」

     

    残響「feeさんはこの作品をギャグだと仰いましたけど……」

     

    fee「単純に笑えるなぁってw 残響さんと比べて、僕は難しいことを考えたりはしていないので……。カメラマンの行く先に付きまとって、モデルを撮ろうとするたびに、後ろでズボンを降ろすおっさんとか、超笑えるじゃないですかw 『帰り道、坂の途中に、さっき壁に小便をひっかけた犬がいた。リカルドは犬と握手した』の〆も完璧w この短編集にはいくつかギャグ作品も入っているんですが、これが一番笑いましたw」

     

    残響「ぼくはどうしても、行間に隠された何かの意味を読み解こうとしたがるというか。暗喩を探そうというか、そういう読み方をしちゃうんですよねぇ」

     

    fee「それはそれでいいんじゃないですか? 僕なんて頭が単純だから、そのまま受け取る事しかできないですよw 暗喩を考えるほど知識もないし……」

     

    残響「いやいやw feeさんのように素直に物語を楽しんでいる方と比べて、自分が物語というものを、さほど好いていない、自分にとって物語は【距離がある】、自然じゃない……んじゃないかなぁと思ったりもして……」

     

    fee「暗喩を考えながら読む読み方と、素直に楽しんで読む読み方を両方やればいいんじゃないですか? なんなら2回読むとかして。多くの人は素直にしか読めないと思いますよ。残響さんは作品を読み解く力を持っている分だけ、アドバンテージがあるような気がするんですけどね……」

     

    残響「好きな作品なら、やたら再読はするんですけどね……さて、この作品はこんなものかな? 次は、『夜の出来事』あたり行きますか?」

     

    fee「いいですね、行きましょう」

     

     

     

    第10作目/全21作(「荒野」は除く)「夜の出来事」 P283〜294
    残響評価 B fee評価 B

     

     

    fee「息子を軍隊に取られたかわいそうなナバレス夫人。この女性が、大声で嘆き叫んでいて、アパートのみんなは迷惑しています。そこでビリャナスールさんという既婚者の男性が、ナバレス夫人を慰めて、めでたしめでたし、と。こんな感じですかね」

     

    残響「ですね」

     

    fee「主人公のビリャナスールさんが、完璧にエロゲ主人公な件について……」

     

    残響「えっ? どういう意味ですか?」

     

    fee「これは、ビリャナスールさんが無双する話ですよね? 奥さんがいるビリャナスールさんが、狙い通りにナバレス夫人もゲットして、奥さんにも今まで通りにモテるっていう圧倒的主人公力……」

     

    残響「色恋の話だったんですか!?」

     

    fee「そうですよ! P289 8行目のビリャナスールさんの台詞『わたしたちのなかから、親切な男性が一人あらわれればいいのです』」

     

    残響「普通に親切にするんじゃなくて?」

     

    fee「普通に親切にするのなら、男性に限定する必要がどこにもないんですよ。むしろ、女性が行った方がいいでしょう。ナバレス夫人に『親切にする』……この表現がもういやらしいですよw」

     

    残響「なるほど……そう読むのかw」

     

    fee「露骨に既婚者であることを強調したり、P290 7行目『人々は照れくさそうな表情で』あたりからも読み取れると思います。しかもこれ、ナバレス夫人のところに『親切な男性が慰めに行く』ことを提案し、強硬に推し進めているのはビリャナスールさんという。最初からナバレス夫人を狙っているようにしか見えないw」

     

    残響「ww」

     

    fee「ビリャナスールさんが行ったらナバレス夫人は静かになるし、とどめにP294 1行目『あのひとは思慮ぶかい人だわ、と目をとじて(ビリャナスール)夫人は思った。だからこそ、わたしはあのひとを愛しているのよ』と何故か奥さんには改めて愛される。どんだけイケメンなんすかw」

     

    残響「ハーレム系主人公を慕う、都合の良いエロゲヒロインみたいな奥さんですねw いや、そんな話だったんですかw 色恋の話だったとは……(本当に色恋の話だと気づかなかった)」

     


    第11作目/全21作(「荒野」は除く)「ぬいとり」 P175〜184
    残響評価 C〜? fee評価 B

     

     

    fee「この、『ぬいとり』も残響さんはよくわからなかったと仰っていたような……」

     

    残響「そうですね。書いてある事そのままというか、完成されすぎているというか……」

     

    fee「書いてある事そのままなら、むしろわかりやすいのでは……?」

     

    残響「そこがぼくの悪い癖で。これは何の暗喩だろう、とか考えちゃうんですよ。で、そういう暗喩をちりばめるような作家は、たいていもう少しわかりやすいヒントを出すんですが、ブラッドベリは……というかこの作品は、そのヒントがない。だから暗喩ではなく、そのままなんでしょうけど……」

     

    fee「そのままでいいような気がするんだけどw あらすじですが……世界が終わりを迎える直前、三姉妹が針仕事をしています。そして世界が終わる。という話です。この三姉妹、どうもこの世の存在ではないような、そんな気がしてならないんですが……」

     

    残響「ですよね。魔女的な存在というか、神話上の存在というか……ラヴクラフト的というか、むしろダンセイニ卿的な幻想小説というか……(残響注)」

     

    fee「五時ちょうどに世界が終わる、というのも何か人為的なような、不思議な感じがしますね。P182 1行目『だまされたのかもしれないわね』 4行目『昔のおまじないを本気にしたのは』、この辺りを読む限り、なんかノストラダムスの大予言みたいなものに、『五時に世界は終わる』と書かれていて、この三姉妹はそれを信じちゃったと」

     

    残響「はい」

     

    fee「ちょっとこじつけくさいんですが、この『ぬいとり』の世界を、マトリョーシカ的な入れ子構造として読むこともできるかな、と」

     

    残響「ん? 入れ子構造? どういう事ですか?」

     

    fee「つまり、『三姉妹がぬいとりをしている世界』が世界B、『三姉妹に、ぬいとられている世界』を世界Cとして。この『世界Bを、ぬいとりで表現している』更に上位の世界Aが存在するのではないか、と」

     

    残響「へぇぇ……なるほど。それは面白い読み方ですねぇ……」

     

    fee「P182 15行目〜最後までの16行分。ここにこの作品の全てが隠されているような気がします。世界の終わりを告げる『火』、『燃える』という単語。『ぬいとりの太陽』、『心臓は今や火にぬいとりされたやわらかな赤いバラだった』。ここで描かれている世界の終わりとは、『世界Bを表現していたぬいとり』が世界Aにおいて燃やされたという、そういう話なのではないかと……」

     

    残響「そういう読み方ができるなら、ぼくはこの作品の評価をもっと上げたいですね。神話だ、と思って読んで、それで終えてしまったので……その構造的読み方でもう一度読んでみようかなぁ」

     

    fee「わずか7ページの作品なので、もう一度読んでみるのもいいですよね。これが50ページの作品とかだと、ちょっとしんどいですけどw」

     

    (残響注 残響はH.P.ラヴクラフトと、ダンセイニ卿(ロード・ダンセイニ)の大大大ファンです。なのにこのブラッドベリ神話的作品を、なぜきちんとその路線で読めなかったかバカチン! っていうか、feeさんに教えられて知ったのですが、ブラッドベリってオーガスト・ダーレス(ラヴクラフトの一番弟子)の出版社・アーカム・ハウス出身の作家だったのかよぉぉぉおおおお!!! しらなかった……アイムバカチン……)

     

     

    第4回に続く……(「大火事」など

    ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』読書会(2)

    • 2017.05.16 Tuesday
    • 19:50

    第4作目/全21作(「荒野」は除く)「空飛ぶ機械」 P125〜136

    残響評価 C+ fee評価 B

    (S〜E評価です)

     

     

     

    fee「さて、次は……同じ社会風刺系作品ということで『空飛ぶ機械』行きますか。残響さんも低評価をつけているみたいですし」

     

    残響「行きましょう。あらすじ(※注1.)をお願いします」


    fee「はい、西暦400年、元の国の……元?」

     

    残響「そこなんですよ!」

     

    fee「あれ、元ってモンゴル帝国とかですよね? 元寇とかの。時代違いません?」

     

    残響「そうなんです。ぼくもちょっと調べてみたんですけど……」

     

    fee「五胡十六国時代とかでしたよね、確か。その中に元って国はあったんでしょうか? 同名の……国被りというか」

     

    残響「いや、ないんです。だからこれ、時代考証が間違ってるんじゃないかなと」

     

    fee「時代が間違ってるというよりは、何も考えないで書いてるだけなのでは……とりあえず実在する五胡十六国の国名にすれば良かったのにとは思いますが……P127 l1に『万里の長城に守られ』とあるので……」

     

    残響「万里の長城以降の北方民族(例えば匈奴)じゃダメですけど、漢民族の国にすれば良かったんじゃないかなぁ。ていうか、そもそも中国である必要すらない気がしますね。多分、適当な国を思いついて書いただけなんだと思います。厨二病作品で、適当なドイツっぽい名前(※注2)をつけた、みたいな」

     

    fee「なんか凧みたいな機械で空を飛んだんでしょ? まぁ中国っぽいイメージはあるのかなぁ。でも確かに、中国にこだわる必要もないですね」

     

    残響「アメリカだと時代的にまずいかもしれませんが(アメリカには中世はない)、トルコとかでもいいんじゃないかなぁ。そういえば、あらすじが途中でしたね」

     

    fee「はい。えーと、古代中国で発明家みたいな人が、空を飛ぶ機械を作ったんですね。で、空を飛んでたら、皇帝に見つかって殺されてしまった、というお話です」

     

    残響「先ほども言いましたが、ぼくはどうも出だしでいきなり萎えてしまいました。『西暦400年のこと、元の国の皇帝は』ここでもうハァ?という感じで……」

     

    fee「うん、まぁこれはブラッドベリが悪いです。悪いですけど、そこはスルーしてあげるのがブラッドベリの楽しみ方ですよw」

     

    残響「うーん。自分はひょっとして純文学的な読み方をしているのかなぁ」

     

    fee「真面目なSF読み的な感じもしますけどね。ブラッドベリは真面目にSFを描く作家じゃないので、その辺は適当に読んだ方が楽しめますよ」

     

    残響「feeさんが、ブラッドベリはガチなSFじゃない、と言っていたのはこの辺のことですかw」

     

    fee「ですね。まぁ、ここで引っかかってしまったなら仕方ないし、残響さんの読み方が悪いというよりは、ブラッドベリの方が悪いですね。せめて架空の国名なら良かったんですが、実際の国名と被っちゃいましたしね。ところでこの皇帝の判断はどう思いますか?」

     

    残響「皇帝はちょっと狂っている感じですね」

     

    fee「狂っていますか」

     

    残響「いきなり『首をはねよ』ですし……」

     

    fee「まぁそれは確かに……ただ、この皇帝の判断自体はどうなのかなと思って。機械と発明家を殺した事についてですけども。皇帝が狂っている、と仰ったということは残響さんは、機械を残した方が良いという事かなと思うんですが。しかし、機械を残すことによって、100年後にはグレードアップした空飛ぶ機械が爆弾を抱えて、この元の国を滅ぼしてしまうかもしれません。この発明家を殺したことによって、100年後も元の国は平和かもしれませんよね」

     

    残響「ただそれは一方で、この機械を残しておけば100年後には、進化した空飛ぶ機械で遠隔地に薬を届けて、多くの生命を救えるかもしれないじゃないですか」

     

    fee「そう。だからこれに関しては、絶対の正解はないと思うんです」

     

    残響「進歩主義か現状維持……保守主義かという違いなんでしょうか」

     

    fee「皇帝が狂っているかどうかはわかりませんが、ビビッてはいますよね。P135 2行目『大いなる困惑と恐れ』と言っているように」

     

    残響「ビビっている、なるほど、そうか。ビビっている」

     

    fee「狂っている、とまで言っちゃうと難しいんですよ。何が正常か、という話になっちゃって。あまり踏み込みたくないので適当に濁しますけど、政治的運動や思想信条の運動って、傍から見ると狂的なものを感じさせたりもするんですが、実際に狂っているかどうかはよくわからないですよ。誰が判断するのか、という話で。これがたとえば後天的な精神病とかならわかりますよ。精神病に罹る前の自分と比べて、『あっ、今の自分はおかしくなってる』って判断できますから。でもこういうのは……」

     

    残響「狂っている、という単語の取り扱いは難しいですね。ちょっと気をつけた方がいいのかな。あるいは、狂気、狂っているっていう言葉の定義の違いかもですが」

     

    fee「いやまぁ、咎めだてしたいわけじゃないんですけどもw」

     

    残響「面白いのは、発明家の方も奥さんに狂人扱いされているんですよ。P131 8行目『わたくしの妻でさえ、わたくしを狂人あつかいしております』」

     

    fee「まぁ凧みたいなので空を飛んだら、そりゃ狂人ですね」

     

    残響「その辺は、発明家の性でしょうなぁ。新しいものを始める人間は、理解されないという……皇帝が狂っていると言ったのは、このP131 8行目の表現があったからなのかなぁ」

     

    fee「でも、ここで狂人扱いされているのは皇帝じゃなくて発明家でしょ?」

     

    残響「そうなんですけどね。引きずられたというか。いきなり『首をはねよ』だし。昔の中国の皇帝っぽいっちゃ、っぽいですけども。あと面白かったのはこの科学的な発展を、美に絡めて描いていることかなと」

     

    fee「この作品では空から見た風景の美に言及していますけど、この調子で科学が発展すれば、いずれは自然を壊し風景の美も失われてしまう、とか、そういう感じで……」

     

    残響「あぁ、そうか。いや、ぼくの想定してたのは、もっとこう、ノスタルジックな美的精神かと……」

     

    fee「自然を壊すというのだって、ある意味ではノスタルジーじゃないですか。もちろん、自然を破壊して良いとは言わないけれども、自分たちが住みよい世界を作るため科学技術を発展させて行った結果生まれたのが、今の世界なわけで。そんな住み心地の良い世界から、昔は自然があって良かったなぁ、住み心地が良かったなぁというのはある種のノスタルジーではなかろうか、と」

     

    残響「なるほど……」

     

    fee「ブラッドベリの考えが単純な、『科学の発展=大正義』ではないというのがこの短編からも解りますね」

     

    残響「そうなんですよねぇ。もっとも、最後の行の『鳥どもを見よ、鳥どもを見よ』あたりを読む限り、ブラッドベリが科学発展を忌み嫌っているわけでもない、とは思いますが」

     

    fee「そうですね。皇帝を擁護はしてないですね。突き放してはいる。ただ、それはそうなんですが、科学発展万歳!明るい未来万歳!みたいな話は僕が記憶する限り、描いてないんですよ。どっちかと言うと、行き過ぎた科学発展には反対のような……。もちろん、科学発展というのは、基本的に良い事だとみなされていますよね。SFを描いたり読んだりする人の間ではなおの事そうでしょうから、カウンター的に『本当にそれでいいのか?』とブレーキをかけているだけかもしれませんが」

     

    残響「疑義を呈す、みたいな」

     

    fee「ですです。……って、またもや随分話しましたね。これ9ページの作品なんですけど……」

     

    残響「まさかこんなに話すとは思いませんでしたw」

     

    fee「次はどの作品に行くかなんですが、さっき『狂っている』という話があったじゃないですか。狂っている繋がりで、『鉢の底の果物』に行きませんか?」

     

    残響「ぼく、この作品、意味がわからなかったんですよ。なのでミステリも読まれるfeeさんにお聞きしたかった作品なんです」

     

    fee「ちゃんとお答えできるかわかりませんが、やってみましょう」

     

    (※残響注1. 残響はあらすじをわかりやすく纏めるのがすごく苦手。なので毎回feeさんに頼んでいる。ごめんなさい)

     

    (※残響注2:デア・ヴィッセルクンフト・ヴィーターゼーエンブルグみたいな。2秒で考えた。ドイツ語定冠詞もあやふや。それにしても完全に語感オンリー。「アウフ・ヴィーターゼーエン=じゃあね」って具合だし)

     

     

     

     

    第5作目/全21作(「荒野」は除く)「鉢の底の果物」 P81〜102
    残響評価B- → B+(読書会を経て上方修正) fee評価 B

     

     

    fee「というわけで、鉢の上の果物です」

     

    残響「底ですね」

     

    fee「あ、鉢の底の果物だった……。あらすじは、アクトンさんというちょっとおかしい人が、ハクスリーさんを殺しまして。証拠隠滅を頑張りすぎて現場に留まり続けた結果、最後は捕まっちゃうんですけど……残響さんはどこがわからなかったのかな?」

     

    残響「何を描きたかったのかがさっぱりわからなかったです」

     

    fee「これは、強迫神経症の話ですよね」

     

    残響「ああっ!?」

     

    fee「えっ? 違いました?」

     

    残響「いや……そうかも……というかそうですね。そうだったんだ……!!!」

     

    fee「アクトンさんはおかしいんですよ。ある程度証拠を隠滅したらさっさと逃げた方がいいのに、ずっと居続けて結局捕まっちゃって」

     

    残響「ぼくは単純に犯人側視点のミステリとして読んだんですが、単純に証拠を隠そうとして捕まっただけの話だと思っちゃって。なんでこんなに描写がねちっこく細かいんだろうとは思っていたんですが」

     

    fee「P99 13行目『かれはリンネルの布を見つけて、椅子を拭き、テーブルを拭き、ドアのノブを拭き、窓枠を拭き、棚を拭き、カーテンを拭き、床を拭き、台所に入ると、息を切らして、上位を脱ぎすて、手袋をなおして、きらきら光るクロミウムの流しを拭いた』と、こんな感じですからね」

     

    残響「普通のミステリってこんなに描写するものなんですか? 倒叙モノ……犯人視点のシーンとかの話ですけど……」

     

    fee「うーん。多少はするかもしれませんが、ここまではあまりしないんじゃないかなぁ……」

     

    残響「ですよねぇ。それに、たまに時間軸もおかしくなるんですよね。現在のシーンの中に、唐突に生前のハクスリーのセリフが出てきたり」

     

    fee「この辺はブラッドベリの巧さだと思います。時間軸がおかしいのは、現在と過去がたまにごっちゃになる、アクトンさんの頭の中のヤバさを表していますし、描写が緊密なのもアクトンさんの強迫的な心理を表現しているんですね。描写が適当だったらこの話は全然面白くないというか、成り立たないですよ」

     

    残響「描写の細かさは『空飛ぶ機械』とは大違いですね!w」

     

    fee「『空飛ぶ機械』は寓話というかおとぎ話みたいな感じですからね。鉢の上の果物があの描写だったら……あれ、鉢の底だっけ」

     

    残響「www」

     

    fee「なんで上って言っちゃうんだろw まぁ気にしないで下さいw で、残響さんがわからなかったところというのは……」

     

    残響「強迫神経症の話だ、というfeeさんの話を聞いて、パズルのピースがカチッとハマるように理解できました。そういう話だったんですねぇ。ぼくはミステリだと思って読んだので……」

     

    fee「これはミステリじゃないですよ……少なくとも、謎解きみたいなそういう話じゃないです」

     

    残響「そうだったんですね……今までその観点で全然話を読んでなかったのです……うわー、この得心のいきまくる感じ」

     

    fee「これは読書会を開いた意義がありましたね。一人だとよくわからなくても、二人で話せば新たな発見があるような、そういうのがあると面白いですね」

     

    残響「ほんとですよ。ぼく、以前実際に、強迫神経症になっていたことがあるんです。不安で不安で、大丈夫だと解っているのに何度も確認せずにはいられなかったりして。アクトンさんの行動も、割と普通なこと※注1.として読んでしまったw」

     

    fee「まぁ、何度も確認してしまうというのは、分かります。不安というのはそういうものじゃないですか?」

     

    残響「そうなんですけど、ぼくはずっと水道の蛇口を閉め続けたりとかしてたんですね。それは水道の蛇口が開いていたら、来月の水道代が怖いとか、そういう事を考えて延々蛇口を閉めたり……」

     

    fee「うーん……。僕も何か不安があった時に、延々ネットで成功例や解決法を調べ続けてしまったりとかしたことがあるので、あまり他人の事は言えないんですが……どこまでがただの心配性で、どこからが強迫神経症なんだかよくわからないですね」

     

    残響「強迫神経症の特徴として、儀式化するというのがあるんです。たとえば、不安があった時に解決法を調べるのは、一応『不安を解消する』ことに間接的に繋がるじゃないですか。でも、たとえば『朝起きたら3回南の方に向かって土下座をすれば、うまくいく』みたいな儀式を自分で勝手に作って、それを守らないと落ち着かない、みたいな……。土下座をすることと、うまくいくことには何らの因果関係もないはずなのに、してしまうんですよ※注2.」

     

    fee「うーん……それは確かによくわからない話だけど……よほど失敗したくない事に対して、神頼みをして、それも全国の神社を回って歩いたりしたら、これは強迫神経症なのか、とか。近所の神社だけなら違うのか、とか……境目がやっぱりよくわからないですね。ただ、なんだろう。今、僕もあまり元気じゃないせいか、この話にはなるべく深入りしたくないですw 読書会を開いておいてこんな発言しちゃいけないかもしれませんが……」

     

    残響「いえ、まぁやめましょうかw 次はどうします?」

     

    fee「軽めに『ごみ屋』あたりどうでしょう?」

     

    残響「じゃあ『ごみ屋』行きますか。と言っても、ぼく結構この話、語りたい事が多いんですけど」

     

    fee「あ、そうなんですかw」
     

    (※残響注1.ナチュラルな誤読とはこういうことを言う)

     

    (※残響注2.妄想的思考とはこういうことを言う。これが精神病だ!!!!)

     

     

     

     

    第6作目/全21作(「荒野」は除く)「ごみ屋」 P343〜352
    残響評価A fee評価 B

     

     

    fee「辛いながらも楽しく仕事をしていた、ごみ収集業者の主人公。ある日、仕事内容に死体処理も加えられ、心底仕事が嫌になってしまった。というお話です」

     

    残響「この話はまず、描写が凄くいいですね。P346 3行目『オレンジの皮や、メロンの種や、コーヒーのだしがらが、一時にどさっと落ちて、からっぽのトラックがだんだん埋まってゆく。ステーキの骨や、魚のあたまや、玉ネギの切れっぱしや、古くなったセロリは、どこの家でもよく捨てる』。ぼくはリアル仕事で、食品加工業に携わっていまして、実は。仕事柄こういうゴミトラックなどで作業をしたことは日常的にあったんですが……コーヒーのだしがら……古くなったセロリ……すんごい臭いんですよ。よくわかるなぁ……リアリティを感じます」

     

    fee「なるほど……僕はゴミトラックでの作業経験はないので想像することしかできませんが、そうなんですねぇ……」

     

    残響「ほんっと臭いですよ。でもですね、P346 14行目『ひと月に一度か二度、かれは自分がこの仕事を心から愛していることに気がついて、自分でもびっくりする。そしてこんなすばらしい仕事はほかにありゃしないとも思う』、わかりますよ。辛い作業でも、ふっといい仕事をしてるなと感じる時はあるんですよね」

     

    fee「僕はゴミトラック経験はないので、本当に大変な仕事だろうなぁと思っています。生ごみにウジ虫とかが這っていたりするのかなぁ、うぇぇ……俺には無理かも……みたいな」

     

    残響「夏場、ハエがたかっていることはありますね……ふつうふつう」

     

    fee「ハエぐらいなら大丈夫かな。もちろん、相当嫌ですけどw それに、作品内の描写だとウジっぽいのも湧いていますからねぇ。まぁこれはゴミトラックに限らず、僕が就いた事のない仕事全般について大体はそうですね。大変そうだなぁ、よくできるなぁって。
    就活なんかだと、覚悟を問われたりするじゃないですか。ネット上でも仕事の楽しみを語る人よりも、愚痴を書く人の方が多いし。だからものすごく、しんどい事をやらされるんだろうなぁ、って思ってしまう。でも、意外となんとかなったり、その仕事に携わった事のない人には分からない、小さな楽しみを見つけられたりするんじゃないかなぁとも思っています。同業者あるあるじゃないですけど、『この仕事は本当につらいよなぁ。でも、こういう事があるからやめられない』みたいな」

     

    残響「このごみ屋さんも楽しくやってたんですよ。なのに……これ、ほんとかわいそうな話ですよ。死体処理の仕事を新たに加えられて……」

     

    fee「その仕事に縁がない僕から見たら、ウジ虫とかは本当に大変だし、死体処理も……程度が違うとはいえ、やっぱり大変だし……と思っちゃいます。でも違うんですよね」

     

    残響「全然違いますね。ゴミの処理と、死体の処理は全然違います。ゴミはどこまでいってもゴミですが、これが人間だと、初期の大江健三郎(※注1.)じゃないっすか……。ぼくもリアルに人間の死体の処理をやらされたら当然かなわないですよ。……でも、食品を扱う仕事に関するぼくの妙な達成感とかもそうなんですけど、自分自身では、仕事……生業(なりわい)に納得してるんですよ。そこに、【人の死体】という明らかにカテゴリ違いのものがぶち込まれる。勝手な仕事を上層部から。その悲劇です」

     

    fee「でも外野にはそれがわからない」

     

    残響「うん。外野の、想像力の欠如」

     

    fee「だから死体処理をごみ屋さんの新たな業務内容に平気で加えちゃう。主人公の奥さんも、政治家と同じ立場ですよね。ごみも、死体も、何が違うの?みたいな。僕もひょっとしたらそういう反応をしちゃうかもしれないです」

     

    残響「でも、主人公から見たら全然違う仕事なんですよ。全く違う」

     

    fee「ですよね。これ、勝手に転職させられちゃったようなものですよね」

     

    残響「なのに、奥さんも子供もいるし辞められない。つらいですよ……」

     

    fee「P350 2行目『トムとおれがやってたみたいに、遊び半分のような気軽なやり方でやれば、こんな面白い仕事はないんだ。ゴミにもいろいろあってな。金持ちの家じゃステーキの骨、貧乏人の家じゃレタスやオレンジの皮だ。馬鹿みたいな楽しみだけれども、どうせ仕事をするんなら面白くやるに越したことはないだろう』。僕が良いなぁと思ったのはこの文章ですが、携わった経験のある残響さんから見てもリアリティがあるなら、やはりきちんと取材したんでしょうね」

     

    残響「ですね。あるいはブラッドベリも何かの形で経験したのかもしれないですね。アルバイトをしたとか」

     

    fee「この、他人から見たら似たように見えるけど、自分的には全然違うというの、僕も解りますよ。たとえば、この対談記事は僕が文字起こしをして、色付けやリンク張りは残響さんにお任せしているんですが、僕、文字起こしするの結構楽しいんです」

     

    残響「マジですか!? ぼくはいつも、feeさんには凄い負担をかけてしまっているなぁと思っていました。自分でやってみたら、大変だったので」

     

    fee「そりゃ楽とは言いませんが、エロゲー批評空間に長文感想を投稿するのと同じような楽しさがありますね。あるいは、長文ブログ記事を書くような。でも、色付けやリンク張りなんかは、すんごい面倒に感じちゃいますね。しんどくて心が死にます」

     

    残響「全然逆ですねw ぼくは色付けやリンク張りなんかは普通にできます。何の問題もない」

     

    fee「うまく役割分担ができてますねw しかし、主人公はこの後どうするのかなぁ……」

     

    残響「そればかりはわからないですね……」

     

    fee「作中に、1951年12月10日付けのロサンゼルス、とやけに具体的な日時が出てきますが、さすがに実際にあったことじゃないですよねw?」

     

    残響「さすがにないでしょうw メキシコとかならあるかもですけど……」

     

    fee「朝鮮戦争の後、くらいですか。赤狩りとか」

     

    残響「ですね」

     

    fee「SFを読みたいということで、残響さんはこの本を読まれたとのことですが……この話はSF要素が全然ないですね。さっきの『鉢の底の果物』も全然SFじゃないし、短編集全体を見渡してみてもSF色はあまり強くないような……」

     

    残響「そうですね。『ウは宇宙船のウ』とか、そういうタイトルを知っていたので、もっと宇宙とかをたくさん書く作家なのかと思っていました」

     

    fee「他の短編集では結構描いてたりもするんですが……この短編集だと宇宙は全然出てこないですね。『荒野』と、最後の『太陽の黄金の林檎』ぐらいでしょうか……違う短編集を薦めれば良かったかなぁ」

     

    残響「ははは。楽しんで読めているので大丈夫ですよ」

     

    fee「それは良かったです。さて、次はどうしましょうか?」

     

    残響「『四月の魔女』あたりどうですか? 百合的に色々熱く語っちゃいますよ?」

     

    fee「え、百合要素なんてあったっけ……?」

     

    (※残響注1.大江健三郎のデビュー作「死者の奢り」のこと。1957年。死体洗いのアルバイトの話)

     

     

     

    第7作目/全21作(「荒野」は除く)「四月の魔女」 P39〜60
    残響評価A fee評価 A

     

     

    fee「主人公は魔女のセシーです。セシーは人の身体に乗り移る能力があります。ある日、セシーはアン・リアリという少女の肉体に乗り移って、トム少年に恋をします。アンはトムには興味がないんですが、トムはアンが好きで、アンに乗り移ったセシーもトムが好き、という関係性です。アンの身体に乗り移ったセシーとトムは、いい雰囲気になります。最後にセシーは、セシー自身の家をトムに教えて、アンの身体から離脱します。ちょっと長くなりましたが、そんなあらすじになっています」

     

    残響「最初の1行目から本当に、情景描写で文章が展開していくのがいいですね。筆がノッてる。『空高く、谷を見おろし、星空の下、河の上、池の上、道路の上を、セシーは飛んだ。春先の風のように姿は見えず、夜明けの野原からたちのぼるクローバーの息吹きのようにかぐわしく、セシーは飛んだ』」

     

    fee「いいですねぇ。じっくり味わいたくなるような文章ですね」

     

    残響「しかも、セシーとアンの百合ですよ!」

     

    fee「いや、そういう話じゃないですけどねw」

     

    残響「アンの身体に乗り移ったセシー。アンは最初抵抗するも、段々……」

     

    fee「セシーが好きなのはトムですよw」

     

    残響「トムなんてどうでもええねん! セシーとアン、二人の世界が展開されているんですから、トムなんてどうでもいいんですよ!」

     

    fee「じゃあそれは、残響さんが二次創作ということで書いてくださいw 書くならこのブログからリンク張りますよw」

     

    残響「じゃあタイトルは『五月の魔女』で。うわー安直」

     

    fee「それで思ったんですけど、『四月の魔女』ってタイトルは良いですね。これが『八月の魔女』だと違う気がする」

     

    残響「確かに違いますね」

     

    fee「こういう話はやっぱり春か秋が似合うかな。夏や冬じゃ違いますよね。春一択かな」

     

    残響「春でしょう」

     

    fee「で、ですね。これ、かんっぺきに少女漫画の世界ですよね」

     

    残響「わかりますw」

     

    fee「ノリノリで書いている感じがします。瑞々しさがとても良い」

     

    残響「青春ですね」

     

    fee「ブラッドベリは少年主人公、少年の瑞々しい感性を描いた作品は多いんですが、少女は珍しい気もします。でも、『四月の魔女』を読んでいると、女の子主人公も全然いけますね。少女漫画家の萩尾望都さんが、ブラッドベリの短編をいくつか漫画化しているんですが、残念ながら『四月の魔女』は入っていません。この短編集の中だと『霧笛』は漫画化されていて、というのは余談ですが……」

     

    残響「『四月の魔女』は大島弓子か、いっそ陸奥A子がいいかな。萩尾望都とか大島弓子とかは『花の24年組』と言われ、少女漫画古典黄金期の…………」

     

    fee「少女漫画にも興味があるので、このままお話を伺いたい気もしますが、とりあえず『四月の魔女』の話をしましょうw」

     

    残響「わかりましたw」

     

    fee「さて、セシーはトムが好きで、トムはアンが好き。でも、アンはトムの事はどうでもいいんですよね」

     

    残響「そうですね。眼中にない感じw」

     

    fee「アンの身体に乗り移って、セシーはトムにアタックをかけるんですが、アンはもちろん抵抗します。身体を操られて、好きでもない相手と恋愛させられそうになっているんですから、当然っちゃ当然ですね」

     

    残響「そもそも、トムにあまり魅力を感じないんですけど。セシーはトムのどこがいいんだろう」

     

    fee「普通の男の子ですね。あまり描きこみはされていません。でも重要キャラですよ」

     

    残響「重要ですか?」

     

    fee「百合を求める残響さんには申し訳ないですが、トムが、というか、トム的な立場のキャラクターは重要ですよ」

     

    残響「トム的な立場、か。まぁ、それは確かに……」

     

    fee「セシーがトムを好きな気持ちがどこまで真剣かは謎ですけどね。そもそも会ったばかりでしょ?」

     

    残響「ですね。恋に恋してる感じがします」

     

    fee「そう。だってトムと会う前からP42 2行目「『恋をしたい』と、セシーは言った」と書いてありますし。別にトムじゃなくても良かったんですよ。まぁ、セシー的に一発NGじゃなかったのは確かでしょうけど」

     

    残響「アンの方はもっと描き込まれているのに。P44 6行目『すばらしい肉体だった、この少女の肉体は。ほっそりした象牙のような骨に〜』長くなるのであれですが、この後9行もアンの描写があります。セシー視点でアンの肉体をほめたたえているんです。こんなことをされちゃ、百合妄想するなっていう方が無理ですよ!」

     

    fee「あぁ、それでですか……」

     

    残響「なのに、全然そっちの方に行かなくて残念でしたけど」

     

    fee「ご愁傷さまですw しかし、セシーに乗り移られたアンはいい迷惑ですね。好きでもないトムと恋愛ごっこをさせられるしw」

     

    残響「ほんとですよw」

     

    fee「アンの迷惑も考えないし、勢いで恋にのぼせちゃうし、若いなぁって。自己中というか、なんというか。ただ、その若さが羨ましくもあり、瑞々しい少年少女をブラッドベリは実に巧く描くなぁとも思います

     

    残響「P59 13行目『まださっきの紙を持っている、トム? 何年後になっても、いつか、逢いに来てくれる? そのとき、わたしを思い出すかしら。わたしの顔をじっと見つめたら、最後にどこで逢ったか思い出してくれる? わたしが愛しているように、あなたもわたしを愛していたのよ。心の底から、いつまでも、わたしは愛し続けるわ』
    ぼく、このセシーのセリフがすごく好きです……」

     

    fee「冷静に考えれば明らかにおかしいんですけどね。いやいや会ったばかりで何言ってんだよwみたいな。ただ、そうは言ってもこのセリフは良いですよね。胸に響くというかなんというか」

     

    残響「そうですよ。このセリフだけじゃなく、作品全体に漂うポエジーというか、詩情のようなものを感じます。こういうのがfeeさんが好きなブラッドベリ的なものなのかなって」

     

    fee「セシーの自己中心的な感じもブラッドベリは狙っているとは思いますが、斜に構えたような読み方だけで終わらせるのは寂しいです。セシーの甘酸っぱい初恋を応援しながら、素直な気持ちで読む方がいいのかな。ところで、セシーの恋は実るんでしょうか? 最後、セシーはトムに自分の住所を渡しますが、トムはセシーのところに行くと思いますか?」

     

    残響「これ、わかんないんですよねぇ」

     

    fee「最初に読んだ時はセシーの完全な片思いかと思ったんです。トムはアンの事が好きなんだから、アンの身体に乗り移ったセシーが何を言ったって意味がないんじゃないかって。P54 13行目トムの台詞に『それで、ぼくはきみにまたあらためて恋をしちゃったんだ』とありますが、それも、成長したアンに惚れ直した、くらいの意味かと思ってたんです。でも、P54 10行目『そのあと、井戸のそばに立っていたとき、何かが変わったような気がした』というのは、かなり具体的な瞬間……つまり、アンの緩やかな成長ではなく、アンがいきなり変わったと、そうトムが認識しているように読めます」

     

    残響「P55 17行目のセシーの台詞『アンがあなたを愛さなくても、わたしは愛してるわ』というのは相当踏み込んでいますよね。そしてですよ。その後の文章。P56 4行目『たったいま、なんだか、どうも――男は目をこすった』これは、かなり怪しい文章ですよ。含みがあるというか。この時、トムの中で何が起こったんでしょう。ひょっとして、アンの顔に重なるように、薄っすらとセシーの姿が見えたのかもしれません」

     

    fee「最後、P60 5行目『そのてのひらに小さな紙片があった。ゆっくり、ゆっくりと、何分の一インチかずつ、指が動き、やがて紙片を握りしめた』。これもね。最初は、ぎゅって握りしめた……まぁこの時、トムは寝ているわけですけど、ゴミか何かのように握りしめた。それで紙はしわくちゃになって、セシーの住所は読めなくなってしまった。というふうに読んだんですよ」

     

    残響「確かにそう読めるんです。でも、決意を込めて、『よし、行くぞ』と。セシーを離さない、そんな決意を込めて、セシーの住所を握りしめたのかもしれません。ブラッドベリは、敢えてどちらにも読めるように、慎重に慎重に書いているように思えます」

     

    fee「そうですね。セシーの恋がどうなったかは読者の想像に委ねると、そういうことですよね」

     

    残響「きっとセシーの恋は実りますよ。セシーの家を訪ねるのは、トムじゃなくてアンかもしれませんが……」

     

    fee「百合の話はもういいからw」


     

     

    第3回に続く……(「黒白対抗戦」など)

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